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54、海辺の町カストル 〜酔っ払いではなく?

「ガメイ村に行って、招待状を3通、クルース家の人とヒルース家のご隠居らしき女性に託してきたんだ。その3人に渡ったんだな」


 僕が小声でそう返すと、マルクは、ニッと笑った。まだ酔っ払っているかのような芝居をしている。マルクの顔は、テーブルを行き来する黒服から見えるからだな。


 あのとき、ヒルース家の年配の女性は、黒服のブラウンさんと何かの目配せをしていた。招待状の本当の意図を見抜いていたらしい。今回の件で疑わしいアーチャー系の貴族3人を、顔合わせの会に、誘導してくれたんだな。



「ヴァン、さっきねー、ドルチェ家が差し入れた白ワインの味見をしたんだ〜」


 マルクは突然、大きな声でそんなことを言った。僕は、マルクにコップに水を入れて渡す。すると、グビグビと飲んでるよ。どこまでが芝居だ?


 そんな様子を、黒服が横目で見ていく。マルクが演技をしているとは気づいていないようだ。僕に、同情のような、なんとも言えない視線を送ってくる。


「ボレロにも、お水をください〜」


 白ワインを守っておくと言っていた冒険者ギルド所長ボレロさんは、木箱をテーブルに置いて、厨房の奥へと入ってきた。ボレロさんも演技だろうな。


 僕は、別のコップに水を入れて、ボレロさんにも渡した。



「あぁぁ! 木箱に近寄らないでくださいよー。盗賊対策をしてますからね。なんせ、リースリング村のぶどうを使った高級ワインですからね〜」


 ボレロさんは、木箱の中身を覗き込んだ黒服に、そんなことを言っていた。わざわざ、高級ワインだと言わなくても……あぁ、これは何か狙いがあるのかな?


 確かに高級な白ワインだけど、そこまで盗難を心配する必要なんてないはずだ。盗られたとしても、マルクも気にしないだろう。


「ボレロさんに任せておくと、割ってしまいそうだなぁ。黒服さん達、その木箱の護衛をしてくださいよ〜」


 マルクが、妙なことを言い出した。あぁ、なるほど、そういうことか。もっと動きやすくしたいんだな。


 ボレロさんは、冒険者ギルドから5人は潜入させられると言っていた。だけど、きっと、ポスネルクの件に関わる人達からは警戒されているだろう。それで、酔っ払い作戦か?



「ヴァンさん、あの……」


 黒服のひとりが、苦笑いというか困った顔をして、木箱を指差し、僕に声をかけてきた。だよな、困るよね。


「あぁ、その白ワインは、顔合わせの会で提供していたものだと思います。ボレロさんがなぜか持って降りてしまったみたいですが……」


「そうですか、どうしましょうか」


 彼はボレロさんに視線を向けた。ボレロさんは、コップの水を指でかき混ぜている。意味不明な行動に、黒服は小さなため息をついた。完全に酔っ払いだと信じたみたいだな。


「ボレロさんがこんな調子なので、木箱は、顔合わせの会の会場へ持って行ってもらえますか。僕は、二人の酔い覚ましの薬を調薬します」


「ななななっ? ボレロは酔っ払ってませんよ〜。薬なんていりませーん」


 やはり、酔っ払いを演じていたいらしい。そんなボレロさんの姿に、苦笑いを浮かべる黒服達。



「ヴァンさん、では、我々が持っていきます」


「はい、お願いしますね。あまり揺らさないように運んでください。お客様への提供は、氷水にボトルを入れてワインを冷やしてからで、お願いします。氷魔法はダメです。氷水を使ってください」


「わ、わかりました」


 テーブルの片付けが終わった黒服達は、洗い物を厨房へ放り込むと、4人がかりで、木箱を運んでいった。慎重に、ヒヤヒヤしながら運んでいく。ボレロさんが高級ワインだと印象付けたからか、木箱を持つ2人とその前後を護衛する2人。普通に運んでくれていいんだけどな。



 あれ? 見慣れない黒服がいる。


 木箱を運ぶ4人と入れ替わるようにして、見慣れない黒服が食事の間に入ってきた。そして、出入り口近くで立ち止まった。


 彼は辺りを見回し、軽く頷くと、こちらに目配せをしてきた。何? 誰に目配せをしたんだ?



「ヴァンさん、ボレロに合わせていただいて、ありがとうございます。こういう芝居は楽しいですねぇ」


 ボレロさんは、いつもの顔に戻っていた。あぁ、あの黒服は、見張りか。


「ボレロさん、グミポーションを食べたから、軽い解毒はできていたはずです。酔っ払いのフリをするなら、あれは食べるべきじゃなかったですよ?」


 正方形のゼリー状ポーションは、アルコールも分解する。よほど泥酔していない限り、酔いは抜けると思う。



「ヴァン、俺達は、毒を盛られたんだよ。酔ったように見える遅効性の神経毒だ。漁をする人が、海の魔物に使うやつだよ。解毒はしたんだけど、まだ少し残っていたんだ。グミポーションで、やっと全快したよ」


 マルクがとんでもないことを言っている。僕は慌てて、薬師の目を使って、マルクとボレロさんの身体を調べた。


 確かに、毒を口にした形跡が残っている。ポーションで毒は消えたようだが、喉の荒れは残っていた。のどが渇くのはそのせいか。マルクは、また水を飲んでいる。



「会場の飲み物か何かに、毒が入ってた?」


 いや、それはないか。もしそうならマルクやボレロさんが、ここでのんびりしているわけがない。


「手土産だよ。フランさんが持ってきたクッキーに、誰かがブランデーのような香りの物をふりかけたんだ。クリスティさんが、それをボレロさん達にすすめたからさ〜」


 えっ? フラン様が? いや、暗殺貴族のクリスティさん?


「ちょ、マルク、どういうこと?」


「誰かが、冒険者ギルドの人達を排除したかったんじゃないかな。フランさんが持って来た手土産なら、ボレロさん達は安心して食べるだろうし」


「毒が入っているとわかった上で、クリスティさんはボレロさん達にすすめたの? ええっ?」


 毒入りと知って、食べたのか?


「ボレロが思うには、守ってくださったんですよ。顔合わせの会が始まる前でしたし、遅効性の毒を口にしたことがわかれば、それ以上、何かを仕掛けられることはないでしょうからね」


「そうですか。でも、どうしてマルクまで食べたんだ?」


「他のお客様が食べると大変でしょ。おそらく、ドゥ家を潰そうという動きにも繋がるだろうからね」


 ドゥ家を潰すという動き……マルクの言葉から、僕は、クルース家の使用人のフリをしていた、ヨルース家のあの人の顔を思い出していた。



「そっか、マルクありがとう。毒を盛った犯人は、わかってるの?」


「あぁ、クリスティさんが任せておけってさ。顔合わせの会が終わってから、裁きを与えるって言ってたよ」



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