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163、自由の町デネブ 〜テンちゃの弟子1号

 僕は、ファシルド家の屋敷の転移魔法陣を使わせてもらって、デネブに戻ってきた。


 とは言っても、転移部屋には魔導士がいなかったから、場所の正確な指定ができなかった。到着した場所は、海へ繋がる道側の町の入り口だ。ドゥ教会は、反対のカベルネ村側の入り口の近くなんだよね。


 僕は、普段はあまり通らない貴族の別邸が立ち並ぶ通りを歩いていく。ここしばらくの間に、随分、屋敷が増えたようだ。それに伴って、新たな店もできている。こちらの出入り口は、海辺の漁師町までが近いから、魚を扱う飲み屋が多そうだな。



「あっ、ヴァンさん、戻ってたのか」


 顔見知りの農家さんだ。彼は、デネブの町ができた当初から、広い畑で野菜を育てている。一応、畑の所有者は僕ということになっているけど、すべてはバーバラさんに丸投げしてるから、そのことを知らない人も多いんだ。


「はい、こんにちは。いま、商業ギルドの契約が終わったので、戻ってきたところです」


「海側の門から入ってきたのかい? 転移屋を使ったなら、町の中央のギルド前に着くんじゃないのか?」


「転移魔法陣を使わせてもらったんですよ。場所の正確な指定ができないから……」


「あぁ、この町には、貴族の別邸が増えたから、転移魔法がこんがらがるらしいね。この付近の貴族の屋敷は、ほとんど全部に、転移部屋が設置されてるよ」


 なるほど。転移渋滞を起こしているから、僕は町の入り口に着いたのか。海側に着いたのも、ドゥ教会の付近は、おそらく神獣テンウッドが、転移阻害か何かをしているためだろうな。


「なんか、急に別邸が増えましたもんね」


「あぁ、新たに増えた多くは、あっちの世界の人が住んでいるらしいよ」


「あっちの人?」


「あぁ、道化師の神矢を使って、こっちの人間に化けてるけどさ。だが、あっちの人達が住むようになってから、海側からの魔物の襲来はなくなったんだよ。俺達には見えない何かを放っているらしい」


 へぇ、そうなんだ。だとすると、影の世界の人の王グリンフォードさんの配慮だろうな。


「影の世界の人達は、悪霊には強いですからね」


「そうらしいな。町としては助かるよな。だが、占領されるんじゃないかとビビってる奴も少なくないよ。ドゥ教会が、この町のかなめだけど、ヴァンさんは薬師だもんな」


 はい? あー、薬師だと思ってる人が多いよね。


「僕は、ジョブ『ソムリエ』ですよ。薬師は神矢で得たスキルです」


「えっ? そうなのか? ジョブ『薬師』で、精霊師だと思ってたよ。いや、魔獣使いか? ヴァンさんの正体がイマイチわからないな。いろいろな噂がひとり歩きしてるよ」


 だよね。そんなにたくさんのスキルを集めている僕は、はっきり言って珍しいと思う。だから、トロッケン家に忠告されるんだよな。


「あはは、スキル情報は秘密にしてるんですけどね。ドゥ教会では、薬師のスキルばかり使っているから、ジョブだと思われてる人が多いです」


「ふぅん、そうか。俺も農業ばかりしているから、ジョブ『農家』だと思われてるが、実はジョブは『緑魔導士』なんだよな。畑に、害虫よけの結界を張ると、仲間が腰抜かして驚くんだよ」


「えっ!? 僕もてっきり、ジョブ『農家』だと思ってましたよ。いいなぁ、緑魔導士。僕は、結界どころか、簡単な補助魔法も使えないです」


「ふふっ、いいだろ? あははは、まぁ、冒険者には向かないんだがな。農業には超絶に役立つぜ」



 彼と話しながら、ドゥ教会まで戻ってきた。こういう散歩も悪くない。



「緑魔導士が必要なときは、ドゥ教会として声がけさせてもらいますね」


「ん? あはは、ヴァンさんは知らなかったか。俺は、テンちゃが居ないときは、ドゥ教会の保護結界を頼まれてるんだぜ?」


「えっ!? それは失礼しました」


 何も知らなかった。失言だったな。




「あっ! 主人あるじぃ、どうして弟子1号と一緒なの?」


 ドゥ教会の前に、青い髪の少女が飛び出してきた。何かソワソワしている。あー、フロリスちゃんからの預かり物を受け取りに出て来たのか。


「テンちゃ、弟子1号って、彼のこと?」


「うん! 弟子1号だよ。主人あるじのマナ玉を吸収したから、魔力量が高くなったんだよ。あたしが張った結界を維持できるから、弟子1号にしてあげたのっ」


 そう説明しつつ、僕の魔法袋を物色しようとする青い髪の少女。待ちきれないらしい。



「テンちゃ、魔法袋をこじ開けようとしないでよ。壊れるからさ」


「えー、うん、あたしに渡す物あるよね?」


 神獣テンウッドは、教会の方をチラチラと気にしながら、ソワソワしている。ルージュに見つからないように気にしているらしい。


「フロリス様から預かったノートがあるよ。可愛らしい絵が描いてあってねー」


 僕が魔法袋から取り出すと、青い髪の少女は、それを即座に奪い取った。テンウッドはフロリスちゃんに、花の形の野菜のアレンジ方法のレシピを頼んでいたらしい。


「わぁ〜、やっぱりフロリスってば天才ねっ! かわいい! これもかわいい! こっちもかわいい! ハッ! この野菜は知らないよ。どうしよう……」



 すると農家の彼が、絵本を覗き込んだ。


「師匠、これは赤カブですね。確かに、デネブでは作ってないなぁ」


「ふぉっ? 弟子1号! この野菜は、デネブでも作れるの?」


「はい、作れますよ。今度、王都で種を買ってきます」


「あっ、ちょっと待って。美味しい野菜なの? にがいのはダメだよ? ルージュは悲しい顔をするもの」


「苦くはないですよ。王都の高級レストランでは、サラダに入れる店もありますから」


「じゃあ、お願いねっ! すぐに育つかしら? あっ、主人あるじは生育魔法を使えるから、頼んでいいよっ」


 僕を気軽に使おうとする神獣テンウッド……。一応、僕が主人だよね? まぁ、いいんだけどさ。


 この数ヶ月で、テンウッドの性格がよくわかるようになった。初めは危険視もしていたけど、もう大丈夫だな。



「ヴァンさんに頼まなくても、俺も生育魔法は使えますよ? 師匠」


「ふぅん、そっか。じゃあ、なるべく早く作って。あっ、今から王都に行く? 転移魔法で送ってあげよっか?」


 テンちゃ、やめなさい。


「師匠、今日はまだ別の仕事があるので、明日にでも行ってきますよ。俺も転移魔法は使えるので」


 へぇ、すごいな、この人。緑魔導士も転移魔法が使えるのか。


「今日の仕事って何? 畑なら、主人あるじがやってくれるって」


 ちょ、テンちゃ……。


「今日は、ドゥ教会での補助ですよ。信者さん達の……。あっ、師匠が代わりにやってくださるなら、俺は王都に」


 すると、青い髪の少女はくるりと背を向けた。教会を手伝う気になったのか?


「あたしは無理っ! ルージュと一緒に晩ごはんを食べるからっ。弟子1号、王都に行くのは明日でいいよっ」


 そう叫びつつ、青い髪の少女は、ウッド草が茂る中庭の通路へと走っていった。ってか、ウッド草、めちゃくちゃ茂ってるな。



「ふふ、ヴァンさん、中へ入りましょうか。そろそろ夕方のお祈りが始まります。今日は、ウチの娘が担当するんですよ」


 農家の彼は、ニコニコしながら、ドゥ教会の中へと入っていった。


 夕方のお祈りは、神官見習いの子供達が担当しているようだ。なるほど。だから、手伝いにきたんだね。父親は、娘には弱いもんな。



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