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41、ガメイ村 〜盗賊被害

 翌朝、僕は、黒服のブラウンさんと一緒に、ガメイ村へと行くことになった。


 昨夜は、遅くまで打ち合わせをしていたから、フラン様や娘ルージュが泊まる部屋へ戻ったときには、二人とも、すっかり眠っていたんだよな。


 しかも、朝早くからフロリスちゃんが、部屋にやってきたし……。はぁぁあ、僕としては、いろいろとモヤモヤするよ。



 ◇◇◇



「ヴァン、これが案内状だ。断られても構わない。調査が目的だからな」


 ファシルド家の旦那様は、僕に手紙を3通も渡した。


「あの、3つありますが?」


「一応、クルース家を招待するが、他にもいるかもしれんからな。宛名のない手紙は、必要に応じて使ってくれ」


「旦那様、どなたをお誘いしても構わないのですか?」


「貴族家で、伴侶を探している人なら、誰でも構わない」


「かしこまりました。では、行ってまいります」




 ◇◆◇◆◇




 海辺の町カストルからガメイ村へは、直通の転移魔法陣が設置されていた。


 貴族の別荘地を繋いでいるのかと予想したが、そうではないようだ。単純に、ガメイ村の赤ワインをカストルの店で多く取り扱っているからだそうだ。



「ヴァンさん、直通の転移魔法陣があるから移動も楽です。これなら、誘いやすいですね」


 黒服のブラウンさんは、芝居のつもりだろうか。ガメイ村に着くとすぐに、大声でそんなことを言っている。調査を忘れてないかと、少し心配になるけど。


「そうですね。ガメイ村に、こんな大きな転移屋があるなんて、知らなかったですよ。僕の村なら、転移屋さんが来るだけです。こんなにたくさんの転移魔法陣が設置されているなんて、驚きました」


 僕が興奮気味にそう話すと、ブラウンさんは微妙な笑顔だ。僕の言いたいことの意味が伝わっていない。僕としては、ぶどう産地なのに、すごいと言ったつもりが……。親友のマルクなら、すぐにツッコんでくれるんだけどな。


 転移屋の店舗があるのは、大きな街だけだ。普通は、個人で転移屋をしている人達が、村や町と契約して仕事をしている。僕も、転移屋を使って通学していたんだ。



 ブラウンさんは、転移屋を知らないのかな。あっ、彼は転移魔法を使えるのだろうか。


 彼は、ジョブ無しになったから、ジョブボードが使えない。フラン様に相談したみたいだけど、彼が納得できる方法ではなかったらしく、ジョブの印は無いままだ。


 たぶん彼は、ジョブ『ナイト』を確約してほしいのだろう。ハーシルド家の分家に生まれて、暗殺されかけたみたいだけど……。




「おや、兄さん達は、貴族家の使用人かい?」


 転移屋の店舗から出たところで、怪しげな女性に声をかけられた。魔導士風のローブに身を包んだ年配の女性だ。


 ガメイ村は、広大なぶどう畑とワイン醸造所がある。そして奥には貴族の別荘地が広がっている。


 しかし、この村には冒険者ギルドはない。だから警備兵はいるとしても、冒険者は居ない。観光客なら話は別だけど、今は観光シーズンでもないからな。


「ええ、そうですが、この村の者ではありませんよ」


 僕が黙っていると、ブラウンさんがそう対応してくれた。ブラウンさんは貴族なのに! あ、今は黒服だけど。


「そうかい、じゃあ仕方ないね。他を当たるよ」


 この言い方は、フリだな。関わらない方がいい。僕は、ブラウンさんに目配せをして、貴族の別荘地の方へ向かおうとすると……。



「俺達にわかることなら……」


 えっ……。なぜ、目配せを無視するんだ。いや、気づいてなかったのか。


「助かるよ。兄さん、あたしゃ、詐欺に遭っちまってね」


 いやいや、貴女がこれから僕達を騙すつもりでしょう?


「それは大変ですね。この村には、警備隊のような組織はないのかな」


 ブラウンさんが警備隊と言うと、年配の女性は一瞬表情を歪めた。


「大ごとにしたくないんだよ。あんたらの主人の屋敷で、ゆっくり休ませてくれたらそれでいいんだよ」


 あぁ、盗賊か。ガメイ村では盗賊被害が多いと聞く。広すぎるから、監視も行き届かないし、見知らぬ人が出入りしても誰も気にしないからな。



「もしかして、お金を盗まれたのですか?」


「商談で騙されてね。金を持ち逃げされたのさ」


 そんな魔導士風の商人はいないよ。なぜブラウンさんは、こんな怪しい女性を信用しているんだ? おまけに彼は、自分の小銭入れを差し出している。


「ブラウンさん、それはダメですよ!」


 思わず、キツイ言い方になってしまった。彼は、ハッと僕の顔を見た後、不思議そうに自分の手に持つ小銭入れを眺めている。


「すぐに、魔法袋に戻して……あぁ」


 しかし次の瞬間、小銭入れはパッと消えた。そして、その年配の女性の姿も消えていた。



「えっ!? 俺は、何を?」


「年配の女性に、小銭入れを盗まれたみたいですよ。なぜ、差し出してしまったんですか」


 僕がそう言うと、ブラウンさんは、やっと自分に起こったことを理解したようだ。


「気の毒だなと思って……宿代でも渡してあげようかと……なぜ、俺はそう思ったんですかね?」


 ブラウンさんは混乱しているようだな。まさか、自分がこんなことに引っかかるとは思いもしなかっだのだろう。




「兄さん達、やられたのか。転移屋付近でキョロキョロしていると一番狙われるぜ? しかも、あんたらみたいな、お貴族様の使いだと丸わかりな黒服は、カモだな」


 数人のごろつき風の男達が、ケラケラと笑いながら近寄ってきた。きっと見てたんだろうな。


 ブラウンさんは、彼らをキッと睨んだが、何も反論できないようだ。はぁ、僕も油断していた。黒服の姿で出歩くと、こんな危険があるのか。



「さっきの年配の女性は、ジョブ『盗賊』ですね?」


 僕がそう尋ねると、男達はニヤリと笑った。


「へぇ、そっちの坊やの方が、少しは常識を知っているみてーだな。いかにも、あの婆さんは、ジョブ『盗賊』だな。この村には、いくつも盗賊団があるが、ジョブ『盗賊』は、基本単独行動だからな」


 僕は、カマをかけたつもりだったんだけど、コイツらは、ペラペラとよく喋る。


「で? 貴方達は、どこの盗賊団なんですか」


 僕がそう尋ねると、ブラウンさんは、やっと警戒したみたいだ。彼は、獣人の集落でしばらく過ごしていたためか、剣を腰に差していない人に対する警戒心が皆無なんだよな。ナイトの特徴だろうか。


「ガハハ、教えるわけねーだろ。ふぅん、あんたは、ちょっと、裏の臭いがするな」


 この言い方は、僕を同業だと思っているのか。


「あいにく、盗賊のスキルは持ってないんだよね」


「ほーん、それで、この村へのお使いに同行したんだな。つい先日も、盗賊の神矢が降ったばかりだぜ」


 はい? なぜ、ガメイ村に盗賊の神矢なんて……あー、そっか、なるほどな。



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