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83、ガメイ村 〜フロリスちゃんのセンス

 フロリスちゃんの提案に合わせて、僕達は開店準備をしていく。酒屋のカフスさんは、準備の合間に、村中を走り回って宣伝してくれているようだ。


 ゼクトさんは、まだ寝ているのか、店には顔を出していない。彼は、狂人と呼ばれていた時期が長いから、気を遣ってるのかもしれないな。ガメイ村に住む隠居貴族の人達は、きっとゼクトさんの変化を知らない。


 黒服のブラウンさんは、商業ギルドへ行くと言って、酒屋さんが来る前に出て行ったままだ。泥ネズミ達が護衛というか見張りをしてくれている。今、ブラウンさんは、冒険者ギルドにいるようだ。たぶん、昨日の襲撃の件の話の続きだろうな。


 ブラウンさんも、開店準備の邪魔になると考えたのかもしれない。昨日の襲撃は、ファシルド家ではなくブラウンさん自身が狙われたみたいだからな。


 ファシルド家の旦那様は、これも想定済みだったのだろうか。フロリスちゃんにとって、あまりにも危険だ。その護衛のために、僕も選ばれたのだろうけど。


 あっ、もしかすると、ファシルド家の旦那様は、フロリスちゃんの伴侶候補として、ブラウンさんのことを見ているのかもしれない。


 ブラウンさんは、武術学校のブラウン学長の息子だ。ハーシルド家の分家だから、ファシルド家と同じく武術系ナイトの家系だもんな。家柄としても釣り合うと思う。


 フロリスちゃんがブラウン先生に懐いていることを、旦那様は知っているんだ。でも、そうなると、国王様は……。いやいや、余計なことだよな。僕には関係のないことだ。それにフロリスちゃんは、まだ13歳だもんな。



 国王様とグリンフォードさんは、店員をやると言いつつ、2階で休憩中だ。うん、ずっと休憩中だ。まぁ、二人とも王だもんね。こうなると思ってた。


 あっ、もしかすると、ゼクトさんと何か話しているのかもしれないな。



 フロリスちゃんは、内装にこだわって、ずっと試行錯誤している。テーブルクロスを敷き、各テーブルに小さな花を飾ったのは、彼女のこたわりだ。一気に高級感が増して、食堂というより高級レストランみたいだけど……。




 僕が、フロリスちゃんの指示で、ワインや紅茶の販売カウンターを作り直したところで、カフスさんが声をかけた商人達がやってきた。


 もう夕方近いからということで、売れ残っていた野菜を、タダ同然の値段で仕入れることができた。


 代金は、売上を稼いだ頃に集金に来るという仕組みらしい。新規の店に優しいシステムだ。あっ、これは、次の商売に繋げる方法なのかもしれないな。集金に来るときにも、売り物を持ってくるのだろう。


 僕は急いで、調理を開始した。


 無料の食べ放題だから、メニューはその日によって適当に変えればいい。でも開店の日は、批判的な人が多く訪れるらしいから、文句を言われない程度に、料理は揃えておかないとな。



「店長さん、料理をすべて無料にするのですか?」


 商人達は、フロリスちゃんに積極的に話しかけていく。カフスさんと違って成人しているように見えるけど、僕よりは若いかな。新たな取引先を獲得しようと、必死なのだと感じた。集まった商人は、互いにライバルなのだろう。


「ええ、そうなの。でも、今日仕入れた野菜や肉や魚の代金は、ちゃんとお支払いしますから、安心してください」


 フロリスちゃんがそう言っても、彼らの雰囲気は変わらない。彼らは、今後の継続した取引を狙ってるからだよね。


「カフスが、あちこちに言いふらしているけど、無料というのは、開店の日だけのサービスの間違いですよね?」


「いえ、ずっと、この方針で行くつもりです。営業時間が長いのは大変だから、昼食の営業はしませんけど」


 フロリスちゃんがそう返答すると、彼らは不安そうに互いに目配せしている。彼女の見た目が若いからか、無謀な方針に聞こえたのだろう。そもそも食堂なのに、料理が無料という発想が、普通じゃないもんな。


 でも、カフスさんは、フロリスちゃんのアイデアを絶賛していた。飲み物の料金が高いことを説明すれば、彼らも納得してくれるのかな。



 なんだか、シーンとしている。あぁ、カフスさんが店の前に出ているためか。フロリスちゃんから救いを求める視線を感じた。この空気感を払拭してほしいみたいだな。


 僕は、料理をしながら口を開く。


「フロリス様、価格表がないですが、どうしましょう?」


「まぁっ! 忘れていたわ。でも字が読めない人もいるわよね?」


 フロリスちゃんの問いに、商人達は我先にと口を開く。


「数字は、わかりますよ。なので、1品当たりの値段を書いてある店が多いです」


「1品当たり5枚とか、昼の定食なら10枚とか20枚とか」


「枚数だけを書いてあるの?」


 僕も同じことを思った。あー、まぁ、銀貨何枚だなんていう店はないか。


「はい、貴族様が利用するレストランなら、コースで銀貨2枚なんて店もありますが、食堂では銅貨しか払いませんからね」


「確かにそうね。それなら枚数だけの方がわかりやすいわ。皆さん、ありがとう。私、作ってみるっ」


 フロリスちゃんが価格表を作るの?


 ありがとうを言われた商人達は、かなり嬉しそうだ。納品は終わったのに、彼らは誰も帰ろうとしない。代金は後日集金に来ると言っていたけど、今日、次の注文が欲しいのだろうか。




「できたっ! ヴァン、見てみてみて〜」


 フロリスちゃんは、テーブルクロスのひとつに、落書きをしていた。いや、価格表か。僕の方に、広げて見せてきた。


「フロリス様、それは旗ですか?」


「違うわっ。遠くからでも見やすいように大きく書いたのっ。かわいいでしょ?」


 テーブルクロスには、ワイングラスとティーカップの絵が描かれている。ワイングラスには赤ワインが入っている絵だ。その横に、それぞれ10枚と書かれているだけだ。


「フロリス様は、絵がお好きですもんね。1杯が10枚という意味ですか? 食べ飲み放題が10枚ですか? 食べ飲み放題だと思った人は、銀貨10枚だと勘違いするかも……」


「あっ、そうね。誤解する人がいるかもしれないから、字も書いておくねっ。飲み物はすべて1杯が銅貨10枚、料理はセルフで食べ放題っと」


 フロリスちゃんは、そう言いながら、綺麗な字で書いていく。しかし、テーブルクロスだよ……。どこに旗を掲げるつもりだろう?



「できたっ! あっ、マルクさん、こんにちは。ちょうど良かった。価格表を壁に貼ってくださいな」


 数人のドルチェ商会らしき人達を連れてやってきたマルク。彼が口を開く前に、フロリスちゃんからのお願いだ。


「へ? あ、あぁ、こんにちは。これをどこに貼るの?」


 マルクは、店内を見回しながら首を傾げている。だよね、壁といっても、綺麗な壁紙がある。


「入り口横の土壁よっ」


 入り口? なぜ、外に貼るんだ?


 すると、マルクがニヤリと笑った。


「フロリスさんは賢いですね。宣伝効果も高い。でも、店の前に行列ができると価格表は隠れますよ?」


「構わないわ。並んでいる人からは見えるもの」


「あははは、このアイデア、ドルチェ家も真似していいですか?」


「マルクさんの店だけならいいわよっ」


「じゃ、すぐに土壁に貼りますね。保護魔法もしっかりかけておきますよ」


 うん? マルクが真似したいアイデア?


「ありがとう。じゃあ、開店するよっ!」



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