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57、海辺の町カストル 〜別室での話し合い

 顔合わせの会の会場の片付けは、他の黒服に任せ、僕はマルクと共に、部屋を出た。


「一番の本命って? あの件の?」


 僕が小声で尋ねると、マルクは軽く頷いた。


「本命不在だから、逆に良いかもね」


 マルクは、微かに笑みを浮かべると、その後は無言でスタスタと階段を降りていく。僕としては、本命が誰かを尋ねたかったが、マルクの後ろから無言でついて行った。



 ◇◇◇



「フロリスさん、ソムリエを連れてきたよ」


 マルクは、僕のことをあえてソムリエと呼んだようだ。そうか、この部屋には、武術系と魔導系の貴族のみを集めたからかな。


「ヴァンくん、私、あたたかい紅茶がいいわ」


 あれ? 暗殺貴族のクリスティさんもいる。彼女は、王都のレーモンド家の当主だ。レーモンド家は、王宮の命令で動く暗殺貴族なんだよな。一対一の対人戦では、おそらく、誰も敵わない。


「えっと……はい、かしこまりました」


 極秘の話し合いの場だからか、彼らはファシルド家の地下室に集まっていた。この部屋は、使用人が休憩室として使っているから、ミニキッチンはあるけど……良い紅茶は無いんだよな。


 この部屋からは、海岸へ降りる階段がある。だから、ここを選んだのだろうか。



 小島でポスネルクを大量処分していたロン・ヒルースさんは、ここでも無言だった。僕達がガメイ村で会ったご隠居様から、無理矢理この会に参加させられたのだろう。不安げな表情は、次期ヒルース家の当主らしくない。いや、ヒルース家の人達は、みな、こんな感じなんだっけ?



 ガメイ村のヒルース家の屋敷で会った二人は、あちこちに鋭い視線を送っている。なんだか落ち着かない様子だ。


 ヒルース家のご隠居様の黒服をしていたアイザン・クルースさんは、警戒心が強そうだな。クルース家の人は人間じゃなくて人魚だから、もともと人間嫌いだろう。


 彼は、顔合わせの会では、ずっと黒服のブラウンさんの近くにいた。だけど、今この場には、ブラウンさんはいない。ブラウンさんはハーシルド家の分家の生まれだから、ここに居てもおかしくないんだけどな。



 そして、あのヨルース家の人は、顔合わせの会では社交的に見えたけど、今は不機嫌そうな顔をして黙っている。彼は、クルース家に使用人として潜入していたんだよな。


 アイザン・クルースさんは、彼がこの場にいることを警戒しているようにも見える。彼がヨルース家の人だとは知らなかったのだろうか。




「お集まりいただき、ありがとうございます。率直に、皆さんに、ご意見をうかがいたいのです。今、ナイトの貴族家で頻発している失踪事件をどう思われますか」


 僕が、皆にあたたかい紅茶をいれ終えると、フロリスちゃんが、いきなりそんな話を始めた。


 暗殺貴族のクリスティさんは、飲んでいた紅茶が変な場所に入ったらしい。ゴホゴホと咳き込んでいる。だよね、いきなり、それを聞くか?


「フロリスさん、何をおっしゃっているのか、わかりませんね。貴女は、アーチャー家がナイト家を潰そうと企んでいると言っていますよ?」


 ヨルース家の人が、即座に反論している。だが意外にも、その反論にすぐさま反応したのは、不安げな表情をしていたロン・ヒルースさんだ。


「テック・ヨルース、なぜそんなことを言う? まるで、ナイト家の失踪事件を知っているかのような口ぶりだな」


 ヨルース家の人は、テック・ヨルースというのか。うん? テック? どこかで聞いたような……。


「ロン! おまえ、わざと俺の名前を暴露しているだろ」


 二人は親しいのだろうか。暴露って……名前を家名付きで呼んだだけじゃないのか?


「あら、ヨルース家のお兄さんは、ピオンさんじゃないの? さっきの顔合わせの会では、女性達にピオン・ヨルースと名乗っていたわよね」


 暗殺貴族のクリスティさんが、とぼけた表情で口を挟んだ。ピオンって……僕の裏ギルドの登録名と同じだな。実際に、ピオンという名前の人は、少なくはないけど。



「もう、こんな茶番はやめましょう。フロリスさんが聞きたいことは、誰がファシルド家に毒ヘビの魔物をけしかけたのか、ですよね?」


 ロン・ヒルースさんがそう言うと、テック・ヨルースさんは少し表情をこわばらせたように見える。


「ええ、そうですわ。私も狙われているようですが、何人もの未成年の子達が犠牲になっています」


 フロリスちゃんは、凛とした声で、そう答えた。こういうところは、僕の妻フラン様に似ている。フロリスちゃんは、フラン様のお姉さんの子だもんな。あっ、正確には、お姉さんか叔母さんかはわからないみたいだけど。



「ルファス殿がここに居るということは、俺がポスネルクを処分したことは、わかっているのでしょう?」


 ロン・ヒルースさんがそう言うと、テック・ヨルースさんが、クワッと目を見開いた。


「ロン! おまえは何を……いや、なんでもない。それならフロリスさん、その犯人は、ロン・ヒルースだということですね。まさか、ヒルース家の次期当主がファシルド家やハーシルド家を襲わせていたとは、驚きですね」


 ハーシルド家も被害に遭っていたのか?


 テック・ヨルースさんは、勝ち誇ったような笑みを浮かべている。だが、この人は、ヒルース家のご隠居様の屋敷に来たとき、足元に弱い悪霊を付けていたよな?



「クルース家の仕業に見せかけて、小島を汚し、海を汚していたのは、ヒルース家か!」


 アイザン・クルースさんが、吐き捨てるように怒鳴った。人魚であるクルース家の人だもんな。海が汚されたことに怒っているんだ。人間同士の争いは、彼にはどうでもいいことなのかもしれない。


「あぁ、ヒルース家だな。ガメイ村でも、ヒルース家のご隠居さんの畑から、いろいろなモノが出てきたじゃないか。そこのソムリエが見つけて掘り出したらしいが、どうせ、また今頃は、魔物畑になっているんじゃないか」


 あのとき、遅れてきた彼の足元は汚れていた。再び、ヒルース家の畑に仕掛けをしたのだろうか。



 シーンと、静寂が訪れた。皆、何かを考えているようだ。僕の頭の中の仮説と、この場の展開は違う。僕が何かを言う方がいいのか? でも、何を……。



「そっかぁ。やっぱり、あのオジサンが主犯で、キミは、いいように利用されていて、そんな間抜けなキミのことを彼が庇っているのね〜。キミ達は、お友達かぁ。だけど間抜けなキミは、彼の気持ちを理解できないのね〜」


 暗殺貴族クリスティさんは、すべてを知っているかのようなことを言っている。なぜ、彼女は……あっ、そうだ、これが彼女のチカラだ。


「お嬢さん、何を言っているのです? そもそも貴女は、なぜここにいる? あぁ、フロリスさんのメイドかな? 使用人が我々と同席するなど、その神経を疑いますね」


 間抜け扱いされたテック・ヨルースさんが、クリスティさんに、バカにしたような冷ややかな視線を向けた。


「あら、自己紹介を忘れていたわ。私は、フロリスさんの護衛として、ここにいるの。クリスティ・レーモンドよ」


「んがっ!?」


 クリスティさんの家の名を聞き、アーチャー貴族の人達は凍りついた。



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