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1760.000Hz 真相

 純はまた少しの間黙った後、かすかにため息の音が聞こえた。

「d¥さん、何を言っているんですか? 私は純ですよ?」


●<d¥>: そんなこと、ありえません。


「何故ありえないと思うんですか?」

 純がそう言ったが、<d¥>からのコメントはなかった。代わりに、他のリスナーが反応するようにコメントを打っているようで、いくつか流れた。


●: えっと、何の話ですかね?

●: 何か、不穏な感じで怖いんだけど

●: さっきからオフ会について聞いても答えてくれませんでしたし、何があったんですか? このコメントも表示されないと思いますけど、純さんには届くと信じます

●: 何か、盛り上がってキタ――(゜∀゜)――!!

●: d¥さんと組んで、ドッキリでもしてる?

●: あれ? さっきまで表示されなかったのに、私のコメントも表示されましたね

●: オフ会の話、NGにしてるみたいだったもんな


 そんなコメントを目にしつつ、私も何かコメントしようと思ったけど、上手く伝えたいことがまとめられなくて、やめておいた。それより、寝落ちした人ばかりかと思っていたけど、コメントしていなかっただけで、ずっと見ていたようだ。そして、何か起こっていると察した人が次々とコメントしていくので、コメントの流れる速度が急に速くなった。

「d¥さん、気になっている人もいるので、オフ会の話をしましょう。d¥さんもご存知ですよね? 五月のオフ会に参加した人は、全員行方不明です。行方不明になっていないのは、d¥さんと私だけですよ」

 今夜、オフ会に関するコメントで、行方不明になっている人がいるといった内容のものがいくつかあった。しかし、これまではそうしたコメントに一切触れないどころか、削除していたはずだ。それが今、純の口からはっきりと言葉にされて、私は戸惑いしかなかった。

「今夜のフュージョンラジオで、オフ会に参加した常連のコメントがないこと。77さんのように動画の投稿が止まってしまった方がいること。何故、そうなっているのか……d¥さん、じっくり話しましょう」

 また、純は威圧するような口調だった。


●<d¥>: 本当にあなたは誰ですか?


「私は純ですよ? 納得できませんか?」


●<d¥>: 絶対にありえません。


「何故、ありえないと言うんですか? 私は間違いなく純ですよ?」


●<d¥>: そんなこと、絶対に嘘です。


「嘘じゃないですよ? 私は純です」


●<d¥>: 全員、私が消しました。ここにいるはずがありません。


 最後のコメント、文字自体は目に入っていたけど、何を伝えているのか、理解するまでに少々の時間がかかった。そして、私は理解すると同時にキーボードを叩いた。


●<マナミ>: 全員消したって、どういう意味ですか?

●: これ、ドッキリなんだよね? さすがにマジじゃないよね?

●: 何かよくわからないけど、バトルだーO( `_´)乂(`_´ )O

●: 自分はケンカしている二人の間に挟まれたいです

●: やっぱり、行方不明になってる人、いると言ったじゃないですか

●: この状況でキモいコメント書くのはさすがに草


 どこか半信半疑だからだろう。ふざけるようなコメントも多く、カオスな感じになっていた。

「……全員消したって、もうみんな帰ってこないってこと?」

 ただ、純は緊迫したような声で、とても冗談を言っているようには聞こえなかった。もしもこれが演技なんだとしたら、普通に俳優……いや、声優になれる気がした。


●<d¥>: 何故、あなたは消えていないんですか?


「さあ、何でだと思いますか? 今から、私を消した場所まで行って、確認してみたらどうですか?」

 どこか、純は挑発するような雰囲気だった。先ほどから純の口調や雰囲気が珍しいというか、初めてのもので、そんな風にもできたのかと、私は驚いていた。

 それから、<d¥>の返事を待つように、純はしばらく黙っていた。


●<d¥>: そんなことをする必要はありません。消した人は、もうどこにもいません。いいえ、私の中にいます。


 どこか狂ってしまったかのような<d¥>のコメント。私だけでなく、他のリスナーも何を言えばいいかわからないのだろう。すっかりコメントがなくなってしまった。

「……うん、そうだね。もうこれ以上話しても無駄みたいだし、通話するね」

 純がそう言った後、あるソフトで通話をする際によく聞く通知音が響いた。それが止んだかと思うと、どこか外にいるかのような、風の音が入ってきた。

「ああ、聞こえるか?」

「うん、聞こえているよ。どうしよう、みんなには何て話そうか?」

「まず、俺が自己紹介すりゃいいだろ。リスナーの方も俺の声、聞いてんだろ?」

 突然、男性の声が聞こえてきて、少し戸惑いつつ、私はキーボードを叩いた。


●<マナミ>: 男性の方の声も聞こえます

●: 純の男かよ?

●: 純さん、自分というものがいながら、ひどいです

●: いや、マジで誰?


「おう、そっちのコメントも見えるし、問題ねえな。俺は……シロに対抗して、『クロ』とでも名乗ってやるか。純も俺のことはクロって呼んで、本名で呼ばねえようにしろよ」

「言われなくてもそうするよ。それより、みんな混乱しているから、早く話して」

「わかってるから、急かすんじゃねえよ。俺は、この配信のシステムを構築した人物って言えば、わかる奴も多いだろ。今まで……何かややこしいな。純ちゃんが俺達の話をよくしてたみてえだしな」

 そこまで言われて、私はピンときた。


<マナミ>: 純さんの姉さんの旦那さん……義理のお兄さんですか?

●: ああ、何か姉の旦那に配信環境を作ってもらったってよく言ってたな

●: 彼氏じゃなかったんですね。安心しました


 これまでの配信で、義理の兄が参加するようなことはなかったけど、話の流れで私はそうだろうと思った。

「おう、正解だぜ。てか、純も改めて紹介した方がいいんじゃねえか?」

「うん、そうだね。まず、今夜は皆さん、ごめんなさい。それと、楽しい時間を本当にありがとう。純がどれだけ素敵な仲間に囲まれていたかわかったし、途中からはついつい私も楽しく感じちゃって、少し素が出ちゃったね」

 純が何を言っているのか、私は意味がわからなかった。

 それから、純は少しだけ言葉に詰まった様子で黙った後、ため息が聞こえた。

「……私は、純じゃないです。今夜、私は純のふりをして、フュージョンラジオをしていたんです」

 そう言われた瞬間は驚いたけど、思い返してみれば、私は今夜のフュージョンラジオで、常にどこか違和感を覚えていた。その違和感の正体は、どうやらこれだったらしい。

「私は、純の姉です。こんなことをして、本当にごめんなさい。でも、こうしないといけない理由があったんです」

 純は姉と声が似ているとよく話していたけど、確かに似ていた。ただ、ところどころ言葉遣いやイントネーションが違っているので、よく聞いていれば、別人だとすぐにわかったかもしれない。

「私の妹、ここでは純と名乗っていましたけど、その妹が五月のオフ会に参加して以来、行方不明になりました。それで、私は旦那と一緒に純の行方を捜しました。しかし、今も純は行方不明のままです。ただ、調べていく中で、いくつか手掛かりを見つけたんです。それは、オフ会に参加した他の人も行方不明になっていること。唯一、d¥さんだけが行方不明になっていなくて、他の配信などに変わらず参加していること。これらのことから、d¥さんに話を聞きたいと思ったけど、これがd¥さんによるものだった場合、聞いたところで真面に答えてくれないだろうし、困っていました」

「そこで、純ちゃんのふりをしてフュージョンラジオをやればいいって、俺から提案したんだ。d¥が何か知ってるなら、行方不明のはずの純ちゃんがラジオをやるなんておかしいからな。そしたら、もっと前からシロって名前で活動してたことや、他のオフ会でも行方不明者が出てるなんて話が見つかった」

「さっきの話は、妹の知り合いでなく、私の知り合いから聞いたものです。これまで様々なオフ会で行方不明者が出ていて、そこにd¥……シロと呼ぶべきかな? そこにシロさんが参加していたことは、知り合いが調べたとおりだけど、さらに私と旦那で調べてみて、他にも行方不明者が出ていること。そして、そこにシロさん、あなたが参加していたことは、既にわかっているんです」

 二人の話から、今夜のフュージョンラジオは、<d¥>=<シロ>をおびき寄せる罠だったと気付いた。


●: 何かミステリーみたいになってきた!

●: いや、でも、d¥さんの周りで行方不明者が出てるって、どういうことですか?

●: 犯人は……オマエダ!( ゜д゜)σ

●: まだドッキリを疑う私がいます


 コメントは相変わらずカオスだけど、今起こっていることが事実でも、何かの演出でも、私は最後まで見届けることにした。

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