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78、ガメイ村 〜影の世界の植物、死石種

「配達の……留守担当のドルチェ商会の人が、殺された?」


 僕は、思わず、大声で問い返してしまった。あっ、フロリスちゃんがさっき、そう言ってたよな。ドルチェ商会の人が殺されたって……。僕は、てっきり王都の話かと思っていた。


「そう、冒険者ギルドの人が見つけてくれたみたいだよ」


「マルクは、その件を調べに来たの?」


 マルクの伴侶フリージアさんは、商人貴族ドルチェ家の後継争いをしている人だ。そしてマルク自身は、黒魔導系貴族ルファス家の後継争いをしている。そう考えると、すごい二人だよな。



 マルクは、少し沈黙した後、口を開いた。


「この屋敷の襲撃の連絡が、王都のドルチェ家本邸に届いたとき、フリージアさんを経由しないで直接俺に連絡が来たんだ。ファシルド家への納品を失敗するなんて、大問題だからね。商業ギルドの人も慌てていたみたいだよ」


「マルクに直接?」


「うん、やばそうな案件は、最近は俺に直接連絡が来るんだ。この屋敷の襲撃の件は、ドルチェ家は知らなかった。配達担当の者が知らせなかったということだからね」


「知らせられなかったってことか」


 そう尋ねると、マルクは軽く頷いた。


「俺が、ここに来たとき、ブラウンさんと少し話したんだ。配達担当が全員帰った直後に、襲撃されたらしい。それは、ありえないんだ。お客様からの配置換え依頼もあるから、必ず2人以上は留守を守る。ファシルド家のような有力貴族の場合は、臨時配達員も含めて全員が、家主の帰りを待つんだ」


 ドルチェ家は、王都で一番の商人貴族だ。ドルチェ商会は、特に貴族に対しては特別な対応をしてきたことで、その地位を不動のものにしているのだろう。


 それなのに、配達担当のドルチェ商会の人達がそのルールを破ったってことか。確かにあり得ない。



「ルファス、殺されたのは配達員全員か? だが、留守番の黒服は、配達員が帰ったと言ったのだろう?」


 ゼクトさんがそう尋ねると、マルクは魔道具を操作し始めた。記録映像を出すつもりだろうか。血生臭い光景は、フロリスちゃんには見せたくない。


「この屋敷の横の路地で斬り殺されていたのは一人、これは、ドルチェ商会の正規の店員です。あと、ガメイ村近くの物流倉庫で、数人が腹痛で倒れて急遽人員交代があったようで……腹痛を起こした配達員達は、倉庫内で死んでいるのが発見されたようです」


「腹痛で亡くなった?」


 僕がそう尋ねると、マルクは静かに首を横に振った。


「いや、失血死らしい。まるで血を抜かれたかのようになっていたと、報告されてるよ」


「血を抜かれた!? どういうこと?」


「わからない。今、調査中だ」



 するとゼクトさんが、ふーっと息を吐いて口を開く。


「ボックス山脈に吸血系の魔物はいるが……グリンフォードはどう思う?」


「そうですねぇ。愚蟲の眷属けんぞくがエネルギー集めのために、たまにそういうことをやりますね。動けないほどの腹痛は、その人間の身体に何かが入り込んだためでしょうか。その何かは、マナと血液を吸って……」


 グリンフォードさんは、そこで言葉を止め、チラッと国王様に視線を移した。国王様は、フロリスちゃんを見て口を開く。


「構わない、続けてくれ。フロリスも大人だ」


「わかりました。その何かは、魔石の元となる入れ物だと考えてください。影の世界には、マナや血液を吸収して石化する植物の種子があります。人が誤って口に入れてしまうと、確実に死に至ります。だから、死を呼ぶ種、死石種と呼ばれています。霊が人を攻撃するときに、よく投げつけてくるものです」


 危なすぎる植物だな。


「ふぅん。この屋敷の襲撃は、ヌガーという商人貴族が指示したと、ブラビィが言ってきたぜ」


 ゼクトさんは、国王様の方に視線を向けた。


「さっき、そのヌガーという商人貴族を、グリンフォードが捕まえたとこだ。愚蟲の宿主だよ」


 国王様は、まさしく現場にいたもんな。僕が視界を奪われていたときも、彼は商会ギルド内のあれこれを見ていたはずだ。


「ふぅん、繋がったな。愚蟲は、スキルを奪った人間を眷属けんぞく化するらしいな。今頃は、その眷属が、倒れた店員の腹から、血液とマナを吸った魔石を取り出しているか。チッ、厄介じゃねぇか」


 そうだ。半分以上スキルを奪われると、蟲の眷属にされてしまう。神獣テンウッドが、ブラビィが調べたことを伝言してくれたんだよな。


 死石種という植物を使われたら、確実に殺される。愚蟲のエネルギー集め? 最悪だな。しかし、僕の薬師の知識にはない植物だ。どうすれば……。



「グリンフォード、影の世界では、死石種の対処方法はないのか? 愚蟲の針に刺されたら、ワッと驚かせばいいだけだと言ってただろ? 死石種にも、簡単な対処方法は……」


 国王様は、僕が聞きたかったことを尋ねてくれた。


「対処方法は、ひとつだけです。決して体内に取り込まないこと。噛んでも気づかないほど柔らかく無味無臭だ。だから、ぶつけられたときは口を開かないことです」


 グリンフォードさんは、簡単なことのように言うけど、気づかずに口に入れてしまったら、対処方法はないということか。



「ドルチェ商会の配達員が、何人も倉庫で倒れたなら、倉庫の中に、その植物が生えてるんじゃねぇのか」


 ゼクトさんの指摘に、マルクは顔をひきつらせた。ドルチェ商会の店員が次々と殺されるということだ。


「それはありませんよ。死石種は光に弱い。こちらの世界では育たない。種子も、そう長い時間は漂っていられませんし……」


「漂うんですか?」


 グリンフォードさんの言葉を遮るように、僕は問い返してしまった。


「何も吸収していないときは、軽いですからね。こちらの世界だと……あぁ、そうそう、種子をつけた綿毛のようなものだと考えてください」


 確かに、風に飛ばされて……遠くに行ってしまう! 被害が拡大してしまうじゃないか。


「どんな物か、具体的にはわかりませんか? 解毒できる薬が作れたら……」


「ご覧になりますか? さっき捕まえたのがありますよ」


 捕まえた!? ガメイ村に漂っていたのか? 僕だけでなく、皆、口を閉じた。



「あはは、そんなに慌てなくても大丈夫ですよ。これですよ。袋から出すと、どんどん萎んでしまいますが」


 透明な袋を見せられた。中には、こぶしサイズの赤紫色の丸い物が入っている。綿毛なのか、トゲのようなものが全体を覆っているようだ。


「毒々しい色ですね……」


「ええ、こちらの世界では、こんな色になるようですね。こちらの世界の人は小さいから、うっかり口に入ってしまうこともないでしょう」


 そうか、影の世界の人は、数倍大きいんだっけ。



「ルファス、おそらくドルチェ家も狙われたな。ヌガーという男は、ガメイ村で最も力のある商人貴族だ。ハーシルド家の出入り商人でもあるはずだ。いろいろと繋がってきたぜ」


 ゼクトさんの話が半分もわからない。頭がごちゃごちゃになってきた。なぜこんな大きな毒々しい死石種を、ドルチェ商会の人が口にしたのかもわからない。


 だけど、いま、僕がやるべきことは……。


「グリンフォードさん、その死石種をください。超級薬師では厳しいかもしれませんが、解毒薬の創造に挑戦してみます!」



次回は、1月11日(水)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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