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24、海辺の町カストル 〜かわいい観光地

 僕達は、ファシルド家に設置されている転移魔法陣を使って、海辺の町カストルへとやってきた。


 案内役は、冒険者ギルドのボレロさん。そして、唯一、事前に事情を知っていた執事長のバトラーさん、さらに、呆然としている料理長と黒服のブラウンさんの総勢5人だ。


 以前ゼクトさんと、冒険者ギルドのミッションで来たときとは、まるで違う町になっていた。道が新たに整備され、白い壁の石造りの小さな建物が並んでいる。大通り沿いには、色とりどりの布製の日除けをつけた露店があり、甘い香りや香ばしい香りが漂ってくる。


 フロリスちゃんが行きたいと言っていた理由が、ちょっとわかった気がする。観光客らしき人達の大半は女性だ。おしゃれな若いカップルも多いかな。



「なんだか、かわいらしい町ですね」


 僕が思わずそう呟くと、料理長が口を開く。


「だから、ベンが里帰りしにくくなったと言っていたのだな。実家の定食屋は、昔と変わらないらしいが」


 料理人ベンさんの実家は、魚料理が美味しい地元密着型の定食屋だ。だけど、こんなに町が変わってしまったから、僕はどこにその店があるのか、わからない。記憶もあやふやなんだよな。古い漁村っぽい家が並ぶ路地裏にあったような気がするけど。


「変わってないなら、この雰囲気には合わないかもしれませんね。でも、漁をしている人達もいるはずだから、地元の人には変わらない店の方が嬉しいかもしれません」


「あぁ、そう言っていた。アイツの魚料理は、ここで腕を磨いたのだな」


 料理長は、柔らかな表情をしている。いつも怒鳴っているイメージだったけど、こっちが本来の彼なのかもしれないな。




「さぁ、皆さん、お屋敷は、こちらですよ」


 海沿いの高台へと続く坂を上がっていくと、ボレロさんが、かわいらしい建物を指差した。この高台には、綺麗な外観の、少し大きめな建物が並んでいる。貴族の別邸エリアだろうか。


「聞いていたよりも、小さな屋敷ですね」


 執事長バトラーさんも、初めて来たらしい。やはり今日、買うことを決めたばかりなのだろうな。


「外から見るよりも、中は広いですよ。この屋敷は海に近いから、地下室から海岸へ出られるのです」


 ボレロさんは、なんだか販売員みたいな口調だ。おそらくファシルド家の旦那様は、ボレロさんを通じて、この屋敷を買ったのだろう。


 空き屋敷は、普通は商業ギルドを通じて売買されるのだと思うけど……ボレロさんは、デネブの冒険者ギルドの所長さんなんだけどな。



「海岸に近い物件をとお願いしましたが、海岸に出られるなら逆に危ないですねぇ」


 バトラーさんは、高台から海岸を見下ろして、少し不安そうだな。管理責任者は、バトラーさんになるのか。


「そうなんですよ。だから、この屋敷を建てた人は、すぐに売りに出してしまわれましてね。一度も入居されていません」


 ボレロさんは、そんな屋敷をファシルド家に売ったのか。いや、旦那様が急遽、何でもいいから探せと言ったのかもしれないけど。



 屋敷の中に案内された。確かに、見た目よりも広く感じた。あー、天井が高いからかな。開放感のある素敵な屋敷だと思う。


 僕達は、今日から、この屋敷に泊まることになりそうだ。僕は、少しワクワクするような高揚感を感じた。海が見える家というだけで楽しみだ。


 フラン様や娘ルージュは、この景色を喜ぶだろうな。あっ、まだルージュは、よくわからないか。



 ボレロさんに屋敷内を案内されるにつれ、バトラーさんの表情は曇っていく。何が心配なのだろう?


「地下室から、海岸に出てみましょう。当然、海岸にある門は、しっかりと封鎖してありますよ」


 そう言いつつ、ボレロさんは剣を腰に装備した。言っていることと行動がチグハグなんだよな。


 地下室には、小さいけど窓があった。海がより近くに見える。屋敷の構造から考えて、ここは使用人の部屋なのだと思う。


 その地下室には、頑丈な扉があった。


「扉の先は、海岸へ降りる階段になっています。その先には、先程も紹介したとおり、しっかりと封鎖することができる門がありますから」


 その扉の鍵を開けたボレロさんは、少し変な笑みを浮かべて僕の方を振り返った。この扉の先は、外だよな? 門を越えて、ここまで上がってきている何かがいても不思議ではない。


 何の指示もしてないのに、契約精霊のデュラハンが加護を強めた。僕の見た目は、まがまがしいオーラを放つ鎧騎士の姿に変わっているだろう。



「ヴァンさん、助かります。何か、いますね〜」


 ボレロさんは、苦笑いを浮かべながら、扉に手をかけた。料理長とバトラーさんは、少し後退している。二人は冒険者じゃないからな。


 一方で、黒服のブラウンさんは、いつの間にか腰に数本の剣を装備している。そして、細長い剣をスーッと抜いた。


「開けますよー。ボレロはすぐに後退しますからね」


 いやいや、頑張ろうよ。


 たぶん、ボレロさんは自分が邪魔になると感じているんだ。ブラウンさんはたぶん強い。だけど僕の基本戦闘力は、新人冒険者並みなんだよな。



 ボレロさんは、勢いよくバンッと扉を開くと、本当に後退している。扉の先に居たのは、見たことのない真っ黒な生き物だ。


 すかさずブラウンさんが飛び出して行くと、その生き物は慌てたらしく、階段を転がり落ちた。


 僕の身体からは、まがまがしいオーラが放たれていた。特に何かの指示をしなくても、デュラハンは僕の思考を読み取って行動を決めてくれる。


「うわ、ヴァンさん? あれ? その強烈なオーラは? 貴方は、異界の悪霊だったんですか」


 失礼な。デュラハンが……喜ぶじゃないか。


「いえ、僕はこの世界の人間ですよ。これは、闇の精霊の加護です。ちょっと脅しているだけですが」


 僕の身体から放たれたオーラは、階段に転がっている数体の真っ黒な生き物を捕らえている。



『コイツら、異界の獣だぜ』


 デュラハンからの念話だ。影の世界から出てきたのか。ということは、この付近に異界への出入り口があるのかな。


『ここに流れ着いたんじゃねーか? 例のカストル沖の小島から。コイツらを使えば、いろいろわかりそうだな』


 そうかな? だけど、僕は異界の獣を操るスキルは持ってないんだよね。


『おまえなー、誰かを忘れてねーか?』


 ブラビィは、元悪霊だし偽神獣だったよね。


『は? お気楽うさぎのことじゃねーよ。もっと頼りになる精霊様を忘れてねーかって言ってんだよ』


 ふふっ、デュラハンが珍しくヤル気だね。



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