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94、ガメイ村 〜王命に従う凄すぎる人達

 暗殺貴族レーモンド家の当主クリスティさんが、王命を受けてやって来たことを聞き、盗賊達の大半は、死んだ魚のような目をしている。


 愚蟲の件で来たと打ち明けた彼女だが、愚蟲の眷属けんぞくになった人には死んでもらうと言った。線が繋がっているという眷属候補には、ゼクトさんが印を付けるという。


 今の時点で完全に眷属化しているのが、2人見つかったらしい。グリンフォードさんらしき人が線の繋がりを見つけ、

 ゼクトさんがその対象者のスキルをサーチしているようだ。


 神矢ハンターのゼクトさんでも、蟲に奪われたスキルのサーチには時間がかかるようだ。だから二人で協力してるんだな。


 黒縁のメガネをかけた学者風の少し太った男を、クリスティさんは異界の人と呼ぶ。やはり彼は、影の世界の人の王、グリンフォードさんだよな? まるで別人に見えるけど、きっとクリスティさんの魔道具メガネだ。



 しかし、本当に王命なのだろうか。愚蟲の眷属けんぞくは、スキルを奪われた被害者だ。それなのに国王様は、そんな被害者をすべて殺せと命じたのか?


 僕は、今すぐ3階に駆け上がって確かめたい衝動を、必死に抑える。今の僕は、暗殺者ピオンだ。




「今、俺の手下を殺すと言ったか?」


 魔族だという男は、クリスティさんに鋭い視線を向けている。腕に自信があるのだろう。だけど、クリスティさんは半端なく強い。


「ええ、言ったわ。そうしないと異界の蟲に、この村が乗っ取られてしまうみたい。宿主は今は捕らえているけど、一定期間、宿主が活動できないと、眷属が宿主に変わって眷属を増やし始めるらしいわ」


 クリスティさんの説明に、魔族だという男は戸惑っているようだ。彼女に対する恐れと、信じられない話に、頭が混乱しているのだろう。



「クリスティさん、愚蟲の眷属が、さらに眷属をつくるのですか?」


 僕がそう尋ねると、彼女の視線はグリンフォードさんらしき人に向いた。


「異界の人、説明してくださる?」


「あぁ、そうだな。愚蟲は、人間に取り憑く霊だ。宿主となった商人貴族は、自我はあるが完全に乗っ取られている。愚蟲は、一瞬視界を奪う毒針を使う。それを回復しようとしてスキルを使うと、そのスキルは愚蟲に奪われるのだ。宿主が一定期間活動できなくなると、眷属がその役割を受け継ぐ。愚蟲は霊だからな。眷属が増えると力を増す。分身をつくって眷属に入り込むようになるのだ」


 やはり、グリンフォードさんだ。盗賊達に説明をしているのだろう。愚蟲が霊だということから話している。


「一度でもスキルを奪われた状態が、眷属候補なのよね? 一度奪われたら愚蟲と接するたびに、次々とスキルを奪われて、半分以上盗られたら眷属化が完了らしいわよ。この中には、えーっと3人いるみたい」


 あっ、増えた。ゼクトさんが指を3本立てている。さっきは2人って言ってたのに、新たに見つけたんだ。


 盗賊の中で、何人かの表情が変わった。魔道具メガネをかけている僕は、いち早くその変化に気付けるようだ。クリスティさんは、どの人なのか、まだわかってないみたいだけど。



「線の繋がりがある人間は、さっき話した通り16人だが、別の愚蟲の眷属候補も混ざっているようだ。いや、違うか。線の繋がりが、ギルドの方向ではなく……影の世界に向いている人間がひとりいる」


 グリンフォードさんには、愚蟲と眷属候補の繋がりが、線として見えているのか。何かサーチをしているのか、彼は、何もない方向をジッと見ている。



「異界の人、その仲間外れなのは、どの人? 眷属化してる?」


 クリスティさんが、痺れるように感じる耳障りな声を出した。あっ、麻痺毒か。耐性のない盗賊は、雷に打たれたようにピクピクとしている。


「眷属化していると彼が調べたひとりだ。ふむ、早いな」


 グリンフォードさんが、謎の呟きだ。何が早いんだ?


「じゃあ、その3人には死んでもらえばいいわね」


「いや、線の繋がりが違う人間は、殺すべきではないだろう。彼は、既に愚蟲の眷属ではない。霊と霊では、強い方が勝つからね」


 霊と霊? 悪霊対悪霊? あー、そういうことか。悪霊に取り憑かれている人間を、愚蟲が刺したのか。


 僕は、薬師の目を使う。えっ? この弱そうな人? 一人の腹に悪霊が入り込んでいるのが見えた。悪霊というより、これは守護霊かな。弱そうな人と血縁関係がありそうな……母親か。


 歩くラフレアとなった僕には、美味しそうな……甘そうな悪霊に見えるんだよね。汚れたマナは、ラフレアにとってはエサだからな。マナを汚す弱い悪霊も、エサなんだよな。



「彼には既に、別の霊が取り憑いていたから、眷属化はされないみたいですね。だけど、スキルは奪われる」


 僕がそう言うと、クリスティさんが面白いものを見つけたような顔をして、近寄ってきた。そして……。


「もう死人かしら?」


 僕にだけ聞こえる小声で問いかけた。クリスティさんにも見極めができない状態なのかな。影の世界の住人は、こちらの世界の人間を殺して身体を奪うことが多い。だけど、彼は違う。


 僕は、首を横に振った。


「そう、わかったわ」



 クリスティさんは、パチンと指を鳴らした。


 その直後、二人の盗賊が倒れ、そして店の中に転移渦が現れた。



「お、おい!」


 魔族だという男は、倒れた二人に駆け寄ろうとしたが、数歩動いたところで動きを止めた。クリスティさんが拘束したみたいだな。何か言おうとしているが、声も出せないらしい。




「なぜ、こんなことに?」


 のんびりとした眠そうな声が聞こえた。転移渦が消えると、そこには懐かしい顔が立っていた。


「説明は後よ。二人を蘇生して。これは王命よ〜」


 えっ? 王命? あー、そっか。そういうことか!


「明日の朝って言ってませんでしたか」


「私、朝は苦手なの。ピオン、大回復系のエリクサーを持ってないかしら?」


 クリスティさんには使いきれないくらい、木いちごのエリクサーを渡したことがあるんだけどな。


「木いちごのエリクサーなら、ありますよ?」


 僕が、果物のエリクサーを作る薬師だと……まぁ、バレないか。クリスティさんがいるもんな。


「じゃ、それ、買うよ。闇市の品かしら?」


 やはり……また、筋書きのない芝居が始まってしまったか。


「入手経路は、言えませんね」


 僕が冷たく言い放つと、クリスティさんは嬉しそうに微笑んでいる。


「やぁねぇ、ピオンの動きを探ったりしないわよ?」


 ここは、たぶん無視するのが正解だろう。僕は聞こえないフリをして、木いちごのエリクサーを2つ取り出し、彼女に放り投げた。


「本当よ? 私、貴方に嘘はつかないよ?」


 意味不明な芝居が続いている。クリスティさんって、こういう芝居癖があるんだよな。


「そうですか。そんなことよりクリスティさん、早く始めないと、ルーミントさんが困ってますよ」



「うふっ、ピオンに叱られちゃった。ラスクさん、保存蘇生でお願い。私がサポートに入るわ」


 白魔導系ルーミント家のラスクさんは、クリスティさんから木いちごのエリクサーを受け取ると、二つとも口に放り込んだ。木いちごのエリクサーは、多少噛んでも飲み込まなければ吸収されないから、高度な蘇生魔法には重宝すると言ってたっけ。


 ラスクさんは、倒れた二人に、同時に蘇生魔法を使った。こんなことができる白魔導士は、他に聞いたことがない。


 す、すごい!


 魔道具メガネが、倒れた人が生き返る様子を見せてくれる。クリスティさんが出したオーラのような波動を目で追うことができた。


 彼女は、蘇生の邪魔をする悪霊を、切り裂いた! そうか、これが愚蟲の分身か。眷属が死ぬと魂を吸収しようとして、蘇生を妨げるのか。


 僕は、初めて見る光景に、ピオンの姿でいることを忘れそうになっていた。



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