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80、ガメイ村 〜早朝の配達人カフス

「おはようございます。ワイン樽の配達に来ました〜」


 翌朝、早い時間に、市場で会った商人に似た若い男がやってきた。僕は、店主から新酒ヌーボーの未開封の樽を1つ買ったから、こんなに早い時間には使わないとわかっていると思う。10リットルくらいの小さな樽だから、昼の営業をすると足りなくなると考えたのだろうか。


 昨日あの後、紅茶を淹れると、フロリスちゃんはいつもよりも大量の生クリームを投入して、甘すぎる紅茶を飲んでいた。魔力を使いすぎて疲れたのだと思う。


 僕は、店で出す料理の試作を兼ねて、いろいろなものを作ってみた。だけど、みんなエールを飲むから、ワインとの相性を確認してもらえなかったんだよな。


 そうそう、2階と3階の部屋割りを、酔ったフロリスちゃんが独断で決め始めて、大騒ぎになったんだ。もちろんファシルド家の屋敷だから、フロリスちゃんが決めれば良いんだけど、彼女が自室に選んだのは見晴らしの良い角部屋だった。外から狙われやすいとも言える。


 国王様は、彼女の隣の部屋を主張していた。見習い神官という肩書きの彼は、最初は2階を割り当てられていたんだ。3階の部屋は広いから、空き部屋は客室にすべきなのだろうけど、ごねて勝ち取ったようだ。グリンフォードさんも3階だから、いいのかな、


 たぶん、国王様は広さで選んだわけではないと思う。フロリスちゃんの隣室だから、という気がしてならない。ほんと仲良しだよね。そして何よりも、フロリスちゃんの安全を気にしていると感じた。国王様はどこにいても、隠密の警護がいるみたいだから、彼の近くは比較的安全だ。


 僕は、2階の階段横の部屋に決められた。2階の食事の部屋と近いからだろうな。


 そして、黒服のブラウンさんは僕と同じく2階で、フロリスちゃんとは逆の角部屋だ。最初は僕の隣の部屋を割り振られたんだけど、彼が街道が見える角部屋がいいと主張したんだ。たぶんフロリスちゃんの真下だと、彼女に迷惑をかけると考えだのだろう。1階の襲撃は、ファシルド家ではなく、ブラウンさん自身を狙ったみたいだから。


 ゼクトさんは、空き部屋で自由にということだったけど、3階の客室で寝たようだ、国王様が3階にいるからだからだと思う。


 ちなみに、飲み過ぎた彼らは、まだ寝ている。



 僕は、朝から木工職人のスキルを使って、店の家具というか、簡単な棚を作っていたんだ。


 ジョブの印は快調だ。青白く光っているけど、マルクがグローブに、光を通さない魔法を付与してくれていたから、外から見ても光は目立たなくなっている。




「早いですね。ありがとうございます。息子さんですか?」


「はい! 息子のカフスといいます。店では配達を主にやっていますが、お客様のお手伝いもしています。今日は、開店のお手伝いをさせていただきます」


 とても爽やかな笑顔でそう言われて、思わず頷いてしまいそうになったが……手伝い?


「あの、手伝いというのは……」


「あぁ、はい。この新しい商業通りに店を出すお客様の多くは、ガメイ村のことをあまりご存知ないので、初日はお手伝いをすることにしています。主に、開店のお知らせを担当させてもらいますね」


「えっ? いいんですか? 助かりますけど……」


「はい、お任せください。お手伝いは当店のためでもあるのです。出入り商人だとアピールできるので」


 そう言うとカフスさんは、また爽やかな笑顔を浮かべている。まだ若いのに、接客慣れしているのだろう。



「昨日、襲撃があったと聞きましたが、すっかり綺麗になってますね。テーブルや椅子も、もう揃えてあるんですか」


「はい。昨夜、僕達が寝ている間に、ドルチェ商会の人達が1階の清掃と、厨房やテーブルと椅子の設置をしておいてくれたんです。いま、僕は棚を作っていたところです」


「へぇ、さすがドルチェ商会ですね。襲撃の跡は一切残ってないように見えますよ。俺は掃除の準備をしてきたんですけど、不要でしたね」


 そう言いつつ、カフスさんは魔法袋から、次々と布のような物を出していく。


「掃除は、開店前に店員さん達がやってくれると思うので、大丈夫ですよ?」


「あぁ、これはテーブル拭きなんですよ。当店からの開店祝いとしてお持ちしました。貴族の方は、神経質な方もいるので、各テーブルに清潔な布巾ふきんを置いておくことをオススメします」


 これも宣伝なのかな。よく見るとテーブル拭きの布には、何かの小さなマークが入っている。配達してくれたワインの樽にも同じマークが入っているようだ。


「ありがとうございます。では、遠慮なく使わせてもらいますね。このマークは、お店のマークですか?」


「あ、はい。ガメイ村の商人は、それぞれ識別マークを使っています。字が読めない人もいるので」


 何事もないように、サラッと肯定されてしまった。特定の店のマーク入りのテーブル拭きを使うと……まぁ、いいか。商人貴族ではないみたいだし。


「確かに、街に行かないと学校はありませんからね」


「ええ。あっ、食器とかは、もう用意されました? 市場の商人から食材の仕入れをすると、食器をくれる店も多いですよ。当店は主にワインを扱っているから、テーブル拭きをお渡ししています」


 へぇ、これもガメイ村の特徴なんだろうな。村で使う物は、村で買ってもらおうという作戦か。商人らしい上手い手法だな。


「食器も、ドルチェ商会に揃えてもらいました。僕の魔導学校時代からの友達がドルチェ商会の関係者なんです」


「そうでしたか。あはは、そんな気もしていました。ですが、消耗品はたくさんあっても困らないですよ。予備は魔法袋に入れておけば邪魔になりません」


 若く爽やかな見た目に反して、グイグイくるよな。商人って、みんなこんな感じなのか。


「まだ食材は、本日分くらいしか用意してないので……」


「では、新鮮な食材を扱う知り合いに声をかけてきますね。こちらのお店は、昼の営業はされますか? 開店からしばらくは、宣伝のために、昼の営業をオススメします」


 えーっと……どうしようかな。昨日は何もそんな話し合いはしていない。みんな飲みながらだったし、部屋割りのことで大騒ぎだったもんな。


「今日は、夕方から営業します。昼の営業については、カフスさんのアドバイスを店長に伝えておきますね」


「えっ? ソムリエさんが店長じゃないんですか?」


「僕は、雇われソムリエです。店長は、この店を借りている方ですよ」


「あっ! 一緒にいたというお嬢様ですか。なるほど、貴族家のお嬢様の独り立ちなのか。わかりました! 俺にお任せください!」


 そう言うと、カフスさんは爽やかな笑顔で一礼すると、素早く出て行った。デキる商人って感じだな。


 だけどたぶん、彼は、フロリスちゃんを商人貴族だと勘違いしている。もしくは、ドルチェ家に嫁ぐと思ったか。


 逆に、この勘違いはありがたい。フロリスちゃんが、ガメイ村の治安維持の役割で来ていることは、知られたくないもんな。



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