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77、ガメイ村 〜ヴァンの一人反省会

「じゃあ、この青白い光は、しばらくは消えないんですね」


「ヴァン、やり直しだ」


 またかよ。ゼクトさんは、なぜか僕の話し方に、異常にこだわる。確かに僕の21歳の誕生日に契約はしたけど、そもそもあれは、ゼクトさんの弟子にしてもらうつもりだったんだ。


「ゼクト、この光っていつ消えるの?」


「ククッ、知らん」


「へ? 知らないの?」


「あぁ、知るわけねぇだろ。俺も直接見たのは、おまえで2例目だ」


 言い直しをさせておいて、知らないんだ。もしかして、僕を試しているのだろうか。


「その人は、どうなったの?」


「青白い光を完全に許されたものだと勘違いして、そっから全くジョブの仕事をしなかったんだ。確か、5年ほど経って、その光は黒く変わった。会うたびに忠告したんだけどな……」


 ゼクトさんは、一瞬辛そうに顔を歪めた。黒く変わったってことは、フロリスちゃんの言っていた言葉から考えると、ジョブの終了? あっ……死……か。



「奉仕を無視したのね。そのための光なのに、なぜ無視したのかしら」


 フロリスちゃんが難しいことを言う。青白い光になったら、もう大丈夫なんじゃないのか?


「えっと、僕のジョブの印は復活したんじゃないんですか?」


「ヴァンの今の状態は、神の慈悲により、ジョブをサボっていた罰を免除された状態なの。慈悲を受けたら奉仕を返すのが常識でしょう?」


 そんなの知らない。首を傾げると、フロリスちゃんは大きなため息をついた。ちょっと傷つくんだけど。



「フロリス、それは下級神官は知らないことだぜ。光が消えない状態が奉仕を求められているなんて、神官家や貴族家に生まれた者には常識でも、平民は知らないことだ」


 ゼクトさんが擁護してくれた!


「えっ? そうなの? てっきり、ヴァンは忘れているのかと思っていたわ。ごめんなさい」


「へ? フロリス様、そんな……」


 素直にペコリと謝られると、なんだか申し訳なく感じてしまう。



「フロリスは、自分が知っていることはすべて、ヴァンも知っていると思ってんだよ。なんだか悔しいぜ」


 国王様は、変なことを言ってるよ。


「フリックは、まず言葉遣いから勉強しなさいっ。じゃないと、いつまでも神官見習いのままだよっ」


 フロリスちゃんに言い返されて、国王様はふふんと鼻で笑っている。もちろん、これは彼が彼女をからかってるんだ。


 ぷくりと頬を膨らませる彼女に向ける、国王様の目は優しい。ほんと、仲良しだよね。



 国王様のおかげでフロリスちゃんは、もういつもの表情だ。僕のジョブの印で強いストレスを与えてしまったときの、彼女の不安定な表情……やはり、幼児期の心の傷は深いか。


 僕は、彼女がキチンとひとり立ちできるまで、絶対に死ねないな。フロリスちゃんの心が浮上するキッカケになったのは、偶然だと思うけど、僕が黒服として5歳の彼女の世話係をしたときだ。


 3歳で母親を失い、心を閉ざして人形のようになっていた少女にとって、僕は、依存の対象だと、フラン様が言っていたっけ。


 僕は、フロリスちゃんとは8つ違いだ。だから、兄のつもりだけど、親のように思われているのかもしれない。僕と同い年の国王様……見習い神官フリックさんと親しく話せるのも、僕と同じくらいの年齢の相手が安心できると、以前彼女が言っていた気がする。


 僕は、そんな彼女の笑顔を守っていきたい。そして、幼児期の心の傷を癒やしてあげたいが……。


 超級『薬師』なのに、怪我は治せても心の傷は治せない。僕は何でも治せると……最近、傲慢になっていたかな。


 僕は、ラフレアになって以来、ずっと調子に乗っていたような気がする。僕自身は強くないのに従属に恵まれた。チヤホヤされることも少なくないけど、多くの恨みや嫉妬の対象にもなっている。


 ジョブの印の陥没の兆しは、そんな僕への、神からの戒めだったんだな。




「……ろ? おい、ヴァン、聞いてるか?」


「へ? な、すみま……いや、ごめん、ゼクト、何?」


 僕は考えごとというか、一人反省会をしていて、全く話を聞いてなかった。グリンフォードさんは、そんな僕に苦笑いだ。


「ヴァンさんが復活したなら、護衛は不要かもしれないけど、そういうことですから、よろしくお願いしますね」


 うん? どういうこと?


「グリンフォードさん、ちょっとボーっとしてました。すみません、もう一度お願いします」


 あっ、マルクの話だろうか? 僕が戻るのを待ってたのは、話があるからなんだよな?



「ふふっ、ゼクトさんもやるそうですよ」


「えーっと、何を、ですか?」


 話を聞いてなかった僕が悪いんだけど、なんだかみんな、この状況を楽しんでないか?



「ヴァン、商業ギルドに行ったでしょ?」


「あ、はい。フロリス様、えーっと……」


 愚蟲の話を聞いたのだろうか。


「フリックがね、その依頼を受けたんだって。グリンフォードさんも」


「へ? 依頼?」


 何の話だ?


「1階の店舗の店員募集だよ。襲撃されたばかりの店は、やっぱり敬遠されがちだからだって。グリンフォードさんは、この村に異界の蟲が取り憑いた人がいるから、しばらく監視する拠点にしたいって」


「ええっ!?」


 ちょっと待った。僕の店……じゃなくてファシルド家の店だけど、国王様と、影の世界の人の王が、ここで店員をする!? いやいや、ないない、ありえないだろ。


「ゼクトさんも、今、面白そうだからやるって言ってたよ。ブラウン先生もいるし、私もいるから、明日のオープンは大丈夫そうね」



 するとマルクが軽く手を挙げた。そうだ、マルク! あり得ないって言ってくれ!


「ドルチェ商会からもお詫びで、手伝いに来させるよ。フロリスさんが戻るまで、配達担当は留守を守るべきだったのに、大量の魔道具を仕掛けられてしまうという大失態だからね」


「えっ、マルク、ちょ……」


「俺も、護衛を兼ねてしばらく泊めてもらうよ」


「おお! じゃあ、部屋割りを考え直さないとな」


 はい? マルクまで? あ、そうだ、話を変えよう。



「マルク、それより、何か話があったんだよね?」


 僕は盛り上がる皆を制しながら、話を切り替えた。


「あぁ、うん、この件だよ。ドルチェ商会からのお詫びだ。留守担当の店員が、この屋敷の横の路地で殺されていたんだ。あっ、2階と3階に仕掛けられていた魔道具はすべて壊したから安心して」


 騒いでいた皆の顔から、スーッと笑みが消えていった。



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