95、ガメイ村 〜保存蘇生
すごいな……。
目が離せなくなっているのは、僕だけではない。盗賊達も、また、クリスティさんに拘束されている魔族だという男も、蘇生魔法に釘付けだ。
なんとも美しい神秘的な光が店内に広がっていて、幻想的な空間に迷い込んだような、不思議な気分だ。
蘇生魔法を操るラスクさんが、とても神々しく見える。そして、それをサポートするクリスティさんは、ダークなオーラを放っていて、人間とは思えない畏れを感じる。
保存蘇生っていう言葉は初めて聞いた。そもそも蘇生魔法を見たのは、僕の人生で2度目いや3度目だけど。
「へぇ、さすがルーミント家当主の伴侶だ。いや、青ノレアだから当然か。冒険者パーティの中では、青ノレアがダントツで、異常なバケモノが多いからな」
ゼクトさんが、チラッと僕の方を見た気がする。
ラスクさんは、僕やマルクが未熟な頃、青ノレアに勧誘して、僕達を保護してくれたんだ。成人したばかりの13歳の頃は、僕は超級薬師の神矢を得たことで、利用しようとする人達に狙われていた。またマルクは、後継争いから外すために、兄弟から命を狙われていた。だから、僕達にとってラスクさんは、かけがえのない恩人でもある。
「ゼクトさん、青ノレアは、レアスキルやレア技能持ちしか加入できないから、そう見えるんですよ。皆、いたって普通の冒険者です」
ラスクさんがそう反論しているけど、青ノレアは、確かに凄すぎる人が多いと思う。冒険者ランクも、レジェンドランクが二人もいるらしい。この国全体でも、レジェンドランクは10人いるか否かという希少なエリートだ。
ちなみに、ゼクトさんも、レジェンドランクなんだよね。僕は、一応、Sランク。実績的には、SSランクに上がる要件を満たしているけど、ランクアップはしていない。SSランクになると役割が増えるから、基本戦闘力の高くない僕には厳しいもんね。
「ふぅん、青ノレアといえば、ルファスだろ。それに、ヴァンも有名か」
ちょ、ゼクトさん! 僕の方をチラチラ見ながら、僕の名前を出すのはやめて。絶対、からかってるよね。
「そうですねぇ、マルクもヴァンも、俺が勧誘したんですよ。だから最近は.俺は何もしなくても、貢献度をとやかく言われなくなりましたよ」
ちょ、ラスクさんも、僕の方をチラチラ見てるし! 今の僕は、魔道具メガネをかけて、暗殺者ピオンの姿をしているのに……盗賊達にバレたらどうするんだよ。
僕が、内心慌てている間も、ラスクさんは蘇生魔法の仕上げをしている。話しながらこんなことができるなんて、ほんと凄すぎる。
「うっ、うう……」
「えっ……えーっと」
倒れていた二人が、ほぼ同時に目を覚ました。
「こんばんは。調子はいかがですか。記憶は大丈夫かな?」
ラスクさんが優しく語りかけた。
二人は、キョロキョロと辺りを見回し……魔道具メガネは、彼らを恐怖の色に染めていった。きちんと覚えてるんだな。
「あ、あぅ……」
「慌てなくて大丈夫ですよ。お仲間達が何も喋らないのは、彼女が封じているからです。蘇生直後は、魂がまだ不安定なので」
「あ、あぁ……」
彼らは、ラスクさんが蘇生したことを理解したようだ。
「ゼクトさん、彼らのジョブはどうなったかな? 保存蘇生の成功率は10%程度なんだよね」
ラスクさんにそう尋ねられて、彼らをチラッと見たゼクトさんは、すぐに口を開く。
「二人とも、ジョブに変化はない。奪われたスキルも戻っている。蘇生魔法を使うとジョブは再抽選されるから、同じジョブになることはほとんどないがな。それに、保存蘇生などという技能は、白魔導士にはない。どうしたんだ? その技能は」
神矢ハンターでもあるゼクトさんが、知らない技能なんだ。
「ふふっ、これは暗殺者の技能じゃないかな? ちょっとした拾い物だよ。だけど、俺一人では使えないんだ。スキル『暗殺者』がいないとね」
ラスクさんは言葉を濁しながらも、説明していた。保存蘇生を受けた人達に聞かせるためか。
「なるほどな。レア技能か。そのサポートをする『暗殺者』の能力が高いから、成功率100%だったわけか」
「たまたまだよ。だけど、クリスティさんの力の影響は大きいね。生と死を司るには、強い光と深い闇が必要だからね。あれ? 王命を受けたときに、そういえばゼクトさんは居なかったね」
「は? 俺は、クリスティに雇われてるだけだ。異界の彼も同じだ」
王命は、暗殺貴族のクリスティさんと白魔導貴族のラスクさんに、ということみたいだな。確かに、王命は貴族に出されるのが一般的だ。
「さて、眷属候補16人のうち、2人は消えたわね? もう一人は置いといて、残り13人には印を付けてある?」
「あぁ、付けたぜ。完全に眷属化したら、光って知らせる印だ」
うん? 宿主は捕らわれているし、眷属になった二人は、殺して関係を断ち切って蘇生したから、もうこれ以上スキルは奪われないんじゃないのかな?
僕は疑問を感じたが、ピオンとして無関心を装う。後で、ゼクトさんに聞こう。
「じゃあ、その13人、ここに並ばせてくれる? 私も記憶しておくわ」
クリスティさんがそう言うと、ゼクトさんは、盗賊達の間を歩いて回っていく。肩を叩かれた人は、拘束魔法が解除されているようだ。急に騒がしくなってきた。
「おい! おまえら……」
「あら、誰が喋っていいと言ったかしら? 私の後ろには、暗殺者ピオンだっているのよ?」
はい? 僕?
「ピオンが、なぜ、ここに」
「そうだ! なぜ、ピオンが2階から降りてきた?」
あー、そんなこと思い出さなくていいのに。クリスティさんの殺気が緩むと、盗賊達は僕のことを気にし始めた。
クリスティさんが、僕の方を振り返る。何か話せと言っているのだろうか。無理だよ? 僕には、ごまかす自信はない。
「そういえば、ピオン。この屋敷で何をしていたの?」
ちょ、待って。僕には、無理だって。ゼクトさんの方に助けを求める視線を送っても、ニヤニヤしてるだけだ。グリンフォードさんらしき人の方が、アワアワとして考えてくれているように見える。
はぁ、仕方ない。
「クリスティさん、僕の行動は追わないと言ってませんでしたか」
スッと目を細め、なるべく不機嫌を装う。すると、僕の身体から、デュラハンの全力かと思うほど強いオーラが放たれた。
ちょ、やりすぎだよ……。盗賊達の大半が、威圧されて崩れるように倒れた。クリスティさんの拘束魔法も、ぶち破ってるじゃん。
あー、このオーラは、デュラハンだけじゃないな。国王様が支配する闇の精霊バンシーのオーラも混ざって、異質なモノに変わっている。
「やぁだぁ〜、すぐに不機嫌になるんだからぁ〜。ごめんなさい〜」
クリスティさんがそう謝ると、パッと弾けるようにまがまがしいオーラが消えた。これは、お気楽うさぎブラビィが手伝ったな。
『帰れって言えってさ』
楽しくてたまらないという声で、ブラビィからの念話だ。ブラビィとデュラハンと、さらにバンシーまでが、悪ノリしてるみたいだな。先導しているのは、クリスティさんか。
「いつまでここにいるつもりですか。死にたいのか?」
僕は、ピオンとして、不機嫌な声でそう告げた。
「やーん、もうっ。ラスクさん帰ろっ。狂人と異界の人も一緒に逃げるよ。機嫌の悪いピオンに逆らうと、私でも殺されちゃうかも」
はい? 暗殺貴族の当主が何を言ってんの。
彼女は、ぶるっと身震いするフリをして、指をパチンと鳴らした。すると、4人の姿はスッと消えた。
「ひっ、ひ、ピオン様、す、すみませんでした!!」
魔族だという男が勢いよく頭を下げると、盗賊達は我先にと店から逃げて行った。
はぁ……扉の修理をして行けよ。




