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33、海辺の町カストル 〜契約の鍵

 僕達は、ボレロさんが操作する魔道具によって、海の上からファシルド家の屋敷に転移してきた。


 ボレロさんは、来客か何かを気にしていたのに、わざわざ僕を送り届けてくれたのか。会わせたくない来客から、僕を隠しているのかもしれないな。



「ささ、着きましたよ〜」


 そう言いつつ、なぜかボレロさんは屋敷の門を開いた。そして、門番に軽く手をあげて挨拶している。


「えっ? ボレロさん、僕を送ってくれたんじゃないんですか? ファシルド家の別邸にご用でしたか? えーっと、今日は夕方から来客予定があるみたいで……」


「ヴァンさん、ひどいですよ。ボレロも、お仲間に入れてください」


「はい? ボレロさんもお客様なんですか? 何も聞いてなくて、すみません。では、どうぞ……へ?」


 扉を開けると、そこにはキョトンとした顔のルージュが座り込んでいた。まだ、娘は歩けないんだけど、行動力が半端なくて、すぐにハイハイでどこかに消えてしまう特技を持っている。


「えっ、ルージュ?」


「あいー」


 僕は思考が停止していた。なぜ、こんなところに娘がいるんだ? まさか、デネブからここまで脱走してきたんじゃないよな。



「もう、ルージュが〜……あっ、しまった」


 パタパタと玄関に走ってきて固まるフロリスちゃん。えーっと? 夕方から来る来客は、フロリスちゃん達なのか? 娘のルージュまで連れてきて、僕を驚かせようとしてたってところかな。


「フロリス様、いらっしゃいませ。ルージュも連れてきてくださったのですか?」


「あー、う、うんっ、フランちゃんもテンちゃも来てるよっ。あはは、あはっ。もうっ、バレちゃったぁ〜。あっ、でも、うふふ」


 ルージュが部屋から脱走したから、か。何かを企んでいるような顔のお嬢様。この町に来たがっていたからか、落ち着かない様子だ。


 当然、ルージュが居るんだから、フラン様も神獣テンウッドも一緒だとは思っていた。二人は奥の食事の間だろうな。



「ささ、ヴァンさん、参りましょう。大広間は、2階でしたね」


 ボレロさんは、僕を2階へと急かす。ルージュが1階に居るってことは、フラン様も1階にいるはずだ。ルージュに階段は使えない。


「はい、えーっと、僕はちょっと……」


「あれ? 2階ってどこから上がるんでしたっけ?」


 ボレロさんは、僕を食事の間には行かせたくないらしい。そういえば、執事長バトラーさんも様子がおかしかったよね。まぁ、いっか。


「ご案内しますよ、ボレロさん」


 そう言っている間にも、ルージュは姿を消していた。フロリスちゃんが慌てて奥へ走って行ったから、食事の間に戻ったみたいだな。




 2階の大広間の扉を開けると、そこにはファシルド家の旦那様がいた。なぜか、極級ハンターのゼクトさんと、僕の親友のマルクもいる。


「ヴァン、21歳の誕生日おめでとう!」


 えっ!? あ、そうか、誕生日か。


「旦那様、ありがとうございます。えーっと、これは何事ですか?」


「あはは、やはりわかってなかったらしいな。まぁ、バトラーもバレないようにしていたみたいだが」


 僕は、誕生日のことではなくて、この集まった人達の理由を尋ねたつもりだったんだけどな。


「カストル沖は、今はまだ調査中です。あっ、もしかして、彼らは助っ人ですか」


 僕が真面目に話しているのに、マルクがぷぷっと吹き出した。ボレロさんもニヤニヤしているんだよな。



「ファシルド様、俺から話しますよ」


 マルクがそう言うと、旦那様は軽く頷いた。


 マルクも、有力貴族の生まれだ。武術系ナイトのファシルド家とは違って、魔導系の貴族なんだ。その中でも有力な黒魔導系のルファス家の生まれだ。そして、マルクの奥さんは、王都で有名な商人貴族ドルチェ家の人なんだ。



「ヴァン、誕生日おめでとう。21歳が第二の成人だということを知ってる?」


「ありがとう、マルク。いや、成人は13歳だよな?」


 第二の成人だなんて、聞いたこともない。


「やっぱり、わかってなかったか。ヴァンが20歳の誕生日の日にも話したけどさ、20歳になれば、新たな貴族家の立ち上げができるだろ?」


 確か、ルージュが生まれた日に、そんなことを言ってたっけ。貴族家を立ち上げろって……。


 ルージュに『神官』のジョブが与えられてなかった時のためらしい。ドゥ教会を継げないと、心を痛めるかもしれないから、選択肢がある方がいいと言っていた。


 実際に、そういうことが原因で、心が壊れてしまう神官家に生まれた人を、僕もたくさん知っている。


「うーん? そうだっけ?」


 僕がすっとぼけていることは、マルクには見抜かれている。


「警戒しなくていいよ。何かを強制するつもりはないし。ただ、21歳は大切な節目だからな」


「もしかして、そのお祝いに来てくれた? なんてことは、ないよね」


 ちょっと調子に乗りすぎたと、僕は失言を後悔した。



「そのお祝いの準備は、1階でやってますよ? サプライズゲストは見なかったことにして、驚いてあげてくださいね」


 ボレロさんから、意外なリクエストだ。まぁ、でも……バッチリ会ってしまったんだけどな。


 僕は、あやふやな愛想笑いを浮かべておく。



「ヴァン、それで、本題なんだけどさ」


 マルクが話を再開した。


「うん、何?」


「冒険者ギルドからヴァンに、第二の成人祝いが出てるって聞いた?」


「へ? 聞いてない」


「冒険者ギルドへの貢献度の高い、普通の冒険者への成人祝いなんだ」


 マルクは、言葉を選んでいるけど、一般庶民ってことだよな。僕はドゥ家の当主の伴侶だけど、まだ神官とは言えないし。



 ボレロさんが、僕に、剣のように長い物を差し出した。


「ヴァンさん、契約の鍵です。冒険者ギルドから進呈しますよ」


「はぁ、ありがとうございます。これは何ですか?」


 すると、マルクが代わりに口を開く。


「ヴァン、これを使う対象を選んで。そのために、こうして集まっているからさ」


「マルク、全然、意味がわからない」


「ヴァンは、契約できるんだよ。ファシルド様と契約すれば、武術系ナイトの下級貴族に推薦される。俺は、ルファスとドルチェの二つの名を持つから、黒魔導系の貴族と、商人貴族、そしてレモネ家の旦那様から代理を頼まれたから学者貴族も推薦できる。そして、ゼクトさんは弟子にするんでしたっけ?」


 マルクの視線がゼクトさんに向いた。


「本来なら師弟契約だが、俺は弟子は要らない。だから、相棒契約だな。ボレロは、ギルド所長候補契約だったか? すべて、20歳か21歳から可能な契約だ。もちろん途中で破棄もできる」


 おぉっ! ゼクトさんの弟子!?



「ヴァン、これは貴族の家を立ち上げるチャンスだ。契約の鍵を使用した推薦は、国王様にしか拒否権はないからな。さぁ、どうする?」


 旦那様は、そう言うけど僕は……。



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