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90、ガメイ村 〜深夜の襲撃

 僕が手のひらを出すと、泥ネズミのリーダーくんはいつものように僕の手に飛び移り、そのタイミングで賢そうな個体も現れた。


 厨房の、しかも料理をしている場に泥ネズミが現れたことで、食事をしていたブラウンさんは一瞬、顔をしかめた。彼には、泥ネズミの声は聞こえていない。だけど、僕が泥ネズミ達を従えていることは知っている。


 一方でリーダーくんは、ずっとブラウンさんの見張りというか警護をさせていたから、すっかり見慣れてしまったのか、気にせずに現れたようだ。



「リーダーくん、大変って何があったの?」


『この屋敷をどばばばっと、た〜っくさんの人間が見ているのでございますです!』


 リーダーくんのこの喋り方は、緊急性がないということだ。緊急時には、何をしゃべってるかわからなくなるもんね。


「この屋敷が、たくさんの人間に取り囲まれてるの?」


 僕がそう聞き返したことで、ブラウンさんの表情が変わった。また、自分のせいだと思っているみたいだな。


『囲まれているといえば、囲まれているのでございますですが、違うといえば違うのでございますです』


 はぁ、リーダーくんが何を言っているかわからない。


 すると賢そうな個体が、リーダーくんの前に出た。いつもなら飛び蹴りしたりするのに、今日は厨房だからか、暴れないように気をつけているようだ。



『我が王、この商業通りへの道を塞ぐような感じで、多くの者が集まっています。住人が話していた言葉が正しければ、新入り参りという行事のようなことらしいです』


「新入り参り? あぁ、この店が新入りだってことかな? だけど、こんな深夜に商業通りへの道を塞いでいるなら、歓迎ムードではなさそうだね」


 僕は、賢そうな個体の言葉を要約しながら、ブラウンさんに内容がわかるようにと返答する。新入り参りという言葉をそのまま使ったことで、ブラウンさんの表情は、さっきとは違う意味で変わった。彼が警戒したことには変わりはないけど。


『はい、数がどんどん増えています。乱暴な人間が多いようですが、統率している者がいるかはわかりません。泥ネズミも土ネズミも従えていない人間ばかりです』


「そっか。泥ネズミや土ネズミを従えているのは、ほとんどが貴族家と神官家だから、集まっているのは平民かな。乱暴な人間ってことは、冒険者か裏ギルドに出入りする人達か」


 そう話しながら、僕は出来上がっていた料理を魔法袋へ放り込んでいく。店を襲撃されたら、台無しになってしまうからな。


『ギルドの建物にも出入りしていたようですが、冒険者かどうかは不明です』


「そう。敵意の度合いはわかる? 新入りを排除しようとしているのか、ただの嫌がらせか」


『我が王、申し訳ありません。様々な感覚を持つ人間の集まりですので、よくわかりません』


 賢そうな個体は、ガクリと肩を落としている。あれこれと聞きすぎたかな。


『我が王! どわわわわっとすれば、ふにゃにゃになりますですよっ』


 リーダーくんは、集まっている人達は、脅しに弱いと言っているのかな。


「そっか、いろんなタイプが混在しているんだね。脅しに弱いなら、普通の冒険者の可能性は消えたな」


 僕がそう呟きながら持ち物を探していると、ブラウンさんは腰に剣を装備した。


 彼は、剣聖と呼ばれるブラウン学長の息子だからか、ジョブボードが使えなくても剣術にはあまり影響はないそうだ。だけどジョブボードが使えたら、きっと彼はもっと強いんだろうな。



「ヴァンさん、荒っぽい奴らには、最初が肝心です。ファシルド家の店が、舐められるわけにはいきません」


「ブラウンさん、この店がファシルド家の店であることは秘密ですよ。フロリス様は家名をふりかざすより、自発的に治安を改善させようと考えておられますから」


「それは理想論だ。フロリスさんのようなお嬢様には……いや、何でもない。今の俺は、ファシルド家のお嬢様に仕える黒服だったな」


 ブラウンさんは、やはり武術系ナイトの貴族だな。ファシルド家もそうだけど、武術系の貴族の人達は、すぐに剣で解決しようとする。悪いことではないけど、ガメイ村という農村には合わないと思う。



「まぁ、なるべく穏やかにいきましょう。ここ、ガメイ村はぶどう農家の村ですからね」


「そうだな。それに深夜だ。疲れて眠っているフロリスさんを起こしたくはない。だが、大勢の人間が来るなら……えっ? あ、あぁ、その手でいくのか」


 僕が魔道具メガネをかけたことに、ブラウンさんはなかなか気づかなかった。徐々に姿が変わるらしいから、かける瞬間を見ていないと、気づかないのかもしれない。


「はい、泥ネズミ達の情報では、様々なタイプの寄せ集めのようなので、こっちの姿の方がいいかと思いまして」


 魔道具メガネにより僕の見た目は、暗殺者ピオンとして裏ギルドで有名になっているイケメンに変わった。あんな言い方をしたけど、僕は見た目を変えたかったわけではない。認識阻害効果と、相手の感情が色分けされる効果が欲しかったからだ。


 ブラウンさんは、僕に対する信頼の色に見える。少し前の僕なら、困惑していたかもしれない。だけど、今の僕は違う。ジョブの印の陥没の兆しは消えた。いつでも普通にジョブボードが使える。彼の信頼に応えたい。



『派手にいこうぜ!』


 ブラビィの声が聞こえた。あっ、いつの間にか、僕の腰にアクセサリーのふりをした黒い毛玉がぶら下がっている。


 ちょ、ブラビィ、派手になんかしないよ? フロリスちゃんが起きてしまうじゃないか。それに、ここはガメイ村の中だよ。


『治安維持に来たんだろ? それなら、おまえがボスになれば簡単じゃねーか』


 はい? ボスって何? 魔物のナワバリ争いじゃないんだからね。


『同じだろ。人間の方が、頭わりぃけどな』


 お気楽うさぎのブラビィは、妙に好戦的だな。堕天使の姿を見せて、村の人にきゃーきゃー騒がれたことがクセになっているのだろうか。


 あぁ、ガメイ村は……僕が、スキル『道化師』の変化へんげで、闇の偽神獣の彼の姿を借りた場所だ。それがキッカケで、いろいろあって今に至る。ブラビィとしては、何か特別な場所なのかもしれない。


 痛っ! お尻に蹴りがはいった。ふぅん、図星ってことなんだな。




「ヴァンさん、囲まれたみたいだ」


 ブラウンさんがそう小声で囁いたとき、3階のガラス窓が割れる音がした。だがおそらく襲撃者は、下から来る。


「ブラウンさん、動かないで、ここにいてもらえますか?」


「だが、しかし……」


「3階には、アラン様もいます。動かないでいてくれる方が、僕は自由にできますから」


 僕は、少し口角を上げてみせた。こうすると、ベーレン家の血筋に見えるクールなこの顔は、威圧感が半端ないらしい。以前、暗殺貴族のクリスティさんが、キャッキャと楽しそうに話していた。


「そ、そうだな。暗殺者ピオンだもんな」


「ふふっ、暗殺はしませんけどね。毒薬は使うかもしれませんが……」


 ドガッ!


 僕が冗談を口にしたとき、1階の店の扉が乱暴に蹴破られたようだ。



次回は、2月8日(水)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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