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220.000Hz ホラーナイト

 ビールを持ってパソコンの前に座ると、既に今日のメインである企画が始まっていて、画面には「ホラーナイト」と表示されていた。

「……の『フュージョンラジオ』では、絶対にホラーをテーマにしようと決めていました。私は怪異を信じているんですけど、霊感がなくて、それを感じることができないんです。だから、様々な怖い話を聞きたいなんてことを真冬でも話していたら、たくさんのメールが来まして、今夜はそれを少しでも多く紹介したいと思います!」

 途中からしか聞けなかったけど、純が何を言ったのかは大体わかった。純はホラーが大好きなようで、季節に関係なく、雑談で怖い話をすることが頻繁にあった。

 ホラーが苦手な人もいるため、普段の配信では避けるべきじゃないかと注意したこともあった。でも、純はちょっとした話題からホラーに繋げてしまう人で、それこそ、この世界をホラーや怪異と呼ばれるものと「融合」することが、このラジオの目的なんじゃないかと思えるほどだった。そして、それだけホラーが好きならしょうがないと、私は注意するのをやめた。

 といいつつ、私も純と同じで、ホラーが大好きだ。ただ、私の恐怖体験というと、ストーカー被害にあったという、人によるものしかない。そもそも霊感がないため、得体の知れない怪異による恐怖体験とは、一切縁がない。それでも……というより、だから私はホラーが好きなんだと思う。

 こうした、霊感がないからこそホラーが好きというのは、私や純だけでなく、多くのホラー好きに共通したことのように思っている。というのも、実際に霊感があるとしたら、とにかく怖いという気持ちが強くなり、とてもホラーなど見る気になれないだろうと感じているからだ。

 そんなことを思いつつ、私はキーボードを叩いた。


●<マナミ>: ホラーナイト、楽しみにしていました!

●: ホラーナイトキタ――(゜∀゜)――!!

●: 怖いのは苦手だけど、がんばって聞くよ

●<d¥>: 私もメールを送らせていただきました。

●: 自分も苦手ですけど、皆さんがいれば大丈夫と信じて、聞かせてもらいます


 コメントを見ていると、純のホラー好きが周知の事実になっていることを強く感じた。

「私が配信を始めたのは去年の秋頃でしたけど、その時からホラーナイトはやりたかったんですよね。でも、やっぱりやるなら夏と決めていたので、今夜できるのは本当に嬉しいです」

 そんな純の言葉から、私は今夜の配信が純にとって最後の配信になるのだろうと改めて感じた。最後に、ずっとやりたかったことをやって終わりにする。そうして配信を卒業した配信者も多く知っているし、純もその一人になるのだろう。

 そう思うと、色々と感慨深くなったけど、今はとにかく配信を盛り上げようと思った。


●<マナミ>: 私は恐怖体験とか全然ないので、メールは送らなかったんですけど、どんな話が聞けるか楽しみです!

●: ここ、何だかんだホラー好き多いよな。まあ、普段から聞かされたせいで厳選されたんだろうけどw

●: 常連さん、ほとんど来ないけど、気付いてないのかなー?

●<マナミ>: まあ、私達で盛り上げましょう! ホラーを盛り上げるって、何か変ですけどね


 コメントしつつ、今のところ常連は私と<d¥>だけで、他はみんな匿名だ。まあ、匿名の常連というのもいるけど、やはり寂しいと感じてしまった。

「それじゃあ、まず私から話すね。といっても、実体験ではなく、だん……知り合いから聞いた話になるんだけど、その知り合いの弟が大学生で……イニシャルでKとします。そのKが、こんな話をしてくれたそうです」

 正直なところ、純はそこまで話が上手じゃないので、これまでも様々な怪談などを聞いたけど、そこまで怖いと感じることはなかった。むしろそれが、ホラー好きでない人……それこそホラーが苦手な人にも受け入れられ、リスナーを集めるきっかけになっているように今更感じた。

「大学で、Kが入っているサークルの生徒が四人ほど行方不明になって、何か事件に巻き込まれたのではないかと話題になったそうです。それからしばらくして、たった一人、Aという男子だけ行方が明らかになり、家に閉じこもっていることがわかったんです。それで、KはAと友人だったため、家までお見舞いに行きました」

 今日の純は、少し声色も変えていて、私は思わず聞き入ってしまった。

「Aの話によると、肝試しで心霊スポットへ行った際、そこで知り合った人から教えてもらった遊びをやったとのことでした。ただ、その内容は聞いてもよくわからなくて、かくれんぼのようなものをしていたとか、そんな説明しか聞けなかったそうです」

 心霊スポットで誰かと知り合うのも、その知り合った人から聞いた遊びをするというのも、とにかくおかしいという感想しか持てなかった。

「それと、Aが暮らす部屋は異常で、まずほとんど明かりをつけていなくて、薄暗かったそうです。それと、これはどんな意味があったのか、ブラシか何かで雑に塗りたくったような形で、壁が黒く塗られていたようです。それだけでなく、ちょっとした雑貨の中にも黒く塗られているものがあって、そんな光景を目の当たりにしたKは、とにかく不気味だと感じたそうです」


●: それは確かに不気味……

●: 何か今日は気合入ってるのか怖くね?


 そんなコメントが流れるぐらい、純の話は、私も不気味だと感じた。

「その後、Aはまた行方不明になり、現在もどこへ行ったのかわからないそうです。ちなみに、Kは後ほど気付いたそうですが、Aが黒く塗っていた物は、すべて白い物でした。それはまるで、Aが白色を避けているかのようで、どんな意味があったのだろうかと、Kは今も疑問を持っているようです。……以上です」


●: こっわ

●: やばい、今日は寝られないかもしれないです……

●: ((((;゜Д゜))))ガクガクブルブル

●<マナミ>: よくわからないのが不気味ですね

●: 怖くて寝られないなら、自分が添い寝しますというか、むしろ添い寝してください、お願いします!


 ビールを飲みつつ、適当に聞けばいいと油断していたせいもあって、普通にゾッとしてしまった。

「この話、大学で何やら噂になっているとも聞いて、もしかしたら、マナミさんやd¥さんが何か知らないかと思って、この話をチョイスしてみたんだけど、どうかな?」

 そんな質問をされたが、少なくとも私は初めて聞く話だった。


●<マナミ>: 私は初めて聞きます

●<d¥>: 私も知らないです。


「……そうなんだ。ここで話せば、何か手掛かりがあると思ったんだけど、残念だね」

 どこか、純が探りを入れているような感覚があって、私は戸惑ってしまった。ただ、何でそんな風に感じたのかもわからなくて、気のせいだろうと考えないことにした。

「心霊好きの私が言うのもおかしいけど、心霊スポットというのはこんな話だけでなく、人とのトラブルも多いと聞くし、どこか肝試しに行こうなんて思っている人は、尚更気を付けてください」

 いわゆる、ヒトコワというものだけど、怪異よりも人の方が怖いなんて話はたくさんある。というか、私が体験した、ストーカー被害の話などもそれに当たる。

 それだけでなく、高校生の時だったか、近場の心霊スポットへ遊びに行った男子達が、突如やってきた暴走族らしき人達に追いかけられ、必死に自転車で逃げたと話していたのを聞いた記憶がある。そして、私はその話を聞いてから、心霊スポットへ行きたいという考えがなくなった。

「あと、この話は恐らくコックリさんとか、最近……といっても古いけど、ひとりかくれんぼのような降霊術だったのかもしれないね。こういった降霊術は本当に危険だと聞くし、興味本位でやらないようにしてね」

 何だか、随分とあっさりした感じでそう言われ、私は上手く頭に入ってこなかった。ただ、こんなことも純の配信では日常茶飯事だ。

 その時、突然腹が鳴った。そして、こんな時間に何か食べたら太るなんて考えを持ちつつ、その分動けばいいと言い訳して、私は買い溜めしているポテトチップスを一袋開けた。

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