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21、商業の街スピカ 〜ラフレアについて

「ヴァンという名前は多いから……まさかすべて同一人物のことだとは……」


 僕は、フラン様の伴侶だと扉の前で言ったつもりだったんだけどな。あぁ、フラン様には複数の伴侶がいると思われたのかもしれない。神官家の当主なら、多くの政略結婚をしていても不思議じゃないからな。


「ヴァン・ドゥと申します」


 僕は名乗ると、彼に軽く会釈をしておいた。あまりあれこれと自慢するような話をするのは好きじゃない。それに、多くの従属がいることも、動くラフレアであることも、僕自身が身につけた力とは言い難い。



 ラフレアというのは、この世界の種のひとつなんだ。人間や魔物、妖精や精霊、といった分類と同じく、ラフレアというものが存在する。


 僕は、ある事件がきっかけで、ラフレアの森のラフレアのマザーから株分けされたことで、動くラフレアとなった。ラフレアが株分けしているのは、僕だけではない。人間は少ないみたいだけど、それなりの数がいるようだ。


 僕は、そのことがキッカケで膨大な魔力を得て、ラフレアの力の一部を使えるようになったんだ。



 このラフレアは、精霊系の植物だとイメージされている。ラフレアの森は、ラフレアの株に土砂が堆積して生まれた森だ。そんな巨大な株が、ラフレアのマザー。僕が死ぬと、僕の株はラフレアの森の一部になるそうだ。


 ラフレアは、生殖活動のために花を咲かせる。そのラフレアの花は、つぼみの状態だと緑色の人面花に見える。この状態でも人間の背丈よりも大きい。葉はなく茎とつぼみだけの巨大植物に見える。


 そして開花すると、とんでもなく巨大な赤い花を咲かせる。基本的に開花した赤い花は地面にへばりつき、赤いじゅうたんのようになっているんだ。


 だが、茎を使って立ち上がることもできる。そして、ラフレアの根がある範囲なら、花もつぼみも自由に歩き回ることができるんだ。


 ラフレアの赤い花は生殖活動のために、すべての生あるモノを取り込む。そして、新たな新種を生み出すんだ。本来なら、花は年に数個しか咲かないらしい。だけど、ここ数年は大繁殖し、とんでもない数のつぼみが生まれていた。


 つぼみのまま何年も咲かないこともあるそうだ。だが、一部のラフレアの花は狂ってきた。悪霊となっていた堕ちた神獣に、操られ始めたようだ。


 僕は、大量のラフレアの花を利用して、堕ちた神獣を無力化させようとした。ラフレアの花は、次々と堕ちた神獣を喰い、地下茎を通ってラフレアの森に戻った。


 ラフレアは、株のある地中深くで新たな種を生み出す。あまり力を持たない弱いモノはすぐに生まれる。また植物系は早いらしい。一方で、強力な魔物が生まれるには二年程度の時間がかかるそうだ。


 今、堕ちた神獣ゲナードは弱っている。僕の従属の神獣テンウッドが、見張りというか、定期的にボコボコにしているためでもある。だから、今のところは、この世界の存続を脅かす脅威はないんだ。


 しかし、二年以内には大量の新種の魔物が生まれることになってしまった。ラフレアが、堕ちた神獣を喰って生み出す新種の魔物は、誰にも予測不能だ。ただ、脅威になることは間違いないと思う。


 ラフレアが大量のつぼみを作り出していたのは、おそらく、堕ちた神獣に対抗するためだったと思う。だが僕としては、ラフレアにゲナードを襲わせた責任を感じている。


 ジョブの印の陥没の兆しが現れたのも、その罰じゃないかとさえ考えてしまう。




「ヴァン、ヴァンってば〜。また、変な顔をしてるよっ」


 フロリスちゃんに顔を覗き込まれ、僕はハッとした。そうだ、彼女達の朝食を用意しなければ。


「フロリス様、朝食は、食事の間に行かれますか?」


「うん? ヴァンが作りに来てくれたんでしょ? あまり食欲ないけど」


 二日酔いを改善しても、ダルさは残ってしまうかな。フラン様の方をチラッと見ても、威圧的な笑みを浮かべられただけだった。彼女も、食欲が無いらしい。まぁ、自業自得だね。


「わかりました。消化の良さそうな朝食を作りますね。マーサさんやブラウンさんは、朝食はお済みですか?」


 そう尋ねると、メイドのマーサさんはニコリと微笑んだ。ブラウン学長の息子さんは、驚いた顔をしている。変な聞き方をしたかな。部屋の主人と一緒に朝食を食べないかと、尋ねたようなものだもんな。


 だけど、この部屋の主人フロリスちゃんは、それを望んでいる。幼児期のトラウマのせいか、ひとりで何かすることに辛さを感じるようだ。



 僕は、フロリスちゃんの部屋のミニキッチンで、人数分の朝食を作る。二日酔いの二人は、娘ルージュと同じでいいかな。青い髪の少女もルージュと同じものしか食べない。


 具だくさんのスープに、カリカリに焼いたパンを砕いて放り込む。ルージュに合わせて、野菜はすべて小さく切った。


 僕達の分は、オムレツにしよう。マーサさんは、僕が作るオムレツを気に入ってくれている。黒服のブラウンさんは、好みがわからないけど、まぁ、嫌なら食べないだろう。


 そして、ルージュが喜ぶ色とりどりの温サラダを作る。大きな皿に花が咲いているように広げておくと、喜んで手づかみで食べるんだよね。



「お待たせしました。二日酔いのお二人は、ルージュと同じ野菜スープにしましたよ。マーサさんとブラウンさんは、オムレツです。パンは、これしかないので朝食らしくないですが、甘い菓子パンですみません」


 同じテーブルに並べていくと、フロリスちゃんはオムレツを見て、少し気持ち悪そうな顔をした。まぁ、そうだろうな。


 だけど、野菜スープを飲み終えた頃には、すっかり復活したようだ。娘ルージュが、青い髪の少女と仲良く手づかみで食べる温サラダを眺めて、キュルルとお腹を鳴らしている。



「ヴァン、私も温サラダが欲しいわ。焼いたイモが入っていると嬉しいかも」


「ふふっ、ご用意してますよ」


 僕は、ミニキッチンに置いてあったサラダボウルを二つ運んできた。フラン様も食べるだろう。


 その器に気づいた娘ルージュは、フロリスちゃんの顔を見て、なぜか自慢げに口を開く。


「おはなじゃないねっ」


「ルージュの温サラダは、かわいいわね〜。いいなぁ」


「たべる?」


「ふふっ、私は今日は、こっちにしておくわ。ルージュのお家に行ったときに、一緒にお花畑を食べようねっ」


「うんっ」


 そんな二人の様子をジト〜ッと見つめる青い髪の少女。はぁ、テンウッドが嫉妬してなきゃいいけど。



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