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74、ガメイ村 〜仲良しだよね

 僕は、国王様とグリンフォードさんと共に、ファシルド家の屋敷に戻ってきた。1階の店舗部分には、冒険者ギルドからの調査が来ているみたいだな。黒服のブラウンさんが対応しているようだ。


 神獣テンウッドは、商業ギルドを出るとすぐに姿を消した。彼女が、娘のルージュのそばに張りついてくれていることは、僕としては助かる。


 今回の買い物で、テンウッドがルージュをどう思ってくれているのかがわかったのは、大きな収穫だな。僕が居なくても、彼女が僕の家族に害を与えることはないとわかり、より安心できるようになった。



 そういえば、忘れられているのか? 空を見上げても、当然、堕天使の姿はない。僕達が商業ギルドに行ったときには、もうブラビィは姿を消していた。


 さっきブラビィが、僕への魔法をレジストするために、リフレクトという反射魔法を使ったようだ。それが、まだ解除されてないんだよな。


 ブラビィは、解除を忘れてるんじゃないかな。もしくは、まだ僕の身体には、蟲の毒が残っているのだろうか。視界も完全に治ったんだけどな。


 今の僕は、攻撃魔法も回復魔法もはね返してしまう状態だ。ブラビィはどこにいても、瞬時に僕の元に転移してくることができる。まぁ、何か問題があれば、すぐに来るかな。




「あっ、ヴァンが帰ってきたーっ。あれ? どうして、フリックも一緒なの?」


 フロリスちゃんが、二階の窓から手を振ってくれた。両手を大きく振りニコニコ笑う姿は、13歳の成人とは思えない天真爛漫さだよな。


 見習い神官フリックさんの素性を知らないフロリスちゃんは、彼とは気楽に話せるようだ。フリックさんが来たから、単純に嬉しいのかな。


「フロリス様、商業ギルドで会ったんですよ。フリックさんだけでなく、グリンフォードさんも一緒ですよ」


 僕がそう言うと、フロリスちゃんは慌てて、澄ました顔で会釈をしている。ふふっ、もう遅いけどね。



「ヴァン、2階に上がってきてくださる?」


 フロリスちゃんは、おとなっぽく話しているつもりらしい。


「おーい、フロリス、そんな喋り方は似合わないぜ〜。お嬢様ごっこかよ」


 すかさず、ツッコミを入れる国王様。フロリスちゃんは、ファシルド家のお嬢様なんだけどな。


「もうっ、フリック! 変なこと言わないのっ。それに、言葉遣いを覚えなさいって何度も言ってるでしょ。ドゥ教会の神官見習いなんだから、たくさんの人がいる場所では、もっと丁寧に話しなさいっ」


 フロリスちゃんに叱られて、ニヤニヤと笑う国王様。彼女をからかうのが楽しいらしい。まぁ、うん、仲良しだよね。



「フロリス様、お急ぎでしょうか。冒険者ギルドの方々が……」


 僕がそう尋ねると、フロリスちゃんはまた澄まし顔を作っている。彼女から見て、僕の後方にグリンフォードさんがいるからかな。


「それは、ブラウン先生に任せておけばいいのっ。ヴァンも私も、襲撃のときは不在だったんだから。あれ? テンちゃは?」


 フロリスちゃんは澄まし顔を作りつつ、話し方はいつもの通りだ。フリックさんから、さっきの喋り方は似合わないと言われたからだろうか。


「かしこまりました。あー、テンちゃは、商業ギルドで何かを買って、さっさと帰りましたよ。


「赤ん坊が心配なのね〜。テンちゃってば、ヴァンの従属じゃなくて、ルージュちゃんの従属みたいね」


 まぁ、うん、そうだね。僕は、微妙な笑みを返し、外階段を2階へと上がっていく。1階から上がるのは、邪魔になりそうだ。



 ◇◇◇



「えっ? マルク?」


 外階段から2階に上がっていくと、扉を開けてくれたのは、僕の親友のマルクだった。


「ヴァン、話があって待ってたんだよ。あ、お二人も、よかったらどうぞ」


 マルクが声を掛ける前に、もう既に国王様とグリンフォードさんも外階段を上がってきていた。二人が僕についてきていたから、どうぞと言ったのかもしれないな。


 二人がいても良いということは、そんなに重い話ではないのかな。マルクは、二人の素性を知っている。そして、国王様がフロリスちゃんに素性を隠していることも、知っているはずだ。



「2階部分は、ちょっと改装したよ。さっき見たのとはかなり違うだろう?」


 マルクは、2階の廊下を歩きながら、説明を始めた。マルクが改装したのか?


「マルクさん、ヴァンは1階しか見てないから知らないよ。ヴァン、あのね、ドルチェ家の人が殺されたんだって」


 フロリスちゃんは、さっきとはガラリと雰囲気が変わり、険しい表情をしている。だが、彼女の言葉の繋がりがわからない。ドルチェ家の人が殺されたから、マルクが改装したってことだろうか。



「ヴァン、順を追って話すよ。フリックさんとグリンフォードさんも聞いてください。その前に、紅茶を持ってきたんだけど、ヴァン、淹れてくれない? さっき、フロリスさんが……」


「わーわーわー、マルクさん、言っちゃダメっ」


 フロリスちゃんは、めちゃくちゃ慌てて、2階の真ん中辺りの部屋に駆け込んでいった。


 ドンガラガッシャーン


 慌てたフロリスちゃんが、何かをひっくり返したらしい。怪我をしてないかな。僕も、慌ててその部屋へと駆け込んだ。



「フロリス様、大丈夫で……あはは、派手にやりましたね」


「違うの、ヴァン。これは、いま、ちょっと引っかかってしまったから……」


 確かに、床には鍋が散乱している。さっきの音は、鍋をいくつも転がした音かな。


 だが、僕が言ったのは、鍋のことではない。



 その部屋には大きな厨房があった。食事の部屋として使うだけじゃなく、1階の店の補助としての役割がありそうだな。


 これは、ガメイ村の食堂の特徴だ。1階の店が忙しくなると、別のフロアで食器を洗ったりできるようになっている。


 そして、その洗い場には……ぶちまけられたらしき茶葉が散乱していた。フロリスちゃんは、開封を失敗したみたいだ。



「あーあ、フロリス、また、こぼしたんだな〜。俺がやってやるから言えよな」


 えっ!? 国王様が紅茶を?


「フリックだって、こないだ生クリームをひっくり返したじゃないっ」


「あれは、テンちゃが、俺の足元に置いていたのが悪い。ルージュと床でゴロゴロするから、踏んでしまわないようにと、避けたところに生クリームの容器があったんだ」


 ドゥ教会での出来事か。


「あの後、掃除しないで逃げたでしょ」


「そりゃ、逃げるだろ。テンちゃが殺気を放ってたんだからな。フロリスは、なぜぶちまけたんだ? 何かに驚いたのか」


 テンウッドの殺気……そりゃ、逃げるよな。


「フリックが掃除しないで逃げたから、あの後、教会の子達が何人も滑って転んだんだからねっ。私は、床に散らばってたのは掃除したもん」


 フロリスちゃんが、プクッとふくれっ面をしたところで、国王様はツッコミをやめたらしい。あぁ、この顔が見たくて、意地悪なことを言ってだのだろうか。


 まぁ、うん、仲良しだね、



「フロリス様もフリックさんも、テーブルの方に移動してください。僕が片付けて紅茶を淹れますから、皆さんは座っていてください」


 僕は笑顔でそう言って、手袋を外すと……えっ!? なぜ?



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