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37、海辺の町カストル 〜おとり?

「ヴァン、何か異変があったか?」


 屋敷の地下室まで戻ってくると、ゼクトさんが僕達を待っていた。彼は窓から、海岸の様子を見ていたようだ。高台にある屋敷の地下室は、海岸よりも高い位置に窓がある。


 海岸にいた僕達よりも、遠くまで見えていたのかもしれない。ゼクトさんは、様々なスキルを持っているもんな。暗い海も、普通に見えるのかもしれない。



「カストル沖の小島なんですけど、ポスネルクが処分されたみたいなんです」


 僕がそう伝えても、ゼクトさんは軽く頷いただけだ。それはわかっていたみたいだな。


「闇市で入手した魔道具も壊されたんで、ゼクトさんが言っていたように、かなり大規模な組織ですね」


 マルクは、事前にゼクトさんと打ち合わせていたのか。そんなことは、何も言ってなかったのにな。


「ルファス、受信器は即座に破壊したな?」


「はい、すぐに消し炭にしました。記録映像は、こちらに」


 マルクは巨大な画面のような物を、魔法袋から取り出した。さっき見た映像が流れている。僕が見た部分だけじゃなく、その前からの映像だ。


 ポスネルクが処分されていく様子が見える。その実行者は、顔をフードで隠した人間のようだ。この感じは、裏ギルドに出入りするタイプかな。


 その実行者が放った刃物のような何かが当たり、映像は終わっている。魔道具に気づいたってことだよな。


 映像には、その前に見えたアーチャー系の貴族の姿は映っていない。マルクがこの魔道具を使ったのは、黒ネズミからの映像を見てからだろうな。


 相手に気づかれないように、貴族を映さないようにしていたのか。実行者が映ったから、バレたのか。見られているかどうかは、僕は気付けないけど、それを察知する技能は珍しくない。裏ギルドに出入りする人なら、そういう技能は持っているはずだ。



 この世界には、ギルドは、商業ギルド、冒険者ギルド、そして工業ギルドの3種類あるが、それは表の話だ。これとは別に、裏ギルドもある。


 裏ギルドは暗殺者が多いイメージだけど、実際には、諜報系の依頼をこなす人の方が圧倒的に多いらしい。何者かの依頼により、裏ギルドに出入りする人達が妙な噂を流し、商業の街スピカが大混乱したこともあった。


 秘密裏に何かをさせるために利用するのが、裏ギルドだと思う。僕も一応、ピオンとしての登録はある。


 貴族家が、特に後継争いで、いろいろな依頼を裏ギルドにしていることは、知られていることだ。ファシルド家も例外ではないと思う。自分達を守るために、レジスト依頼をすることも少なくないようだ。


 この一連の、武術系ナイトの貴族への過剰な攻撃は、後継争いの域を超えている。やはり、アーチャー系の貴族からの逆恨みなんだと思うけど……その証拠がない。そして、これを切り抜ける力がないと噂されることが、その家の格を落とすことになる。


 神官三家のひとつ、トロッケン家は統制の神官家だ。本来ならトロッケン家が、こういう事態に対応すべきなんだと思うけど……トロッケン家も、ちょっとおかしいんだよな。




 僕の腕の中にいる泥ネズミ2体が、同時に身体をこわばらせたように感じた。他のネズミ達は、この場所から離れたみたいだけど、この子達は残ってくれたみたいだ。


 だけど何も言わない。固まってジッとしている。



「おとりか?」


 ゼクトさんが泥ネズミ達を指差して、妙なことを言う。


「へ? いえゼクトさん、この子達は、震えているみたいだから……」


 すると、ゼクトさんはニヤッと笑った。


「ヴァン、今、俺のことを何と呼んだ? さん呼びしたら、エール10杯だと言ってあったよな?」


「えっ? あ、えーっと、でもゼクトさ……」


 僕は、言いかけた言葉を飲み込んだ。こんなときに、ゼクトさんは何を言ってるんだ?


「ククッ、今のは、半分だな。エール15杯かぁ。楽しみだ。この調子なら、俺はずっとタダでエールが飲めそうだぜ」


「ちょ、ゼクト……」


 そんな、呼び捨てなんてできないよ。名前を呼んだとこで、手で口を塞がれた。何をやってんだ? そして、角度を変えると、ゼクトさんは僕に目配せをした。


 そうか、今、どこかから、サーチされてるんだ。


 マルクが魔道具であんな映像を手に入れることができるんだから、当然、相手も同じような魔道具を持っている可能性はある。


 そう考えると、泥ネズミ達が何も喋らないのも納得できる。さっき固まったのは、そのサーチを察知したためか。



「エール15杯じゃなくて、もっと強い酒にしようかな」


 ゼクトさんは、さっきの話の続きをしている。するとマルクも、口を開く。


「15品ってことにしたら、どうですか? ヴァンは、お金には困ってないから、気にせずどんどん言ってしまうかもしれませんね」


「ククッ、じゃあ、やはり俺は、ずっと飲み放題だな。ルファスの分も、奢ってやろうか?」


 いやいや、何を言って……。すると、マルクは魔法袋から、大きな板のような物を出した。


「ゼクトさん、これは記録の魔道具です。どこか目立つ場所に貼っておきましょうか。回数がわからなくなりそうですから」


「あはは、そんなにデカイ板が埋まるほど、ヴァンは失敗を繰り返すか? ククッ、あり得るな。その壁に貼っておけよ」


 記録の魔道具?


 マルクは、地下室の窓の横に、その板を立て掛けた。すると、僕の腕の中で固まっていた泥ネズミ達が、緊張を解いたのが伝わってきた。




「ヴァン、もう大丈夫だ。上手く合わせたな」


 ゼクトさんは、ニヤッと笑っている。


「えっ? ゼクトさん、そのマルクが出した魔道具って……あーっ!」


 壁に立て掛けた板には、『さん呼び1回』と表示された。本当に記録する魔道具なのか。


「おまえなー、25杯だぜ」


「えっ、ちょ……」


 すると、マルクは別の魔道具を出して、僕に見せた。



「こっちが受信器だよ。サーチをしている敵の位置を知る魔道具なんだ。この板は様々な記録ができるから学校でよく使われるけど、真の機能は、逆サーチだ。だから、奴らはサーチをやめたんだ。もう遅いけどな。ヴァンのネズミくん達のおかげだね」


「マルク、相手の位置がわかったの? ってか、この子達が何かした?」


「ヴァン、泥ネズミが主人の元に現れるときは、報告時か新たな命令を受けるときでしょ。だから奴らは、この部屋に照準を合わせた」


 ゼクトさんはニヤニヤしながら、マルクの魔道具を確認し、頷いている。


「あっ、だからさっきゼクトさんは、この子達をおとりだと言ったんですね」


「ヴァン、35杯だぜ? おまえ、うっかり者すぎるだろ」


 いや、そんなことを言われても……。



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