表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
14/15

1975.533Hz 聞こえる?

 またしばらくの間、純の姉は様子をうかがうように待っていたけど、コメントもなくなり、膠着状態のような形になっていた。

「これ以上、シロって奴の話なんて聞いてもしょうがねえよ。もう準備はできてるし、始めようぜ」

「そうだね。それじゃあ……えっと、クロだっけ?」

「おう、クロだぜ。てか、そっちは何か決めねえのかよ?」

「別に純でいいよ。というか、純と名乗らせて」

 その言葉は、今だけでも純がこの場にいるかのように扱ってほしいといった、そんな意図を感じた。

「わかったよ。それで、初めてもいいんだよな?」

「うん、ここからはクロに任せるよ」

 二人がそんなことを言ったけど、何をしようとしているのか、見当も付かなかった。

「実は、このラジオを聞いてるみんなに、俺からも謝ることがある。今回、いつものシステムから修正して、この配信を見ている人全員の居場所なんかを逆探知で特定できるようにしたんだ」

 何を言われたのか、しっかり理解するまでに数秒ほどかかった。そして、理解できたと同時に、理解したくないと強く思った。


●: え!?

●: 私の場所もわかったってことですか!?

●: 自分はそれで純さんが会いに来てくれるなら、構わないです。むしろ来てください

●: 個人情報を抜くのは犯罪だろうが!


 私はまた家を特定されたと知り、どうすればいいかと混乱してしまった。またストーカーのような者が来た時、今度は両親のように守ってくれる人はいない。だからといって、また引っ越すとなれば、いよいよ両親から勘当されるかもしれない。本当に大変なことになってしまった。

「そんな騒ぐんじゃねえって。シロがどこにいるか特定するために必要だったんだよ。他の奴の情報は悪用しねえし、これが解決したら自首するから許してくれ」

 そんなことを言っているのがどうにか耳に入り、私は少しずつ冷静さを取り戻した。

「最初、シロが来なくて焦ったけど、ちゃんと来てくれて安心したぜ。あと、ここまでの時間を利用して、シロについて家の場所だけじゃなくて、個人情報は大体手に入れたからな。もう逃げられねえから、覚悟しろよ」

 このクロと名乗る男性は、言葉遣いも乱暴だし、ヤクザなのだろうかと感じた。ただ、配信環境を構築するなどITの技術が優れているだけでなく、純の姉と結婚しているわけだし、そんな裏家業の人間ということは恐らくないんだろう。

「てか、さっきからコメントねえけど、ラジオは見てるみてえだな。今、俺はシロの家の前にいるって言ったら、さすがにビビるか?」

 それは、ハッタリなどではなく、本当のことなんだろう。そんな説得力が、その言葉にはあった。


●: d¥かシロか知らんけど、大ピンチじゃん

●: というか、本当にコメントないし、行方不明になった人、d¥さんが何かしたってこと?

●: 言ってくれれば、自分もd¥さんの部屋に行ったのに、残念です

●: てか、このクロって人もやってることやばいよ……


「純が配信してくれてる間、俺はシロの情報を集めながら、シロの家へ向かってたんだぜ?」

「それだけじゃなくて、私の配信を聞きながら、ゴチャゴチャと文句も言ってきたじゃない」

「それは、おまえがバレそうな発言をするからだよ。マジでヒヤヒヤしたんだからな」

「ごめんごめん。でも、クロがシロの家に着くまでの時間稼ぎはちゃんとできたでしょ?」

「ああ、完璧だ。てか、電気を消したって、中にいるのはわかってるから無駄だぜ? シロ、おまえは今も配信を見てて、しっかり家にいるとわかってるからな。何せ、こっちはさっき言ったとおり、逆探知できるからな」

 クロは脅すような口調でそう言った。それでも、<シロ>……ここでは<d¥>のコメントはなかった。

「俺達の目的は、シロから話を聞くことだ。まあ、話の内容によってはそれだけで済ませねえけど、まずは素直に部屋から出てこい。出てこねえなら、どんな手段を使ってでも入るからな。こっちが既に犯罪を犯してるのは知ってるだろ? それに不法侵入が加わるぐれえなら、大したことねえからな」

 実際のところ、多くの人が行方不明になったことに<シロ>が関係しているかはわからない。関係しているとしても、意図的に行ったことなのか、意図せずに起こったことなのか、それだってわかっていない。そうしたことを思い、私はキーボードを叩いた。


●<マナミ>: あくまで、シロさんから話を聞くことが目的ですよね? そんな高圧的な態度は良くないと思います


 こんなコメントをして、私も無事では済まないかもしれないと不安があったけど、純が配信を始めた頃からの常連同士だし、シロのことを庇いたくなった。

「マナミさんは優しいよね。いつも妹が話していたよ。何か困った時、いつもマナミさんが助けてくれる。今日は私も助けてもらったし……妹のことで、色々とありがとう」

 不意にそんなことを言われ、純からそんな風に思われていたのかと、胸が熱くなった。

「ただ、私にとっても妹は大事なの。だから、妹の行方を知っているはずのシロさんに、どんな手段を使ってでも話を聞きたいの。理解してもらえないかな?」

 そう言われてしまうと、私はもう何も言えなかった。

「それじゃあ、十秒以内に出てこなかったら、勝手に入るからな。いいか? いーち、にーい、さーん……」

 それから、クロはゆっくりと数を数えていった。その数え方は、かくれんぼの鬼がするような感じだった。

「きゅーう、じゅう! じゃあ、入るからな。……ん?」

 そこで、クロは何か動揺したような声を上げた。

「どうしたの?」

「いや、まずはドアをガチャガチャやってビビらせようとしたら、ドアの鍵がかかってなくて、開いたんだよ」

 こんな状況で、ドアの鍵をかけないなんてことがあるんだろうか。というか、こんな状況じゃなくても、普段家の鍵はかけておくものだ。

「まあ、いいか。中に入るぜ?」

「クロ、気を付けてね」

「安心しろって。念のためライトも持ってきたから、闇討ちの心配もねえし、大丈夫だ」

 声しか聞こえないせいか、妙な緊迫感があり、私は聞き入っていた。


●: wktk

●: シロ、ヾ(`ε´)ノ◎ー◎ タイホタイホー!

●: 自分を捕まえてくれる女性はいませんか? 一生奴隷になります

●: 何か事件の匂いもするし、本当に気を付けてほしい

●: カメラとかあったら、リアルタイムで色々見れて良かったのにー


 もはや、コメントの方は、ふざける人ばかりになっていた。しかし、それはしょうがないことだろう。私はコメントする気などなくなり、ただどうなるかを見届けるつもりだ。そう考える人が増えてきたんだと思う。

「いや、何かおかしくねえか?」

 不意に、クロはそんなことを言った。

「え、どうしたの?」

「この家、瓦礫やゴミだらけで、どう見ても人なんか住んでねえよ。いや、配信を見てるのは、ここからで間違いねえんだ」

 それから、とても家の中を歩いているとは思えない、物が倒れる音や、ビニール袋のような物を踏む音、さらには何か物を蹴飛ばしたような音が聞こえた。

「おいおい、ふざけんなよ。何の悪ふざけだ?」

 そして、クロはどこか怯えた様子で、そんなことを言った。

「さっきから何が起こっているの? ちゃんと説明して」

「俺もわからねえよ。家の中は、まるで廃墟みてえだ。それで、どこから配信を見てるか逆探知すると、俺の目の前にある……壊れたパソコンに辿り着くんだよ」

 シロの行方を捜して家に行ったはずなのに、そこは廃墟だし、配信を見ているはずのパソコンも壊れている。そんな状況に対して、私は異常以外の言葉が見つからなかった。

「何かおかしいなら、今すぐ逃げて。もしかしたら、罠かもしれないし……」

「何だ? 俺を罠にハメるなんて、やるじゃねえか。完全にブチ切れた。今からシロの個人情報を公開してやる」

「落ち着いて! とにかく逃げて!」

「罠にハマったってことなら、逃げても無駄だろ。じゃあ、また十秒数えるぜ? それまでに出てきたら許してやる。いーち、にーい……」

 純の静止を聞くことなく、またクロは数を数えていった。

「じゅう! じゃあ、シロの個人情報を公開してやるからな!」

 家などを特定された経験がある私としては、個人情報の公開なんて、考えただけで胸が苦しくなった。しかし、もう止めようがなかった。


●: 個人情報キタ――(゜∀゜)――!!

●: さすがに個人情報の公開はまずいって!

●: 個人情報は自分だけに聞かせてください

●: まあ、ここまで何の返事もしないd¥だって悪くない?

●: 私も行方不明になった友人がいます。それについて何も言わないなら、罰を与えるべきです


 そんなコメントを見て、ますます止めようがないと感じ、私は完全に諦めた。

「シロは2001年4月1日に生まれ、今は女子大生だ。大学も、バイト先もわかってるからな」

 そうして、クロは順にシロの個人情報を話していった。大学の名前、現在アルバイトをしている喫茶店の名前、両親が既に亡くなっていること、交流関係。それは、シロ自身だけでなく、周りの人にまで迷惑をかけるような内容で、私は聞きたくなかった。

 それでも、どこか引っかかる部分があり、話を聞き続けた。というのも、シロがアルバイトをしている喫茶店と、私がアルバイトをしている喫茶店が同じだったからだ。

「そうだ、おまえの名前を言ってなかったな。てか、シロってハンドルネーム、まんまじゃねえか」

 それから、クロの話を聞いているうちに、そんな人が身近にいたことを思い出してきた。そして、私は「虎島とらじましろ」という名前を思い出した。

「おまえの名前は、虎島白だ!」

 私が思い出したのとほぼ同時のタイミングで、クロが同じ名前を言った。そのことに驚いて、少しだけ呆然としてしまったけど、それより伝えないといけないことがあり、私は急いでキーボードを叩いた。


●<マナミ>: おかしいです! 白はもう亡くなっています!


 それだけコメントした後、私はまだまだ伝えたいことがあり、キーボードを叩き続けた。

「マナミさん、それはどういうことですか?」


●<マナミ>: 今夜話した、自殺してしまった友人が虎島白なんです!


 私の好きな人が好きになった人。私自身も好きになった人。それなのに、突然自殺してしまった人。それが、虎島白だ。

 通っている大学も、アルバイト先の喫茶店も、クロが話したとおりだし、クロが特定した<シロ>は、今はもういない、虎島白で間違いなかった。

「ちょっと待って! クロ、今すぐそこから離れて! マナミさんが、虎島白はもう亡くなったって言っているの!」

 純がそう言ったが、クロからの返事はなかった。

「ねえ、返事をしてよ! 私の声、聞こえる!?」

「大丈夫だ。聞こえてる」

 そんな声が返ってきて、純は安心した様子で息をついた。それに合わせて、私も思わず息をついた。

「だから何度も言うなよ。聞こえるって」

 ただ、そんなクロの言葉を聞いて、何か変だと思った。

「えっと、何を言っているの?」

「さっきから何度も『聞こえる?』しか言ってねえけど、どうしたんだ? 気持ち悪いからやめろ!」

「クロ、私の言うとおりにして! 今すぐ、そこから出て!」

 純がそう言ったが、クロからは何の返事もなかった。その時点で、私は気付いた。

 今、クロは「聞こえる?」と繰り返し響く声しか、耳に入っていないんだろう。

「だから、聞こえるって……何だ?」

 クロがそう言った直後、急に音が消えた。それはクロの声が消えただけでなく、通話に使っていた機材によるものなのか、これまでノイズ音やちょっとした風の音などが常に入っていたのに、それも全部消えて、てっきり純がクロとの通話を切ったのかと思った。

「ちょっと、どうしたの?」

 しかし、純がそんな声をかけたところで、クロとの電話を切ったわけじゃないとわかった。

 今も通話は繋いでいる。それなのに、クロと話ができない。こんなの異常そのものだった。


●: いや、マジでドッキリならドッキリって言ってほしい

●: 自分だけでもいいので、何が起こっているか教えてください

●: これが演出だっていうなら、それはそれでいいから、ネタばらしして


 そんなコメントが流れたけど、私はそうじゃないと思った。

「クロ、私の声、聞こえる?」

 純がそう言ったけど、何の返事もなかった。ただ、かすかに何か言っているように聞こえて、私は耳を傾けた。それは、繰り返し言っていて、少しずつ大きくなっているように感じた。そして、それが何を言っているのか、気付いた。

「聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる?」

 鳥肌が立ちつつ、私はキーボードを叩こうとしたものの、パソコンがフリーズしてしまったのか、キーボードを叩いても、マウスを動かしても、何の反応もなかった。ただ、「聞こえる?」と問いかける声だけは聞こえ続けていて、意味がわからなかった。

 そして、画面に目をやると、少しずつ画面が真っ白になっていった。フリーズでこんな現象になることなんて初めてだ。だから、私はとにかくこの状況を止めるため、故障するかもしれないと思いつつ、パソコンとモニターのコンセントを抜いた。

 それからモニターに目をやると、画面は消えていたし、「聞こえる?」という声も止まっていた。私は一息つくと、今まで起こっていたことを考えることなく、とにかく気持ちを落ち着かせた。

 今夜は酒を飲みすぎて、悪酔いという初めての経験をしていたのかもしれない。そんな風に考えると気分が楽になり、酔い覚ましに外を散歩しようという結論になった。

 はっきりいって、メチャクチャな考えになっていることは自覚している。ただ、外の空気を吸うなどして、気持ちを落ち着かせたい。そう思って、Tシャツとジーンズに着替えた。

「聞こえる?」

 不意にそんな声が聞こえた気がして、私は空耳だと首を振った。パソコンとモニターのコンセントは先ほど抜いた。こんな声が聞こえるわけがない。そう思いつつ顔を向けたところで、鳥肌が立った。

 コンセントを繋いでいないのに、モニターには真っ白な画面が表示されていた。それに空耳じゃなくて、「聞こえる?」という声は、ずっと聞こえている。

 次の瞬間、画面から何か白い塊が出てきたように見えて、私は外へ飛び出した。もはや鍵をかける余裕もないまま、とにかくその場を離れたかった。


 そうして、私は家に戻ることなく、ネットカフェを転々とする生活を送っている。大学やアルバイト先の喫茶店にも行っていない。それなのに、時々「聞こえる?」という声が聞こえてきて、その度に耳を塞いでいる。でも、この声は耳を塞いでも何故か聞こえてくる。

 だから、私は次に「聞こえる?」という声が聞こえたら、「聞こえる」と返事したい。

 それは、フュージョンラジオが目的にしていた「融合」だ。

 正体のわからない、怪異であっても構わない。何度も「聞こえる?」と言ってくれる何かと、私は融合したい。こんな風に思うのは、何度もその声を聞いたからかもしれない。

 私がこうしたことを「あなた」に伝えたのは、もしかしたらこの世界から消えてしまうかもしれない私を、「あなた」の世界に融合してほしいからだ。

 こんなバカな考えを持つ人がいたんだとか、その程度の考えでいい。私がいたことを知ってくれるだけで、私は「あなた」の世界と融合して、この世界から消えても、「あなた」の世界に居続けることができると思う。

 ちなみに、これを書いている今、「聞こえる?」という声が聞こえているので、今すぐ行くつもりだ。その前に、「あなた」に質問があります。


 私の言葉は……














 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる? 聞こえる?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ