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166【後日談②】新人ジョブ『ハンター』の教育

 ゼクトだ。


 ヴァンが極級ハンターになってから、そろそろひと月になる。俺が持っていた極級ハンター最年少記録25歳を、ヴァンは思いっきり追い抜きやがった。とは言っても1年半ほどだがな。



 俺は、25歳で極級ハンターになったことで、神官三家の下僕のような仕事を強いられるようになった。伝説のハンターだとチヤホヤされていたのは、最初のうちだけだ。次第に、俺が神官三家の手先のような仕事をすることが知られ、俺の周りからは、人が消えていった。


 今思えば俺は、チヤホヤと持ち上げられて、傲慢になっていたのだろう。避けられるようになり始めたとき、俺は、何もしなかった。逆に、俺が偉大になりすぎて、皆がビビっているとさえ思っていた。


 だが、『狂人』だとか『神官家の犬』と囁く声が聞こえるようになったとき、俺は自分の勘違いに気づいた。


 極級ハンターになる者は、多くはないが珍しいわけでもない。しかし、力を持ちすぎる極級ハンターは、神官三家には迷惑だったのだろう。俺は、交換条件を突きつけられた。二択のうち、俺は力を奪われることを避けた。その結果が、神官三家の下僕だ。


 そんな俺の事情を、他の冒険者は知らない。だから俺が魔物の討伐をすることも、俺が極級ハンターとなって増幅したチカラを見せびらかすために、嬉々としてやっていることだと噂された。


 俺は、そんな表情はしていない。神官三家に命じられて仕方なくやっていた仕事だ。最年少記録で極級ハンターになった俺への、冒険者達の嫉妬だろうと思っていた。


 だが、近寄るモノをすべて狩り殺すことを楽しんでいると噂され、ヘラヘラと笑いながら人間も殺すと言われるようになり、周りの俺への対応は、人ではなく魔獣扱いになっていった。時間が経っても噂は消えない。ますます広がっていくばかりだった。


 そして俺は、心を閉ざした。


 いや、心が凍ったという方が適切か。周りが何を言っていても、何も感じない。生きていることの意味も希望も何もなかった。ただ与えられる役割をこなし、休みの日は酒に逃げていた。


 神官三家の仕事をしていても、変わらずに接してくれた奴らもいる。だが俺は、いつしか笑えなくなっていた。誰も信じられなくなっていた。



 そんな日がどれくらい続いただろう? ヴァンと会ったことが、俺の大きな転機となった。


 ヴァンが言うには、ボックス山脈で会ったらしいが、そのあたりの記憶はない。俺が初めて、あの少年を視界に入れたのは、ギルドでのことだ。


 キラキラとした真っ直ぐに見つめる少年の視線が、俺の目に映った。狂人と呼ばれる俺に、憧れていると言った少年。必死に極級ハンターになりたいと語っていて、あの時、俺は賭けてみたくなったのだったか。


 その賭けに負けたら、俺は、ボックス山脈の奥深くに行こうと考えた。そう、最後の賭けだ。もともと、そのつもりだった。神官三家に命じられるままに嫌な仕事をしていた俺は、自分をどうやって殺そうかと真剣に考えるようになっていた。そのキッカケが欲しかったのかもしれない。


 少年は超級薬師のスキル持ちだったから、金を作る術はあると考えた。金貨100枚で、俺は雇われてやろうと言ってやった。少年に金貨100枚は、とんでもない大金だ。だが本気なら、超級薬師に無理な額ではない。


 そしてヴァンは、金を作って俺が居候する店に現れた。しかも大人のふりをして、倍の200枚を持ってきていたな。青ノレアに入団したから、そんな知恵をつけたのだろう。まぁ、金貨200枚でも格安だ。あの頃の俺は、丸一日も付き合わされるなら、金貨数千枚を取っていたからな。



 あれから、もう10年だ。


 俺が、あの少年に自分の命を賭けていたことは、誰も知らない。正直なところ、あの時、あんな提案をした自分にも驚いている。あの少年なら、俺をどん底から抜け出させてくれるのではないかと、期待していたのだろうか。ふっ、俺はあの時でも、本当は、生きたかったのだろうな。


 ヴァンは、俺をどん底から救ってくれた。それだけでも、俺はアイツに言葉に表せないほど感謝している。ヴァンのためなら、俺がどんなモノの盾にもなってやる、そう思っていた。


 だが、最近は、どうだ? どう考えても俺の方が、かよわいじゃねぇか。ククッ、こんな楽しいことはねぇよな。




 ◇◇◇



「ちょっと、ゼクト! 何をニヤニヤしてるんだよ。新人ジョブ『ハンター』達の引率をしてるってこと、忘れてないよね?」


 ほら、またヴァンに叱られちまったぜ。


「忘れてねぇよ。だが、俺みたいなオッサンは、居てもいなくてもいい空気みたいなもんじゃねぇか」


「空気は、超大切でしょ! なかったら死ぬからね。そんなことより、ゼクト、剣くらい装備してよ」


「あ? 俺、かよわいオッサンなんだけど」


「はぁ、もうっ。皆さん、ここがボックス山脈の検問所です。整列してください。たまにボックス山脈から悪霊系の魔物が出てくるので、警戒を怠らないように。どんなに強い人でも、油断すると弱点をつかれます。黒石峠で最強の魔物も、ボックス山脈では一瞬で殺されますからね」


 ぷりぷりと怒りながらも、ヴァンは、新人ハンター達を上手く誘導している。笑顔で脅すから、ちょー怖ぇ〜。



 ジョブ『ハンター』なんて、皆、ロクでもない奴らばかりだ。何かのハンター上級の集まりなのに、ギルマスが命令したって無視しやがる。だから極級ハンターでなければ、教育できない。


 教育する必要なんてないと思うが、ジョブだからな。やはり、死なせないようにするべきらしい。死んでも蘇生すりゃいいと思うが、大抵の場合、蘇生魔法を使うとジョブは再選択され、ハンターではない別物に変わってしまうからな。


 ジョブ『ハンター』は、スキルのハンターに比べて戦闘力付与がある分、13歳の成人の儀を境に、戦闘力が跳ね上がる。だから、勘違いするんだよな。自分は強いってな。


 そこでボックス山脈での教育を、冒険者ギルドが始めたらしい。ただ、上手く誘導しないと死人が大量発生する。こないだは上位冒険者が引率して、ほぼ全滅させてたっけ。


 上位冒険者がキッチリ仕事しないから、俺達に回ってくるんだよな。まぁ俺は、最上位冒険者でもあるから、どっちみち一緒か。




 ボックス山脈の検問所を抜けると、やはり、我先にと走り出すガキが大量発生だ。


 だが、ヴァンは動かない。前回は慌てて制止させていたが、コイツらは痛い目に遭わないと学習しないことを、ヴァンも学んだようだ。


「皆さん、勝手な単独行動は死にますよ? 僕、まだ蘇生薬は作れないんですけど」


「オッサン達、ビビってんじゃねぇよ」


「極級ハンターのくせに、ボックス山脈が怖いのかよ」


 クソガキ達の挑発に、ヴァンは……ククッ、スキル『道化師』のポーカーフェイスを使いやがった。ムカつくガキには、怒りをぶつけてやるのもアリなんだがな。



「ええ、僕は、ボックス山脈は怖いですよ」


「アハハ、何だそれ? だっせー」


 クソガキが笑っているが、先に行った奴らが、変なものを突いたようだ。事前に渡したマップを無視して、いや、立ち入るなと注意がある場所にわざと踏み込んだらしい。


「ゼクト! 剣を装備して!」


 ヴァンは、しっかり見えているらしいな。先に行った奴らが、厄介な魔物を引き連れて戻ってくる。ヴァンは、俺に合図をして、戦いやすい平原へと下りていく。


「何? 極級ハンターが、薬草でも見つけたのかよ。薬師だもんな。ギャハハ」


「草原で飯にするんじゃねぇの?」


 後方に回り込む魔物もいる。だから、厄介なんだよな、コイツら。くだらないことを言っていたクソガキ達は、囲まれ完全に逃げ道を塞がれて、やっと、魔物に気づいたらしい。



「おまえらが何をしたか、わかってないのか? こないだ、新人ハンターが30人ほど全滅したよな? 草兎の巣を突いて」


「へ? うさぎ? そんなモノ……えっ? アイツら……」


 前方から逃げてきた新人ハンター達が血まみれなことに気づくと、やっと、事の重大さがわかったらしい。ヴァンが渡していたグミポーションがなければ、アイツらは死んでいただろう。


「逃げろ! ありえねー、見えないんだ、速すぎて」


「何もできない。ただ、蹂躙される!」


 逃げてきたクソガキの言葉で、皆がパニックになっていく。


「お、おい! 極級ハンターなら、なんとかできるよな?」


「は? おまえ、さっき、ヴァンさんをバカにしてなかったか? 薬師だからって、極級ハンターになれたんだって」


「ぜ、ゼクトさん! お願いしますよ! 金なら、親父がいくらでも!」


「俺が一番嫌いなことを言いやがったな、クソガキ。ヤル気なくなった。勝手に死んでろ」


「えっ? ちょ、そんな、あんまりだ!」


「だから、狂人って……」


 コイツらの親も、ロクなもんじゃねぇな。



「ゼクト! 剣を装備しないなら、全員にバリアを張って!」


「はいはい。俺は、バリア係な〜」


 俺がバリアを張ると、ヴァンは、両手を大きく広げ、空に魔力を放った。最近、アレ、やべぇんだよな。


 ヴァンは、極級ハンターになって、魔導士の平均以上の魔法攻撃力が備わった。そこに、ラフレアとしての異常な魔力量と、ぶっ壊れ技能の竜を統べる者だ。


 空には無数のゴウゴウと燃える炎の玉が浮かんでいる。そして、ヴァンがスッと手を下ろすと……。


 ドドドドドドッ!


 付近一帯が、一瞬で火の海になった。草兎の半数程度は、慌てて逃げていったな。残ったドジ兎は、跡形もなく燃え尽きる。



「や、やべぇ。ヴァンさん、やべぇ」


「おまえらに言っておく。今のは俺の簡易バリアで防げる程度の術だ。極級ハンターなら、これくらい誰でもできるぞ。ボックス山脈を舐めんなよ! クソガキ」


「ひぃぃ、す、すみませんでしたー!」



 震えるガキどもは、これでもう油断しないだろう。あ? 俺にも、あんな魔法が使えるのかって? あんな威力の炎魔法なんて、使えるわけねぇだろ。



【次回予告】

ヴァンの憂鬱


次回は、8月8日(火)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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