79、ガメイ村 〜新薬の創造
「あっ、できた」
僕は、グリンフォードさんから受け取った死石種を、薬師の目を使って分析した。すると頭の中に、新たな知識が湧いてきたんだ。この植物は、より濃いマナを優先して集めるようだ。この性質を利用すれば、対処は簡単だ。
「ええっ!? 死石種の解毒薬を作ったということですか、ヴァンさん?」
「解毒薬とは少し違うんですが、これで大丈夫だと思います。この死石種に使ってみてもいいですか?」
「あぁ、もちろん、だが……本当に?」
僕は、作った薬を、死石種に一滴垂らそうとしたが、ねっとりしていて瓶からなかなか落ちない。空気に触れると、ゼリーのような球になってしまうんだな。
しばらく待っていると、やっとポトリと落ちてくれた。
こぶしサイズの赤紫色のトゲトゲが、薬をしっかりキャッチして、スーッと取り込んでいく。うん、成功だな。
すべて取り込むと、死石種は固くなり……。
パリンッ!
僕の手のひらの上で、勝手に細かく砕け散った。その残骸も、スーッと消えていく。
「えっ!? どういう薬なのですか。その瓶の中身は……」
「お教えします。素材となるのは、2種類の超薬草です。この世界の物と影の世界の物であれば、何でも構いません。今回は、こちらの世界の諸刃草と、影の世界の虹花草を使いました」
「えっ? 虹花草の花は強毒性ですよ」
グリンフォードさんが顔をひきつらせている。確かに黄色い花には、強烈な毒があるよな。
「虹花草に毒はないだろ。毒に変わるのはヴァンに飲ませた諸刃草だぜ?」
国王様は、少し自慢げに指摘してくれたけど、残念。同じ名前だけど、全く違う超薬草なんだよね。
「フリックさん、それはこちらの世界の虹花草です。影の世界の虹花草は、葉には毒はないですが黄色い花には強烈な毒があるんです。ラフレアの森に咲いてるんですけどね。魔石持ちの魔物でも死ぬかもしれませんよ」
「なんだよ、同じ名前だなんて紛らわしいな」
「フリック、またそんな言い方して。ダメだよっ。ヴァン、どうやって作るの? 私にもできる?」
フロリスちゃんは国王様を叱り、そして、僕に急かすような仕草をしている。だよな、マルクも早く知りたいはずだ。
「下級薬師の調合で作れますが、薬師のスキルがなくても可能です。ただ、魔力はかなり使うので、上級薬師でも魔力が減ってると作れません」
「どうすればいいの?」
「薬師のスキルを使わないなら、単純に擦り合わせて魔力で練り上げればいいんです。ドロドロな葉が混ざり合い、このように透き通れば完成です」
僕は、実演して見せた。うん、超薬草は別の組み合わせでも、同じものができるね。作った薬は、ゼリーのような感じだから容器に困る。
「なぜ、どういう効果が……」
グリンフォードさんは、実際に使って危険がないかを知りたいのだろう。
「死石種がマナを吸収すると石化する、という特徴を利用しただけです。しかも、より濃いマナを優先して吸収するようですからね。超薬草には多くの効用がありますが、この薬は、異種の超薬草を魔力の貯蔵庫として使っています」
「あー、そういうことか!」
グリンフォードさんとマルクは、同時に気づいたみたいだけど、国王様とフロリスちゃんは不機嫌な顔をしてる。僕は、話を続ける。
「えっと、死石種は、種子に血液やマナを取り込み、分解して濃いマナを精製しながら、徐々に石化していくようです。魔力で練り上げたこの薬を死石種が取り込み、そして分解し始めると、一瞬で石化します。すると、閉じ込められた分解酵素と超薬草が反作用を起こして……」
「膨張して、砕け散ったのか」
国王様は、勘がいいな。全部を説明する前に理解してくれた。先を越されたフロリスちゃんは、プクッとふくれっ面だな。彼女も、ほぼ同時に気づいたようだ。
死石種は、体内では血液や薄いマナよりも、この薬を優先的に吸収するだろう。そして石になり砕け散ったら、砕けたカケラが身体に残ったとしても、異物の砂として自然に身体から排泄される。
「ヴァン、できたけど、これでいいの?」
「うん、マルク、完璧」
「影の世界の超薬草は、まだ持ってる? あったら譲ってほしい。あっ、作り方をドルチェ家に教えてもいいかな」
そう言いながら、マルクは魔道具を操作し始めた。
「ルファス、組み合わせが何でもありだとは言わない方がいいぜ。ドルチェ家なら、すぐに商売にしようとするだろ。それにラフレアの森は、今は近寄れねぇからな」
「わかりました。確かに今は、ラフレアの森に行かせると死人が増えますね」
ゼクトさんにそう返事しつつ、僕の方を見るマルク。僕は動くラフレアだけど、超薬草は生えないよ。
「おそらくヌガーという商人貴族が、この屋敷を襲わせるために、死石種を用意したんだろ。襲撃者の仲間を配達員に紛れ込ませ、おまけに魔石エネルギーも得られたら、ウハウハだからな」
「そうでしょうね。愚蟲に乗っ取られているから、彼の感覚は、もはや人ではありませんからね」
ゼクトさんの話に、グリンフォードさんは同意しつつ、難しい顔をしている。あー、薬ができないのか。
「ヴァン、俺には無理だ」
先にギブアップしたのは、国王様だ。フロリスちゃんは、まだねばっている。だけど、疲れが見えるな。
「魔力をかなり込めて練らないとできないから、魔力の無駄遣いとも言いますよ」
「私も諦めた。そうか、簡単な薬だと感じたが、魔力が足りないらしい。ヴァンさんには、魔導士並みの魔力があるのか」
グリンフォードさんもギブアップだ。
「ヴァンは、動くラフレアだぜ? 魔力が無くなれば、根を伸ばして地下水脈から吸収するだろ」
はい? そんなことしないよ。まぁ、できないこともないけど。ゼクトさんは、僕のツッコミ待ちのような顔をしている。
「緊急時以外は、そんなことしないよ」
「ふぅん、ふふん」
ニタニタしながら、ゼクトさんはマルクに簡易魔法袋を渡した。
「ルファス、影の世界の超薬草だ。虹花草ほど貴重なものではないが、これでいけるだろ」
「ありがとうございます! お代は後日査定をして……」
「いらんいらん。今日の俺は、おまえの召喚獣だからな。そんなことより、さっさと持って行け。明日からは、この店で店員ごっこをするんだろ?」
ゼクトさんがそう言うと、マルクは深々と頭を下げた。
「じゃあ、ヴァン、明日来るよ。今日はこれで失礼する」
マルクは、飛翔魔法を使って窓から出て行った。
「できたわ! ヴァン、見てみてみてっ! あれ? マルクさんは?」
フロリスちゃんは、ヘロヘロな顔で、完成した薬を見せた。ふふっ、負けず嫌いだよね。
「うん、完璧ですよ。マルクは、先に失礼すると言って飛んでいきました」
「えっ? あぁ、そうなのね。ドルチェ家の人達が大変だもんね。あっ、そろそろ、ブラウン先生は終わったかしら」
お嬢様は、お茶が飲みたいのかな。
「フロリス様、じゃあ、お茶を淹れた後、夕食にしましょうか。市場で買った食材をいろいろ試してみますね」
「うん、そうね。私、ブラウン先生に声をかけてくるっ」
フロリスちゃんが駆け出した後ろから、国王様がコッソリとついて行った。護衛のつもりだろうか。それとも……。




