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1046.502Hz それは嘘か現実か

「それでは、次の話に行きましょう。続いては、さいはてさんからもらったメールを紹介します」

 画面には、「さいはてさんからもらった話」と表示された。この<さいはて>という名前も初めて見た。

「さいはてさんは、この配信のリスナーでなく、77さんの知り合いみたいですけど、私が怖い話を募集していると知って、メールをくれたんです。見ていないかもしれませんが、さいはてさん、メールありがとうございます」

 こうして知り合い経由で、リスナー以外からもメールが来るようになると、多少とはいえ有名になってきたと感じる人がいるだろう。少なくとも、私は配信をしていた時、他の配信者のリスナーなどが多く来るようになるにつれ、少しずつだけど有名になってきたと感じていた。

「この話は、怪異と呼ばれるものとは関係のない話かもしれません。でも、私はとても怖いと感じています。私は、平凡ながらも幸せに暮らせていると思います。それは、両親のおかげです。というのも、私が小学生の時、父がリストラに近い形で会社を辞め、自ら会社を興したのです。それはとても大変なことだったと思いますが、一切の苦労を見せることなく、両親は私を大切に育ててくれました。そのことには、心から感謝しています」

 私も、<さいはて>と同じで、両親には感謝しかない。幼い頃から、何不自由ないどころか、むしろ贅沢な暮らしをさせてもらっていたと、大人になった今ならわかる。それは現在進行形で、一人暮らしをする私にとって、両親からの仕送りは本当に助かっている。

 ストーカー被害にあった時、怖いという気持ちもあったけど、それよりも両親に迷惑をかけてしまったという罪悪感を強く持った。そんなことを考えていると、両親のことが恋しくなってしまい、私はそれを消すようにビールを飲んだ。

「そうして、私は二十歳を迎え、大人になることができました。という記憶は、すべて嘘だったんです」

 不意にそんなことを言われ、私は意味がわからなかった。

「私の父は会社を興したものの、以前いた会社から嫌がらせのようなものを受け、経営が上手くいかなかったんです。そして、とうとう先がない状況になってしまうと、一家心中を図りました。しかし、父は母を殺した後に自殺して、私一人が生き残る形になりました」

 私は急な話の変化に戸惑いつつ、キーボードを叩いた。


●: え、何の話?

●<マナミ>: ヒトコワ系ですかね?

●: 最初から不幸なのもあれだけど、幸せだと思ってたら違ったって、悲しすぎる


 他のリスナーも私と同じようで、動揺した様子のコメントが流れた。

「その後も私は生き続けました。両親が亡くなったこと、一家心中の生き残りであること、そんな現実は私を壊しました。そして、私は存在しているのかどうかすら、わからないような状態になりました。だから、私は自分が生きていることを少しでも証明しようと思いました。学校では、部長や委員長を務め、アルバイトができる歳になると、すぐにアルバイトも始めました。そうすることで、自分が生きていると証明するだけでなく、私自身が生きていることを自覚できたんです」

 話を聞いていると、胸が苦しくなるような、そんな感じがした。そして、改めて私は幸せなのだろうと実感できた。

「そうして、私は二十歳の誕生日を迎えた時、首を吊って自殺しました」


●: え!?

●: ふぁ!?

●<マナミ>: この話、いったい何の話なんですか?


 私だけでなく、他のリスナーも動揺しているようだった。最初に怪異と関係ないかもしれないなんて話があったけど、もはやそんな話でもないように感じた。

「それが私の人生でした。という記憶も……私は嘘だと思いたいんです」

 この<さいはて>という人が何を言っているのか、私はますますわからなくなった。というか、普通に混乱してきて、それこそ頭がおかしくなりそうだった。

「私は今も生きています。両親も生きています。父が一家心中を図ることもなければ、私が自殺することもありませんでした。それなのに、私はそんな現実が嘘で、先ほど書いた自殺してしまった私という嘘が現実のように思えてしまうんです」

 私が混乱するのも当たり前だ。この話をしている<さいはて>も、何が起こっているかわからなくて、混乱したまま、今回の話を送ったのだろう。だから、それを聞いた私や他のリスナーが混乱するのも、しょうがないことだった。


●: ワケガワカラナイヨ

●: これ、精神病の人の話じゃね?

●: 頭がおかしくなりそう……


 そんなコメントが流れるのを見ながら、私も同じ気持ちだという、妙な共感があった。

「私がこのように思い始めたのは、二十歳の誕生日を迎えた時だったと思います。それ以降、私は自分自身のことも、この世界のことも、よくわからなくなっています。それは時々、私も世界も嘘であるかのように感じるほどです。皆さんは、そんな風に感じること、ありますか? ……以上です」

 そんな感じで話が終わってしまい、私はただただ戸惑うことしかできなかった。


●: やっぱり、精神病の人の話じゃね?

●: 夢と現実がごっちゃになるなんて話あるけど、それに近い話なのかな?

●: さすがに世界まで嘘だというのは……少し心配ですね


 コメントを見て、怪異とは関係なく、ただ精神的に何かしらか問題がある人の話なのかと私も感じた。その分、まったく意味がわからなくて、別の怖さがあった。

「この話を紹介したのは、私の中で思い当たることがあったからです。少しだけ、その話もしたいと思います」

 純はそんな前置きをした後、話を始めた。

「さいはてさんのように、ここまで現実がわからなくなるというのは珍しいけど、こうした症状自体は思春期の頃などになる人が多いんです。特に学生などだと、将来のことに不安を覚えた際、自分は何になりたいかという考えから、そもそも今の自分は何なのかと疑問を持つことがあります。そうした時、この世界とは別の世界で生きる自分自身を想像して、それで現実がわからなくなるというケースもあるんです」

 何だか、純はカウンセラーのようだった。でも、思い返してみれば、純の姉はカウンセラーのようなことをしているなんて話を純本人がしていたし、その影響を少なからず受けているのだろう。

「例えば、私自身が経験していることとして、定期的に同じ夢……というより、こことは別の世界で生きる私自身の夢を見ます。ただ、夢の内容はいつも覚えていないんです。目を覚ました時、またあの世界の夢を見たと思いつつ、具体的にどんな夢だったか、思い出そうとしても思い出せない。これは、目を覚ました時、何か夢を見た覚えはあるけど、夢の内容がわからないという状態を想像してもらえると、わかりやすいかと思います」

 純の言うとおり、夢を見たことは覚えているけど、内容は覚えていないという経験を私もしている。同じような夢を前に見た気がするといった経験も、かなりある気がする。

「どこか今の生活に疑問や不安を感じている人なんて、ほとんどだと思います。そうした心理から、別の世界で生きる自分自身の夢を見るのかもしれません。ただ、そうして夢を見ても、夢を見たことすら覚えていない時が結構あります。もしかしたら、さいはてさんは、私と同じように別の世界で生きる自分自身の夢を何度も見ながら、それを自覚していなかったのではないでしょうか? ただ、ある日何かのきっかけで夢の内容を自覚した結果、夢と現実がごちゃ混ぜになってしまい、混乱しているんだと思います」

 自分自身の記憶がおかしくなり、何が現実なのかわからなくなる。それは、怪異とは違った恐怖を感じた。

 今、ここにいる私自身だけでなく、世界そのものが現実のものではなく、実際には存在しない。そんなことあるわけないと思いたいけど、その可能性を考えると、いくつか思い当たる話があった。

 例えば、この世界は誰かの想像した世界で、現実には存在しないのではないかといった話だ。漫画、アニメ、映画、小説、種類は色々とあるけど、そこに登場する人物達は、自分のいる世界が現実でないと気付いている様子はない。

 そう考えた時、この世界も、私やみんなも、現実に存在しない可能性は十分あるような気がしてきた。こうした考えは、この世界が仮想現実だといった内容の映画がヒットしたことで、一時期友人達と話した話題でもある。

 ただ、実際にこの世界が現実のものじゃないとしても、私達にはどうすることもできないし、とにかく今までどおり、生きていくしかないとか、そんな緩い結論で終わってしまった。

「一応、この辺りのことは、さいはてさん本人にメールなどで知らせています。自分自身のことがわからないというのは、大きな不安や恐怖だと思うので、それが少しでも改善されていたらと思います」


●<マナミ>: 怪異とか関係なく、心配ですね

●: 狂っていく感じで、私はこの話苦手かも

●: こっちまで混乱したもんな


 よくある恐怖体験とは違った話なので、コメントを見る限り、他のリスナーも混乱しているようだ。私自身も妙にドキドキしたし、気持ちを落ち着かせようと、ビールを飲んだ後、あたりめをかじった。

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