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81、ガメイ村 〜フリックの嫉妬?

「ソムリエさん、野菜や肉を扱う市場の人達に知らせてきました。昼頃に、来るそうです」


 はぁはぁと息を切らして、カフスさんが戻ってきた。


「ありがとうございます。でも、何を買うかは……」


「彼らは、取り扱いの品を全部持ってくると思います。朝市の売れ残りが中心だと思いますが、今朝採った野菜や入荷した肉だから、品質は大丈夫です。それに売れ残りだから、値引き交渉しやすいですよ」


 めちゃくちゃ商人だな。


「値引き交渉ですか。えっと、僕はこの村の相場がよくわからなくて……」


「お任せください! お客様の損にならないように、俺が目を光らせておきますよ」


 若く見える彼だけど、熟練の商人みたいな貫禄だ。




「ふわぁ〜、ヴァン、早いのね」


 フロリスちゃんが大あくびをしながら、1階の店に降りてきた。酒屋さんがいることに気づいてないらしい。


「お嬢様、昨日、市場で買った酒屋さんが、新酒ヌーボーの樽を配達に来てくれましたよ」


 僕が、お嬢様という言葉を使ったことで、フロリスちゃんの表情はピシッと引き締まった。


「あら、配達してくれたのね。ありがとう」


 フロリスちゃんは、上品でやわらかな笑顔を作って、カフスさんに微笑んでいる。


「お嬢様、お、おは、おは、おはようございます! もったいないお言葉です。開店おめでとうございます。本日は、お手伝いをさせていただきます。よろしくお願いします!」


 ガチガチに緊張したカフスさんは、早口で一気にまくしたてるように挨拶をした。だけど、まだ寝ぼけたフロリスちゃんには、イマイチ伝わっていないようだ。


「あら……」


 フロリスちゃんは、首をかしげつつ、微笑みは忘れない。言われたことを頭の中で整理しているみたいだな。


 すると、カフスさんの顔がほんのりと赤くなっていた。僕の目には寝ぼけたお嬢ちゃんにしか見えないけど……フロリスちゃんってかわいいもんね。




「何してんだ? フロリス」


 背後から、不機嫌そうな国王様の声。うん、絶対に嫉妬してるよな。


 フロリスちゃんが成人になってから、彼女を取り巻く環境が変わった。有力貴族ファシルド家のお嬢様だというだけでなく、神矢ハンターという珍しいジョブだったから、誰もがお近づきになりたいのだろう。


 それに、もう少し成長すれば、彼女はきっと、すっごく綺麗になる。今は幼さが残っているし、年齢よりも若く見えるから、美少女という感じだけど。


 最近、国王様は、フロリスちゃんのことをやたらと気にかけているように見える。もしかして……そういうことなのかな? 


 国王様には、既に、前国王様に決められた伴侶がいる。だけど彼は、奥様の話は全然しない。不仲ではないと思うけど、一人目の伴侶が政略結婚なのは、貴族も王族も変わらないのだろう。


 だから、二番目の伴侶は好きな人を選ぶという。僕は、そんな貴族家の常識を知らなかった頃、フラン様から二番目の伴侶にしてあげると言われ……傷ついたんだよね。


 国王様には、奥様は一人しかいない。次の伴侶は、好きな人を選ぶのだとしたら……。


 いや、考えすぎかな。フロリスちゃんは、8つも年下だもんな。それに、まだ13歳、成人になったばかりだ。



「うん? 酒屋さんが配達に来てくれたんだって。早くからエライよね。まだ、未成年だよね?」


 フロリスちゃんに視線を向けられて、カフスさんはまた赤くなっている。


「はい。えっと、次の春に成人になります」


「へぇ、じゃあ、私より1つ年下かな? こんな朝早くから仕事してるなんて、ほんとエライね。私なんて、まだ寝ぼけてるかも」


「えっ、は、あ、はい。ありがとうございます!」


 彼は、フロリスちゃんへ返す言葉が浮かばないらしい。さっきまでの、接客慣れした雰囲気とはまるで別人だ。



「ヴァン、腹減った。朝メシにしてくれ」


 フロリスちゃんとカフスさんの会話を邪魔するように、国王様が大きな声を出した。やっぱり、嫉妬してるよね。


「ちょっと、フリック! また、そんな言い方してー。見習い神官なんだから、ちゃんと話しなさいっ」


 彼が国王様だとは知らないフロリスちゃんは、彼の言葉遣いの悪さを直そうと必死だ。ふふっ、からかわれているだけなんだけど、全く気づかないんだよな。


「無理言うなよ。腹が減って、頭が動かねぇ。それに、ヴァンは同い年だからいいんだよ」


「もうっ、ほんとフリックってば〜。ヴァン、朝ごはんは、なぁに?」


 二人は、似た者同士だと思う。無防備なときは、同じ顔をしてるように見える。


「2階の食卓の上に、置いてませんでした?」


「グリンフォードが何か食べてたが、もう無くなってたぜ?」


 はい? ゼクトさんはまだ寝てるはずだし……グリンフォードさんって、そんなに食べる人だっけ? 一応、4人分のコッペパンサンドを置いてあったんだけどな。


「じゃあ、スープを飲んで待っていてください」


「私が作ろっか?」


 フロリスちゃんが、珍しくやる気を出している。


「やめとけ。フロリスが厨房に立つと配管が詰まる」


「ちょ、フリック! ひどくない?」


「昨夜の事件を忘れたのか? 今朝はルファスがいないから、厨房が使えなくなるぜ」


「茶葉は、触らないものっ。ハムサンドとか……」


「生食できるハムがあるのか?」


「無いわよ。ハムは、軽く焼かないとお腹を壊すわ」


「じゃ、やめとけ。ヴァン、早くしろよ。俺は、フロリスが厨房に近寄らないようにガードしておく」


「ひどっ! もうっ、フリック!」


 国王様が階段を上がって行くと、フロリスちゃんが彼を追い抜こうと駆け上がっていった。だけど、国王様は、ゆっくり上がっていきつつ、フロリスちゃんに抜かれないようにガードしてる。


 なんだか、子供みたいだな、二人とも。




「カフスさんは、朝食はお済みですか?」


「えっ? あ、いえ、俺達は朝食を食べないです」


 うん、そうだと思った。きっと空腹で駆け回っているのだろう。


 僕が生まれ育ったリースリング村には、畑で作った野菜を売る店はあるけど商人はいない。だけど、今、僕が住むデネブの隣のカベルネ村では、商人は、家で朝食を食べる習慣がないようだ。だから、屋台が多く出ているらしい。


 ぶどう産地の商人は、朝早くから仕事をしているから、ゆっくり朝食を食べる余裕はないみたいだ。



「じゃあ、カフスさんも一緒にいかがですか?」


「ええっ!? そんな、申し訳ないです」


「店で出すメニューを相談したいから、試食してもらえると嬉しいんですけど」


 僕がそう言うと、カフスさんは目を輝かせた。


「ぜひ! 試食させてください。ガメイ村の食堂のメニューは熟知しています!」


 よかった。やっと、メニューを決められそうだ。



次回は、1月18日(水)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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