96、ガメイ村 〜どこか似ている二人
「ヴァン、おはようっ」
スキル『木工職人』を使って、店の扉を直し終えた頃、フロリスちゃんが起きてきた。
「おはようございます、フロリス様。今朝は早いですね」
「うん? 今朝は、って何よっ」
フロリスちゃんは、ぷくりと頬を膨らませつつ、目は泳いでいるようだ。寝坊がちな自覚はあるんだね。
「ふふっ、失礼しました。僕は徹夜したので、朝食後に少し仮眠させてもらいますね」
「ええっ!? 徹夜で料理の下準備をしていたのっ?」
この様子だと、夜中の襲撃には気づいてないみたいだな。
「作り置きできるものをたくさん作って、簡易魔法袋に入れてあります」
「簡易魔法袋かぁ。それ、賢いねっ。お客様が少なくても無駄にならないわっ。私も作り置きを……」
「フロリス様は、作り置きできないですよ。飾り付けた状態の皿を魔法袋に入れても、鮮度は維持されますけど、出し入れ時に傾いてしまうから……」
「うん? あー、そっか。私は飾り付け担当だったわ。そうね、私の仕事は作り置きできないわねぇ」
上手くごまかせたかな? フロリスちゃんの作り置き料理なんて……絶対に阻止しなければ!
「テーブルのお花も、入れ替える方がいいと思います。食べ放題だし、料理のソースが付いてしまっているかもしれませんし」
「あら? テーブル上のものはどうしたの? お花もないわ」
あっ、昨夜、襲撃に備えて、ワレモノは2階に移動させたんだっけ。
「確か、2階の厨房へ持って行ったような気がします。店の掃除の邪魔になるかなって思って」
「ふぅん、確かにそうね。ヴァン、それならテーブルクロスも、替える方がいいわよね?」
「そうですね。テーブルクロスは一応拭きましたが、気づかない所に汚れが付いているかもしれません。回収しましょうか」
そう尋ねると、フロリスちゃんはコクリと頷き、僕をジッと凝視している。あー、農家の技能を使えということだな。
僕は、雑草を引き抜く魔法を応用して、各テーブルのテーブルクロスを空中に浮かせると、こちらへと引き寄せた。テーブルクロスは、僕の足元に雑多に積み上げられた。
「ヴァン! それ、やっぱりよくわかんないよ。私、できないのかな?」
「ゆるい牽引魔法です。弱い重力魔法と……」
「あっ! わかったわっ!」
フロリスちゃんは、僕の足元からテーブルクロスの山を引き寄せることに成功している。しかも、かなりのスピードだ。
「フロリス様、もっと弱い魔力の方が上手くいきます。その力だと、テーブルごと引き寄せてしまいます」
「えーっ、これより弱い魔力って、逆に難しいよぉ」
「農家は、魔力量が少ないから、逆にこういうことが上手いんです。マルクも、薬草を引き抜く魔法を教えたら、根こそぎ集めて、やり過ぎてました」
「うふふ、マルクさんにも難しいなら、私が苦戦するのは当然ね」
フロリスちゃんは、うんうんと何度も頷きつつ、集めたテーブルクロスを抱え、足取り軽く、2階へと戻っていく。ふふっ、面白い。僕にできて彼女にできないことが悔しいみたいだけど、マルクにできないなら納得するんだね。
2階では、国王様が朝食を作っていた。僕が1階の扉を直していたから、気を利かせてくれたのだろうか。黒服のブラウンさんが、テーブルのセットをしている。あっ、アラン様もいるね。
夜中の襲撃の件は、闇の妖精バンシーから国王様に、完全中継されていたらしい。盗賊達には帰ったと見せかけていたクリスティさん達は、3階の空き部屋に転移していたそうだ。
「あれ? フリックが朝食を作ってるの?」
「当たり前だろ。腹が減ったら、食うだろ」
「でも、ブラウン先生もいるのに?」
「コイツは、メシを作るセンスがないからな」
「じゃあ、私も手伝うよっ」
「断固拒否する。フロリスは近寄るな」
「ひど〜い。私だって、やればできるんだからねっ」
「やらなくていい。神官フラン様も、諦めてるぞ」
「フランちゃんは、確かに料理下手だけど、それは今まで、ほとんどやってないからだよ。もっと若い頃にやっておけばよかったって言ってたもんっ」
へぇ、フラン様がそんなことを……。
「成人する前にってことだろ? フロリスは、もう手遅れだ」
「ひどいよ! フリック! なぜそんなことばかり言うの?」
あわわ、フロリスちゃんが泣きそうになってる……。確かに、国王様の言葉はひどすぎる。
「フロリスは、フロリスにしかできないことをやればいいんだよ。メシを作るくらいのことは、俺がやってやる」
うん? 俺がやってやる?
「フリックにはできるけど、私にはできないって言ってるのっ!?」
あー、フロリスちゃんの目から涙が溢れてきたよ。ちょ、どうすればいいんだ? 料理に夢中で、その涙に気づかない国王様。
フロリスちゃんの兄アラン様も、戸惑っているようだ。黒服のブラウンさんも僕の方を見て、何とかしろと目で訴えてくる。
「フリックさん、フロリス様を泣かせちゃダメですよ」
僕がそう言うと、国王様はハッとしたように振り向いた。
「どうして、フロリスが泣いてるんだ?」
おいおい……。
「私、泣いてないもんっ!」
あーあ、拗ねちゃったよ。朝から不穏な雰囲気だ。
「だよな? 朝メシにしようぜ」
国王様は、フロリスちゃんの涙に気づいたのに、気づかないフリ? 彼女の意思を尊重したのかな。
少し重い空気感の中、僕達は朝食をすませた。そして、僕は仮眠をとるために、自室へと戻った。
◇◇◇
コンコン! ドンドン!
「ヴァン! いつまで寝てるのっ! 料理がもう無いよっ」
扉を乱暴に叩くフロリスちゃんの声で、僕は目を覚ました。料理が無い? 窓の外は真っ暗だ。
げっ……やらかした。
「すみません、爆睡してました」
僕は、慌てて1階の店へと向かう。
「昨日よりお客様が多いの。フリックが、ヴァンを叩き起こして来いって。フリックだけでは無理みたい。泣きそうになってるよっ」
あれ? 仲直りしたの?
「すみません、ちょっと仮眠するつもりが……」
店内は、満員だった。
調理場には、国王様とドルチェ家から来てくれた人達がいる。ワイン樽の前には酒屋のカフスさん、そして、マルクが入り口で案内をしてくれているようだ。グリンフォードさんは昨日と同じく会計係かな。
僕だけが、寝てたのか。
「ヴァン、作り置きしてあった料理をリクエストされているが、俺には無理だ。何がワインに合うかわからん。なんとかしろ」
国王様は、珍しくテンパっているようだ。
「はい、フリックさん、すみません。すぐに作ります。なぜこんなことに……」
もっと早く起こしてくれたらよかったのに、食べ放題の料理は、僕が作り置きしたものが完全に消えている。
「フリックが悪いのっ。自分がいれば大丈夫だから、ヴァンがいつまで寝てるか賭けようぜとか言って〜。ヴァンにできることは、自分にもできるって言い張ってたのっ」
えっ? なんだか二人、似てない? フンッと拗ねている国王様。これは、本気で拗ねている。
「それで、起こしてくれなかったと……」
「フリックは、読みが甘いのよっ。自信を持つことは悪いことではないけど、もっと慎重にならなくちゃダメっ。この失敗を教訓にしなさいっ」
フロリスちゃん、厳しい……。
「悪かったよ、フンッ」
おっと、国王様が謝った! ちょっと拗ねてるけど。
忙しい営業は、この日だけではなかった。当初の予想では、2〜3日かと思われていたけど、ひと月が経過しても、客足は変わらない。
しばらくすると、この店を襲撃してきた盗賊達まで、客として来店するようになってきた。彼らは暴れることもなく、おとなしかった。たぶん暗殺貴族のクリスティさんが、ちょくちょく来店するからだと思う。
そして季節は流れ、僕は22歳になった。
次回は、2月22日(水)に更新予定です。
よろしくお願いします。




