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42、ガメイ村 〜魔道具メガネ

「なぜ、こんな平凡な村に、盗賊の神矢が降る? おまえら、いい加減なことを言うなよ!」


 黒服のブラウンさんがキレた。ごろつき風の男達の言うことだもんな。普通、平和な集落や村に、盗賊の神矢が降ることはない。


 だが、少し考えればわかることだ。きっと、盗賊被害が多い村だから、盗賊の神矢が降ったんだ。盗賊のスキルは、盗賊の行動を見抜くことにも使えるからだと思う。


「兄さんはダメだな。そんな調子だから、金を盗られるんだよ。そっちの坊やの方は、俺の言葉が正しいとわかっているみたいだぜ」


 そう言われて、ブラウンさんはカチンときたのか、魔法袋に手を掛けた。剣を取り出す気か。そんなことをすると、彼らの思いのままじゃないか。



「ブラウンさん、早く行きましょう。仕事中ですよ」


「だが、こんな、ぶ……」


 無礼だと言いそうになって言葉を飲み込んだのかな。今の僕達が黒服だということを、思い出してくれたみたいだ。そして、しぶしぶ頷いてくれたけど……。


「なんだ? 偉そうな兄さんだな。俺達が無礼者だとでも言いたいのか? 黒服のくせに、まるでお貴族様にでもなったつもりかよ、ガハハ」


 やはり、ただでは引く気がないらしい。まぁ、ブラウンさんは貴族なんだけどね。ハーシルド家の分家なら、中堅の貴族だろうな。


 ブラウンさんは、キッと彼らを睨み、そして僕の方へと向いたところで、行く手を阻まれている。カモだと思われたのだろうか。



「おいおい、そのまま知らんぷりかよ?」


 完全に絡まれてるよ。こういう奴らには金を見せてはいけない。そして中途半端な威嚇も、逆効果だ。さらに剣を使うと、こっちが悪いことにされてしまうだろうな。この村は、彼らのテリトリーだ。


 周りには野次馬が集まっている。転移屋付近は、この村の状況を知らない人が来るから、彼らが言っていたように、盗賊にとっての狩り場らしいな。


 絡んできている奴らと合図を交わす人もいる。完全に、囲まれているみたいだ。


 その背後には、心配そうにしている農家の人達の姿も見える。だが、ガメイ村なのに、ガメイの妖精の姿は見えない。この場所には、近寄らないようにしているらしい。



 ブラウンさんは、また魔法袋に手をかけた。剣は、絶対にダメだ。ここは農村なんだ。街中で人を相手に剣を抜くのも悪手だが、その何倍もマズイ。こんな農村では、警備兵以外は剣を装備しないんだ。


「ブラウンさん、ぶどう農家の人達が驚いていますよ」


 僕がそう言うと、彼は一応軽く頷いてくれた。剣を抜くなと伝わったみたいだ。



「あはは、さぁ、兄さん、商談といこうか。ここを通りたければ通行料を払いな。そっちの坊やも連帯責任だぜ」


 僕の周りにも、他のごろつき風の盗賊らしき人達が集まってきた。うーむ、どうしようかな。


 デュラハンの加護を強めてもいいけど、ここは、ぶどうの妖精が大量にいるガメイ村だ。デュラハンの闇のオーラは、ガメイのぶどうの妖精に、悪い影響を与えてしまうか。


 使いたくないけど、仕方ないな。一度使うと外しにくくなるけど、敵味方がわかるからメリットもあるよね。


 僕は、魔法袋から、銀色のメガネを取り出した。これは、暗殺貴族クリスティさんが作ってくれた魔道具メガネだ。以前、王都に潜入調査に行ったときに、彼女が僕のために用意してくれていたものだ。


 メガネのガラス左右それぞれ別の機能が仕込まれている。一方は、認識阻害。これが主な機能だ。すべてのサーチを弾くことができるし、僕の見た目もガラリと変わる。もう一方は、人が色つきで見える感情サーチ機能だ。



「坊や、目でも悪いのか……えっ!? ええ〜?」


 僕が魔道具メガネをかけると、裏ギルドでは有名な男の姿に変わる。たぶん、クリスティさんが勝手に有名人に仕立てたんだと思うけど。


「なっ、まさか、暗殺者ピオン?」


「幻術系の魔道具じゃないか? こんな場所にピオンなんていないだろ。メガネを外せば……」


 近くにいた男が、僕のメガネを外した。だが、この魔道具メガネは、他人が外しても変身は解除されない。


 僕は、メガネを外した男に視線を移し、スーッと目を細めた。今の僕の姿は、ベーレン家の当主の血筋に間違われそうな、上品なイケメンだ。クリスティさんの好みの顔らしい。


「ヒッ! ほ、本物」


 僕からメガネを奪った男は、そのまま固まってしまっている。


「メガネを返してくれませんかね? 僕は、素顔を見られたくないんですよ」


 固まっている男が、震えながらメガネを差し出す。別の男が、メガネを調べているようだ。だが、ただのダテメガネに見えるだろうな。僕以外には反応しないように作られているらしい。


 何人かに、合図が回っていく。メガネのサーチ結果だろうか。


 僕がメガネを取り返すと、魔道具メガネをかけていなくてもわかるほど、野次馬たちが緊張しているのが伝わってきた。しかし、誰も逃げないんだよな。


 魔道具メガネをかけると、野次馬たちが不思議な色に染まって見えた。恐怖ではない。好奇心だろうか? こんな色は初めてだな。



「やはり、ピオンもか……」


 ブラウンさんは驚いた表情のまま、固まっている。そうか、彼も、僕のもう一つの登録名を誰かから、聞いていたのか。裏ギルドでは、僕は、ピオンという名前で登録している。


「ブラウンさん、これは隠しておきたかったんですけどね。この村だと、こっちの姿の方が絡まれないかと思いまして」


 ピオンは、暗殺者として有名だ。だけど、暗殺したことなんてないんだけどな。まぁ、暗殺者を撃退したことは何度もあるし、そのときに何人か殺してしまったかもしれないけど。




「クッ……人が悪いなぁ、旦那。最初からそう言ってくださいよ」


 はい? 坊やと呼んでいたのに、旦那呼び? 見た目の年齢は変わらないと思うんだけどな。めちゃくちゃイケメンになっているだけで。


「言っても信じないでしょう? 黒服の仕事中じゃなきゃ、野次馬も含めて皆、消えてもらうところだったよ」


 僕が、ニコニコと笑みを浮かべてそう言うと、魔道具メガネに映る色は、一気に恐怖に変わった。久しぶりに使ったけど、やっぱ、魔道具メガネって便利だな。



「こ、これで見逃してはくれませんか」


 ブラウンさんに絡んでいた男が、透明な入れ物に入った青い神矢を僕に差し出してきた。スキルの神矢は、触れると吸収してしまう。だから容器に入れて持ち歩いてるんだな。


「さっき言っていた『盗賊』の神矢? 超級かな?」


 差し出すくらいだから中級に決まっているが、意地悪く尋ねてみる。彼らの表情は、さらに絶望に染まった。


「い、いえ、ち、ちゅ、中級ですが、盗賊のスキルが無いとおっしゃってたから……」


 彼は、僕に神矢を押し付けて容器を消した。強引に僕に渡してしまおうと考えたらしい。


 痛っ!!


 神矢の吸収で、こんなに痛みを伴うのは初めてだ。魔道具メガネをかけていても、僕の表情は歪んでしまったようだ。ジョブの印の陥没の兆しがあるせいか……。



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