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31、海辺の町カストル 〜海の監視と釣り

 半魚人達との契約は、冒険者ギルドの所長ボレロさんが、特殊な書類にまとめてくれるという。カストルにあるギルドの出張所に、ボレロさんは半魚人達を連れて行った。


 料理人ベンさんの弟さんが、彼らとの仲介役をしてくれるみたいだ。また店に来てくれと言って、彼はボレロさんと一緒に立ち去っていった。


 うーむ、その店の場所がわからないんだけどな。あまりにも町は、変わってしまったんだよね。



 ボレロさんは、始めから、こうなることも想定していたのかな。なんだか僕は、うまく乗せられた感じだ。でもボレロさんが半魚人達を人間として扱うことで、野次馬達の視線が少し変わった気がする。



「ヴァンさん、精霊様をそろそろ……」


 執事長バトラーさんは、僕の背後に視線を移した。そういえば、デュラハンを立たせたままだったな。でも、デュラハンが消えると、黒い魔物達が自由に動き回りそうだけど……。


「そうですね。目立つと怖がられそうだから、隠れておいてもらおうかな」


 僕がそう言うと、デュラハンはスッと姿を消した。野次馬達は、闇の精霊が近くにいると思ったのか、デュラハンが消えても近寄ってこなかった。


 よかった。これなら、黒い魔物と観光客が遭遇して、騒ぎになることもないかな。普通の人の目には見えにくい生き物だし。



「ヴァンさんは、なかなかの策士になりましたね」


 バトラーさんは小声でそう言うと、フッと笑みを見せた。なんとなく彼に認められたような気がした。僕としては、そこまでの意図があって言ったわけじゃないんだけどな。




 ◇◇◇



 それから数日が過ぎた。


 何もなかったファシルド家の別邸は、もうすっかり、貴族の屋敷らしく整えられている。



 僕は、半魚人達に釣りを習うという理由で、ほとんどの時間は屋敷の前の海岸にいた。のんびりと釣りをしているように見せていたが、実際にはカストル沖の監視と黒い魔物への牽制をしていた。


 高台のある岩壁には、半魚人達の棲み家がいくつも作られている。彼らは堅い岩盤でさえ、手で器用に穴掘りをするんだよな。


 半魚人達も、僕への釣り指導のフリをして、海から流れてくる黒い魔物が町の中へ入り込まないように、ガッチリと警備してくれている。



「ヴァンさん、流れてくる魔物は、どうやら難民みたいだな」


 リーダー格の半魚人が、僕に、新しい釣り竿を渡しながらそう言った。


「難民? どういうこと?」


「我々の考えとは、全く違うことが起こっているようだ。我々も、海岸で監視をしたことがなかったからな。影の世界に帰れないんじゃないか?」


 へ? 帰れない?


「僕には、様々な種類の魔物が流れてくることしか、わからないけど」


「だが、その魔物も、しばらくすると居なくなるだろう? 影の世界への扉か何かが開くと、黒い魔物は一気に消える」


 確かに、空中に裂け目が現れると、いつの間にか黒い魔物達は消える。そのときを待っているのか、ずっと隠れてるんだよな。


「影の世界へ帰ってるのかな? 何かに喰われている可能性はない?」


「海を漂っている魔物は、いろいろなモノに喰われているが、海岸に上がってきた奴らは、帰っていると思う。何の悲鳴も聞こえないからな」


 そうか。半魚人達は、人間には聞こえない声が聞こえる。黒い魔物達の声も聞こえているのか。僕には、影の世界の黒い魔物達の声は聞こえない。たまにデュラハンが、何かを知らせてくることはあるけど。



「影の世界への出入り口は、頻繁に開いているの?」


 僕がそう尋ねると、半魚人は、砂浜に何かを書き始めた。丸をいくつか書いて、線で結んでいく。何をしてるんだ?


「ヴァン、監視を始めてからの記録だ。この丸印は、海に浮かぶ小島。線は、影の世界との出入り口だ。出入り口が大きいと、魔物がこちらの海にこぼれてくる」


「半魚人さん、すごい記憶力だね」


 思わずそう叫ぶと、半魚人達は得意げな表情を見せた。そうか、仲間で念話をしながら、この図を書いたのかもしれない。あちこちで、ちょっと嬉しそうにニヤけている。


「まぁな。海に入って監視している者も多いからな」


「半魚人さん、出入り口が現れる時間に法則はある? 夜ばかりとか昼ばかりとか」


「夜が多いが、深夜はない。法則といえば、すべて、この小島まで泳げる距離だということだ」


 半魚人が砂浜で指差したのは、ボレロさんが調べてほしいと言ってきた小島だろう。そして、泥ネズミの眷属けんぞくの黒ネズミからの報告もあった、ポスネルクが逃げた経由地だ。


 デュラハンによると、あの小島がある辺りは、影の世界では海ではなく森なのだそうだ。影の世界には、海は存在しないのかもしれない。


 影の世界のその森の中には、異界の人の集落があるという。その中の様子は、デュラハンにはわからないらしい。対霊用の結界が張ってあるから、見に行くのは危険みたいだ。


 だが同時に、普通ではないという証拠だとも言っていた。ただの集落なら、そんな結界は張ってないらしい。そもそも影の世界では、人は霊を怖がらない。三すくみの関係で、人は霊には強いからだそうだ。



「半魚人さん、さらに監視をお願いします。この線が引かれた場所は、影の世界では森になっていて、人の集落があるみたい」


 僕がそう言うと、半魚人達は目を輝かせた。頼られることが嬉しいのかな。


「ヴァン、我々が知り得ない情報も教えてくれるのだな。その信頼には是非とも応えたい。時間以外に何が法則がないか、注意深くさぐってみるよ」


「うん、お願い。出入り口と黒い魔物の種類の関係がわかれば、もっと助かる」


「あぁ、そうだな。黒い魔物に魚がいないのが不思議だったが、陸の生き物ばかりなのは森に棲む種族だからか。そこに気をつけて監視していこう」


 半魚人達は、力強く頷いてくれる。やはり、かなり知能が高い。もう、絶対、人でいいよね。



「ヴァン、また、竿を持っていかれたか」


「えっ? あー、ほんとだ」


 さっき受け取ったはずの餌つきの釣り竿が、僕の手から消えている。おかしいな、ちゃんと握っていたんだけどな。


「海では、魚の方が賢いんだよ。ほれ」


 新しい釣り竿を渡してくれた。彼らは、海藻から釣り竿を作るんだよな。だから、手から滑りやすいのかもしれない。でも絶対に折れないらしいから、扱い方が上手ければ、きっと有利な釣り竿だ。


「ありがとう。だけど、さ……」


「かかったぞ! ちゃんと掴めよ」


 ひゃー、お、重い。半魚人も、僕の釣り竿の糸に新しい釣り竿を引っかけて、一緒に引っ張ってくれる。


 ザバッ!


 すんごい水音とともに釣り上げたのは、僕の身体よりも大きなナマズのような怪魚だった。


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