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38、海辺の町カストル 〜逆サーチの結果

 ファシルド家の旦那様と冒険者ギルド所長ボレロさんも、地下室へと降りてきた。


「お呼びでしたか?」


 ボレロさんは、ゼクトさんにそう声を掛けた。ゼクトさんが念話か何かで、二人を呼んだみたいだな。旦那様は壁に立て掛けた大きな板に目を移し、首を傾げている。この魔道具は、有名なものじゃないのか?



「あぁ、わかったことを共有しておく。これはルファスが設置したから、付近にも拡張効果があるはずだ」


 ゼクトさんはそう言うと、地下室の窓を開けた。ちょ、サーチされてたんだよな。開けても大丈夫なのか?


「今夜は夜風は冷たいな。防音か何かの魔道具かな」


 旦那様は、本当に知らないみたいだ。まぁ、板には、さん呼びについての表示があるだけだからな。いつの間にか、35杯に修正されている。



「これは、記録の魔道具ですよ。逆サーチの効果付きなのは、意外に知られていないようですが」


 ボレロさんが旦那様に、そう説明している。やはり有名な魔道具みたいだ。


「サーチを受けていたのか、この屋敷が」


 旦那様は目を見開いているけど、たぶん珍しいことじゃない。有力な貴族家は、常に動向を探られているだろう。


 この屋敷に僕の家族まで集めたのは、僕の誕生日を祝うというフリをしたかったから、かもしれない。ファシルド家の旦那様が来ると、必ずどこからか情報は漏れて、何をしているのかを調べられるはずだ。


 特に、この場所は海岸沿いの高台にある。カストル沖の小島に何か建物があるらしいが、その関係者なら当然、海岸沿いは気にしているだろう。



「まず、カストル沖の小島で、今起きたことから話すが……」


 ゼクトさんは、そう話し始めるとマルクに目配せをした。マルクは、さっきのポスネルクを処分する映像を、旦那様とボレロさんに見せている。


「見ての通り、大量に毒ヘビを処分したようだ。そして、喰わせすぎたのか、異界の魔物も倒れている。今夜は、冒険者パーティ赤ノレアが一斉に、討伐作戦をしたらしいな」


 赤ノレアの討伐作戦? ファシルド家のスピカの本邸にも、赤ノレアから何人もが警備に行っているんだっけ。


「あぁ、俺がこのカストルに来るタイミングに合わせて、狙われている貴族家が合同でな」


 旦那様は、出掛けることを知らせていたらしい。敵が仕掛けてくると考えて、今日という日を選んだのか。屋敷を空ける理由として、やはり僕の誕生日を利用したんだな。


 僕は知らなかったけど、21歳の誕生日が第二の成人の日だという。貴族家であれば、旦那様が僕を祝うために屋敷を離れることは、あらかじめ予想していたかもしれない。



「撃退はできたみたいだな。赤ノレアが絡んでいたことから、念のために生き残った毒ヘビは処分したようだ。ただ、それだけか?」


 ゼクトさんは、僕に視線を移した。たぶん、僕がラフレアのマザーから聞いたことや、ネズミ達の情報を尋ねているのだろう。


「僕が見た別の映像は、影の世界からの様子だったので、はっきりはしないんです」


 僕が話し始めると、マルクも頷いている。マルクも従属を経由して同じ映像を見ていたもんな。


「できる限り、情報を共有したいです」


 ボレロさんが、期待を込めた目をして、そう促した。



「では、ラフレアのマザーからの情報ですが……」


 そう話し始めると、皆がゴクリと唾を飲み込む音が聞こえた。


「大量の魔物が処分され、大量の獣の悪霊が発生したようです。屋敷では、跡が残らないようにしかばねを処理していた黒い魔物がいましたが、小島でも、その魔物にポスネルクの死骸を喰わせていました」


「ゴミ箱扱いか」


 ゼクトさんが吐き捨てるように、そう言った。彼も、魔物を酷使する人間に怒りを感じているようだ。


「はい、黒い魔物は、嫌がっていました。ポスネルクの死骸を喰いたくないように見えました。影の世界の魔物が、ポスネルクの強い怨念に飲み込まれてしまうからだと思います」


 そこまで話すと、マルクがハッとした表情を浮かべた。そして魔道具を操作して、映像を再び確認している。



「ヴァン、もしかして、コイツらが倒れたのは、食いすぎじゃなくて……」


「死骸だけなら、黒い魔物にとって、タダの餌だと思う。だけど、人間に利用されて殺されたポスネルクの怒りが、死骸を喰った魔物に向いたんじゃないかな」


 僕がそう話すと、ゼクトさんは、自分の頭をトントンと叩き始めた。いつもの笑みはない。



 僕の腕の中では、泥ネズミのリーダーくんがソワソワし始めている。賢そうな個体は少し警戒しているようだ。危機感知という点からいえば、リーダーくんの方がわかりやすい。


「何か、動きがあったかな?」


 腕の中にいる泥ネズミに語りかけると、皆の視線が僕の腕に集まった。マルクの肩には、ネズミくんが登場している。


『黒ネズミ達が、念話を断ち切りました』


 賢そうな個体がそう答えてくれた。リーダーくんは、必死に念話を繋ごうとしているのか、ソワソワしている。


「それって、黒ネズミが異界で殺されたってこと?」


『いえ、生体反応が消えたモノはいません。我々との繋がりを隠す必要ができたようです。あの小島にいた人間が、影の世界へと入ったのだと推測できます』


 どういうこと? 見ていたことがバレたのかな。


 だけど、泥ネズミ達がそんな失敗をさせるわけがない。諜報活動なら、どんな魔物よりも優れている上に、僕の覇王効果で能力はさらに底上げされているはずだ。


『どるるーんってされそうだから、こわいのでございますですよー。大きなくせに、チビるのでございますです!』


 リーダーくんは、念話を繋ぐことができたみたいだな。そうか、魔物を虐殺していた人間が、影の世界へ行ったのか。



「この屋敷も、影の世界から覗かれるかな?」


 僕がそう呟くと、マルクがポカンとした顔をした。うん? 何か、変なことを言ったっけ?


「ヴァン、何のためにルファスが、記録の魔道具を出したか忘れてねーか?」


 ゼクトさんは、壁に立て掛けた板を指差している。あー、もしかして、サーチって、異界からされていたのか?


「逆サーチの結果を聞いてないですよ。マルク、影の世界からだったの?」


「これを見て」


 マルクが見せた魔道具には、逆サーチの結果が表示されていた。ここの近くの、影の世界だ。名前も数名表示されている。


「距離が近かったから、種族名だけじゃなく詳細サーチができたよ。ロン・ヒルースとその側近だね」


 旦那様は、食い入るように魔道具を見ている。


「嘘だろう? ロン・ヒルースは、当家と友好的な……ヒルース家の次期当主だぞ」



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