表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/170

23、商業の街スピカ 〜旦那様からの新たな依頼

「アーチャーの貴族の仕業なら、ボレロも納得できます。ナイトの貴族の方々とは違って、魔獣使いが多いですからね」


 ボレロさんは、僕の可能性の話に頷いてくれる。だけど、この顔は、まだ半信半疑だろうな。


「今回の件は、少人数で出来ることではありません。今、ファシルド家がターゲットになっているようですが、順次、いくつかの貴族家を潰していくつもりなら、かなりの数の関係者がいるでしょう。それに、これに便乗する別の動きもありそうです」


 僕は、明言を避けた。組織的に動く者達以外に、おそらく奥様方がいろいろとやっていると思う。これは、後継者争いの範囲なのだろうけど……。貴族家を潰そうとする勢力が、後継者争いの激しさを利用しているとも言える。


「ヴァン、言いたいことは、わかっている。だが、ある程度は、どこの家でも起こる争いだ。それを生き延びることができなければ、貴族家の当主は務まらない」


 旦那様は、奥様方の行動には関与しないつもりらしい。行き過ぎた行為には、さすがに罰を与えるだろうけどな。


 そうか。旦那様がブラウンさんを黒服として雇ったのは、このためか。フロリスちゃんの部屋を担当させたのは、彼女との面識があるからだろうけど、それだけなら他にも魔導学校に通う坊ちゃんやお嬢様は居る。


 剣聖と呼ばれるブラウン学長、その死んだと思われていた息子を、僕と引き合わせるためだな。ということは……。



「ヴァン、ちょっと相談なんだがな」


 嫌な予感しかしない。


「はい、何でしょう?」


「食事の間は、天井や壁の見張りを用意する。そして、ポスネルクという毒ヘビの魔物を操る者がいることを公表する。さらに、ボレロからの提案だが、有力冒険者パーティから、数人、黒服に紛れてもらうことにした。そして、このことも公表する」


 なるほど、ファシルド家にいる『魔獣使い』が簡単には動けないようにするわけだ。その有力冒険者パーティが気になるが、おそらく僕が所属する青ノレアだろうな。


 青ノレアという冒険者パーティは、今は確か80人くらいのメンバーがいる。全員がレアスキルやレア技能を持つ。冒険者ランクも全員Sランク以上だ。


「旦那様、そんな公表をしては、犯人は動けなくなりますね」


「あぁ、当家から出て行ってくれるといいが、別の策を講じるだろうな。だが、しばらくは動きを止められるはずだ」


 僕がチラッとボレロさんの方に視線を移すと、やはり旦那様と目配せをしている。初めからそのつもりだったらしい。僕とブラウンさんに、調査をさせる気だ。


 ジョブの印の陥没の兆しの件は、ボレロさんに話していない。期待されているのだろうけど、今の僕は、自由にスキルを使えないんだよな。



「旦那様、僕は派遣執事ですよ? ジョブの仕事をしていないと、あちこちから叱られています。冒険者はお休み中ですからね」


「ふっ、そう言うだろうと思った。フランちゃんに打診をしたら、断られたからな」


 は? 僕より先にフラン様に話したのか。


「では、そういうことで。僕は、ファシルド家に紛れた黒服ということでお願いします。青ノレアに依頼したのでしょう?」


 ボレロさんの方を見てそう言うと、彼は苦笑いだ。


「ヴァンさん、青ノレアには断られたので、赤ノレアに依頼しました。すべて高ランク冒険者ですし、貴族家の護衛もよくしてくれてますからね」


 そうか。やっぱり、真っ先に青ノレアに依頼したんだな。ノレアグループは、4つある。すべて、リーダーは地上に降りた精霊なんだ。その中で、赤ノレアは、最も人数の多い冒険者パーティだ。



 僕は、適当に笑みを浮かべ、軽く会釈をする。


「では、僕は、ノレアグループの一員として、黒服に紛れた感じでお願いしますね」


 くるりと向きを変えて、部屋から退出しようとすると……。


「ヴァン、当家の派遣執事として、カストルに行ってくれ」


 はい? なぜ、カストルでファシルド家の派遣執事? 振り返ると、旦那様がニマニマと笑っている。はぁ、何が何でも、僕にカストル沖の島を調べさせたいらしい。


 おそらく、その島に何かあるということまでは、ボレロさんも掴んでいたのだろう。泥ネズミ達が行けないということは、その島への定期便の船がないということだ。


 ボレロさんも行けないのか? それなら冒険者に依頼すればいい。僕より能力の高い冒険者は、いくらでも……。


 あー、そっか。秘密裏に動いてるんだっけ。



「旦那様、なぜ、ファシルド家がカストルに……」


「料理人のベンが、カストルの出身なのは知っているな? 今や観光地として、見違えるように立派な町になっている。だから、ついこないだ別邸を買ったんだよ」


 怪しいな。ファシルド家が別邸を買ったなら、フロリスちゃんが騒いでいるはずだ。彼女は、海辺の町カストルに旅行に行きたいと、いつも言っている。


「ついこないだというのは、昨日か今日ですかね?」


 僕がそう指摘すると、旦那様は頭をぽりぽりと掻いている。図星だったらしいな。いや、今から買うのかもしれない。


 ボレロさんの方に視線を移すと、やはり苦笑いだ。


「ヴァンさんは、なんだか最近は、疑り深くなりましたよねぇ。以前の貴方なら……」


 ボレロさんは誤魔化そうとしているけど、旦那様はそれを制した。


「はぁ、ヴァンには敵わないな。何のスキルも使わずにこれだ。魔道具で様々な傍受阻害をしても意味がない」


 こういうところは、旦那様の良い所だと思う。スパッと小細工を認める。おそらく、言い訳が面倒くさいのだと思うけど。


「フランちゃんから、派遣執事以外の仕事はさせないと叱られたんだよ。だからボレロに言って、カストルで売りに出ている屋敷を買った。フロリスも、カストルに行きたがっていたからな」


 フラン様からそう言われて……別邸を買うのか。ファシルド家の財力は恐ろしい。だが、それほどまでして、僕をカストルに行かせたいとは……。


 ジョブの印の陥没の話を、事前にしておくべきだったか。いや、だが、ファシルド家の旦那様が、ここまでするのは、それほど追い詰められているということだよな。


 以前、僕に頭を下げた旦那様の顔を思い出し、僕は胸が痛んだ。これは、断れない。


 それに、王宮に仕えるナイトの貴族としても、この一連の事件は解決しなきゃいけないと考えているのだろう。


「わかりました。いつからですか?」


「今日、これから頼む。ここにいる全員だぞ」


 旦那様の突然の話に、他人事だと考えていたらしき料理長は、口をあんぐりと開けていた。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ