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169【後日談⑤】フリックの過去

 フリック・ジェネルだ。俗にいうジェネル28世。現国王であり、ドゥ教会の見習い神官だ。


 俺のことについて、あまり語ることはなかった。これを機に、少し聞いてもらいたいと思う。



 俺には、何十人もの兄弟姉妹がいる。父には、数えきれないほどの伴侶がいるから、まぁ、その数は不思議ではない。


 歴代の国王は、父と同じく、やはり大勢の伴侶を得ていた。そうすることで、王族を絶やさないようにしてきたのだろう。


 確かに、ジョブ『王』でなければ、国王を継ぐことはできない。ジョブは生まれ持って授けられているが、13歳の成人の儀が終わるまでは知ることは不可能だ。


 そのため、複数のジョブ『王』の子が生まれると、当然のように、弱い者から順に間引かれていくことになる。



 俺は、父の子供達の中では、かなり若い。そして、ヴァンにもゼクトにも話していないが、俺の母は、俺を産んだ後の消息がわからない。だから、実の母の顔を知らないのだ。


 一応の体裁を保つため、母の妹が、俺の母親として王宮に入った。そのうち、母の妹は、父の伴侶となったのだが。


 母が生まれた家は、武術系ナイトの有力貴族ガーシルド家だ。だが母は、竜神と天兎の間に生まれた娘だと、ゼクトから聞かされている。ガーシルド家の中での、母の地位はわからない。しかし、ガーシルド家の当主は、ただの人間だ。



 俺は子供の頃、とても痩せていて小さかった。だから、実年齢よりも若く見られることが多かった。これが、俺にとっては幸いしたようだ。


 俺は、5歳の頃から、様々な教育を受けるようになった。兄や姉に、まだジョブ『王』がいなかった頃のことだ。


 ゼクトとの出会いは、その頃だったと思う。俺とは15ほど離れているが、他の講師よりは若く、また何より彼はイキイキしていて、幼い俺としては憧れを抱いたのだったか。


 確か2年ほど、剣術や護身術を教わった。しかし、ゼクト自身が忙しくなったらしく、そのうち姿を見なくなったな。



 それから時が流れ、俺が13歳の成人になる直前、王宮で大きな事件が起こった。ジョブ『王』の兄が3人もいたためだ。


 権力争いに優勢だった兄の母親は、これ以上新たなライバルが現れないようにと、成人直前の子供達をいろいろな形で、殺し始めたらしい。貴族家以上に酷い後継争いだ。


 俺は、若く見られていたため、最初のターゲットにはならなかった。だが、成人の儀は間近に迫っていた。



「フリック、久しぶりだな」


「ゼクト? どうしたんだ? まるで別人じゃないか」


「まぁ、いろいろあってな。今は、神官家の奴隷だ。ただ、おまえには縁がある。成人の儀を見守りにきた。もしかすると、俺に近いジョブかもしれねぇからな」


 何年かぶりに会ったゼクトは、完全に別人だった。極級ハンターになったという噂は聞いていた。華やかなはずの彼からは、ドス黒いオーラしか感じない。


 だが、成人の儀に来てくれたことは、正直嬉しかった。俺の母が天兎の血を引いているなら、ゼクトと同じく、天の導きのジョブになる可能性も少なくない。



 そして、俺の成人の儀が行われた。俺のジョブは予想に反して『王』だった。だが、アウスレーゼ家の神官は、ジョブを宣言する直前に、なぜか気を失って倒れた。


 ジョブ『王』なら殺せと命じられていたゼクトが、神官を気絶させたのだと、俺は、後で知ることになる。


 既にジョブの印は現れていた。だが、神官が宣言するまでは、俺のジョブは明らかにされない。



「フリックは、やはり、田舎が似合うジョブだな」


 神官の介抱をするために出てきた白魔導士達を、ゼクトは近寄らせないように、睨みつけていた。


「おまえは、神矢ハンターだな? フリックのジョブは何だったのだ?」


「国王陛下、ジョブの宣言はアウスレーゼ家の仕事だろ。それに、宣言前の中途半端な状態だから、神矢ハンターの俺にもハッキリとはわからねぇ。成人の儀は、明日にでも、やり直すことだな」


 ゼクトは、感情のない不気味な顔で、そう言い放った。父の側近が、ゼクトの無礼に顔を赤くして怒っているようだったが、剣を抜くことはなかった。


 あのとき、俺はそれを不思議だと感じたが、今思えば、当然か。剣を抜いてもゼクトに負けるだけだ。極級ハンターの戦闘力は、凄まじい。父の近衛兵が数人で挑んでも勝てるわけがない。


 そして翌日に、成人の儀を再びやることになった。だが俺は、その日の夜のうちに、城を出ていた。ゼクトによって、俺は逃がされたのだ。




 俺は、見知らぬ男に預けられた。


 彼は中級貴族の冒険者らしく、最初はボックス山脈にある冒険者の宿のような場所で、しばらく匿われた。


 そのあと、俺は年齢を隠して、リースリング村に移り住むことになった。そこでは、白魔導系のルーミント家のラスクが、俺の世話をするためか、ちょくちょく来ていたな。


 その屋敷には、俺のように、逃げてきた貴族の子供達が集まっていた。俺は、ラスクの入れ知恵により、ガーシルド家に生まれたということにしてあった。まさか、国王の息子だとは言えないからな。



 リースリング村に屋敷を誘致したのは、ヴァンというジョブ『ソムリエ』だった。俺よりも、生まれは半年ほど遅いが、一応同い年だ。


 ふっ、あの頃のヴァンは、超級薬師だからということで、トロッケン家から追われていたらしい。だから、その少年を守るために、リースリング村に貴族の屋敷を建てた、というあり得ない話だ。


 だが、リースリング村は、ぶどう農家ばかりの村だ。貴族と関わることも少ないのだろう。簡単に信用して、屋敷を建てる土地を提供したらしい。



 俺は、リースリング村に隠れることに、次第に嫌悪感を感じるようになっていった。ジョブ『王』の何かが、隠れ住むことに弊害となってきたのだろう。


 だが、ある日を境に、俺の感覚はガラリと変わった。屋敷に襲撃者が来たときのことだ。


 結論から言えば、俺は頭をガツンと殴られたような衝撃を受けた。俺が剣を取って立ち向かおうとするのを、ヴァンが、ジョブ『ソムリエ』が止めたのだ。


 そしてヴァンは、六精霊を召喚し、さらに、天兎の戦闘形態であるアマピュラスに変化へんげして戦った。俺よりも半年も若い農家の子が、俺よりも圧倒的なチカラを持っていたのだ。


 それからは、俺は、学ぶことに貪欲になった。


 ヴァンが六精霊を召喚したのは、精霊師というレアスキルの技能だともわかった。同い年の彼に負けないようにと、剣の腕を磨き、多くのスキルを得た。


 そうしているうちに、俺は、隠れる必要がないほどの力を得ていたのだ。


 そして、父が失脚するとき、俺が後継者として選ばれた。



 だが、国王となっても、ヴァンには追いつけない。アイツは、動くラフレアになってしまった。しかも、極級ハンターであり、とんでもない数の従属を従える魔獣使いだ。


 いつからだろう? ヴァンへのライバル視が、憧れに変わったのは。いや、今もライバル視しているかもしれないな。




 そんな俺の心を、純粋に癒してくれる存在がフロリスだ。彼女の幼児期は、俺と似たところがある。だが、今ではすっかり、頼もしさも感じる神矢ハンターだ。


 彼女は、俺の素性がわかってからも、俺を一人の人間として扱ってくれる。そして、俺の夢を応援してくれている。彼女は俺を、本気で心配し本気で怒る。それが何より心地良い。



 フロリスは、俺の生母を捜そうとしているようだ。だが、そうなると、母の妹の立場もいろいろと難しくなる。だから俺は、本当の母を捜すつもりはない。そもそも生死さえ不明だからな。



 そういえば彼女は、母親サラ・ファシルドのことを、まだ母親とは呼んでいないようだ。これが、もし、俺を気遣ってのことなら、勘違いなのだけどな。だが、確かに、死んだと思っていた母親との再会が、こんな特殊な形だったから、素直に喜べないのかもしれない。


 何とかしてやりたいんだが……。


 あっ、そうか。ふっ、いい事を思いついた。まぁ、ヴァンにも相談しておくか。一応、俺が世話になっているドゥ教会の旦那様だからな。



【次回予告】エピローグ

完結作含めての最終話です。


次回は、8月18日(金)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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