76、ガメイ村 〜青白い光とジョブボード
「この紅茶、王宮で出すものよりも格段に美味いな。ドルチェ家は、王宮の出入り商人じゃないのか?」
ゼクトさんは、いつの間にか現れて、僕が国王様達に淹れた紅茶を奪って飲んでいる。どうやって屋敷に入ったんだ?
「ゼクト、おまえ、どこから入ってきた?」
国王様がそう尋ねると、ゼクトさんはニヤッと笑って、左手の人差し指を立てた。何? 黙れってこと? いや、彼の人差し指には見慣れない指輪が光っていた。その光は少しずつ弱くなって、パリンと指輪は砕け散った。
「ルファスに渡してあった召喚の魔道具だ。何かあったら使えと言っておいたんだ。俺は、ルファスの召喚獣ってわけだ」
ええっ? 何それ。
「ゼクトさんは獣じゃないから、やはり一度で壊れましたね〜。こちらの本体は無事ですけど」
「ククッ、俺は、影の世界に行ってたから負荷が酷かったんだろうな。これでどこにいても召喚できるとわかったぜ」
マルクから金属の塊のようなものを受け取ると、ゼクトさんは、満足げに頷いている。
「おい、ゼクト、遊んでんじゃねぇぞ」
国王様は、ゼクトさんの自由すぎる態度にイラついているようだ。いや、僕を心配してくれているからだよな。
「フリック、言葉遣いがひどいよっ。でも、ゼクトさんがすぐに来てくれてよかった。ヴァンが……ヴァンのジョブの印が青白く光っているの。こんな印は見たことないわ」
フロリスちゃんは、国王様の言葉遣いを叱りつつも、その語気は弱い。目の焦点も合ってないように見える。マズイな、かなり強いストレスを与えてしまったみたいだ。
「フロリス、『神が与えし証が青白く輝くとき……』その続きが出てこないのか? 神矢ハンター失格だぜ?」
ゼクトさんにそう言われて、フロリスちゃんがハッとしたような表情を浮かべた。
「神が与えし証が黄金色に輝くとき、それは眠る印の表れ、大人の証。神が与えし証が黒く輝くとき、それは役割の終了、終焉の証。神が与えし証が青白く輝くとき、それは目覚め、慈悲の証……」
そこまで話すと、フロリスちゃんの目から大粒の涙がこぼれた。難しい言葉だな。僕にはわからない。
「そういうことだ、フロリス。まぁ、初めて見ると驚くだろうけどな」
どういうことなんだ? ゼクトさんは僕の視線に気づいても、ニッと笑うだけだ。ジョブの印の陥没の兆しが……目覚めた? 慈悲?
「ゼクトさん、僕のジョブの印はどうなったんですか?」
「は? おまえなー、やり直しだ」
はい? 何をやり直すんだよ。僕が首を傾げると、ゼクトさんは、大きなため息をついた。
「ヴァン、俺との契約を忘れたとは言わせねぇぜ」
「あ、相棒の……」
「あぁ、俺達は対等な関係だっただろ?」
名前の呼び方のことか。忘れてた。
「えーっと、ゼクト……」
「あぁ、何だ?」
「僕のジョブの印は、どうなってるんですか」
「やり直し!」
はい? ったく、僕をからかってない?
「僕のジョブの印が青白く光ってるのは、どういうことなのかと聞いてるんだけど!」
あっ、しまった……。伝説のハンター、ゼクトさんに酷い言い方をしてしまった。
「ククッ、やればできるじゃねぇか。忘れるなよ? ヴァンのジョブの印は復活したってことだ。生命の危機に遭遇したんじゃねぇの?」
「えっ? うん? 治った?」
「神の慈悲だ。神に与えられたジョブを果たさなかったことへの罰が、免除された状態だな。完全に印が陥没してたら、おまえの印は黒い光を放ってただろうぜ」
話が難しい。ゼクトさんは、チラッとフロリスちゃんに視線を移した。フロリスちゃんに説明を促しているようだ。神矢ハンターの先輩として、彼なりの教育だろうか。
「ヴァン、ジョブボードを見せてちょうだい。いえ、見るわよっ」
フロリスちゃんは、何かの技能を発動した。すると、僕のジョブボードが開いた。
◇〜〜◇〜〜〈ジョブボード〉New! ◇〜〜◇
【ジョブ】
『ソムリエ』上級(Lv.9)New!
●ぶどうの基礎知識
●ワインの基礎知識
●料理マッチングの基礎知識
●テースティングの基礎能力
●サーブの基礎技術
●ぶどうの妖精
●ワインの精
【スキル】
『薬師』超級(Lv.7)
●薬草の知識
●調薬の知識
●薬の調合
●毒薬の調合
●薬師の目
●薬草のサーチ
●薬草の改良
●新薬の創造
『迷い人』上級(Lv.3)
●泣く
●道しるべ
●マッピング
『魔獣使い』極級(Lv.Max)
●友達
●通訳
●従属
●拡張
●魔獣サーチ
●異界サーチ
●族長
●覇王
『道化師』極級(Lv.5)
●ポーカーフェイス
●玉乗り
●着せかえ
●なりきりジョブ
●なりきり変化(質量変化、無制限)
●喜怒哀楽
『木工職人』中級(Lv.10)
●木工の初級技術
●小物の木工
『精霊師』超級(Lv.10)
●精霊使い
●六属性の加護(超)
●属性精霊の憑依
●邪霊の分解・消滅
●広域回復
●精霊ブリリアントの加護(極大)
●デュラハンの加護(極大)
●ラフレア
『釣り人』上級(Lv.10)
●釣りの基礎技術
●魚探知(中)
●魚群誘導
『備え人』上級(Lv.3)
●体力魔力交換
●体力タンク(1倍)
●魔力タンク(1倍)
『トレジャーハンター』中級(Lv.3)
●宝探知(中)
●トラップ予感
『神官』下級(Lv.8)
●祈り
『薬草ハンター』超級(Lv.2)
●薬草の知識
●毒薬草の知識
●薬草のサーチ(大)
●異界の薬草サーチ(中)
『盗賊』中級(Lv.1)New!
●危機感知
●しのび足
【注】三年間使用しない技能は削除される。その際、それに相当するレベルが下がる。
【級およびレベルについて】
*下級→中級→上級→超級
レベル10の次のレベルアップ時に昇級する。
下級(Lv.10)→中級(Lv.1)
*超級→極級
それぞれのジョブ・スキルによって昇級条件は異なる。
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誕生日がすぎたから、ソムリエは無事にレベルがひとつ上がっている。他のスキルには変化はない。まぁ、ほとんど使ってないもんね。
あれ?『盗賊』?
そうか、前にガメイ村に来たときに、盗賊に無理矢理、神矢を渡されたんだっけ。へぇ、危機感知かぁ。使えそうだな。
「よかった! ヴァンのジョブは正常だわ。陥没の兆しもないわっ」
フロリスちゃんは、ジョブボードの上の方だけを見て、満面の笑顔だ。盗賊のスキルがあることがバレませんように……。
見た目では、何の違いもわからないけどな。そういえばフラン様は、僕のジョブボードを見てから、態度が変わったんだっけ。神矢ハンターや神官には、何か違って見えるのかもしれない。僕も神官のスキルはあるんだけどな。
「あぁ、ジョブボードは復活だな。青白い光は神の慈悲だ。その光が消えるまで真面目にジョブの仕事をしてろよ。そうすれば、もう一生、ジョブの印の陥没は起こらない」
ゼクトさんの言葉で、僕の心はスーッと軽くなっていくのを感じた。あっ、フロリスちゃんを信用していないわけじゃないんだけどね。




