16、商業の街スピカ 〜成人の儀、ジョブボード
フロリスちゃんの成人の儀が始まった。
多くの貴族家では屋敷の一部に、式典用の部屋が設けられている。そこには神の祭壇もあって、成人を迎えた子たちに神から与えられたジョブの印を現す、大切な儀式を行うためにも使われている。
祭壇の上では、緊張した様子のフロリスちゃんと、そんな少女を優しく見つめる聖女のようなフラン様が立っていた。
フラン様は、儀式に使うロッドを手に持っている。彼女はアウスレーゼ家の神官の正装の衣を身につけていた。
なんだか、初めて会った頃を思い出す。美しいフラン様に一目惚れしてしまった僕だったけど、彼女のことを同時に怖いとも思っていたっけ。
まさか、そんな怖くて美しい神官様と結婚することになるなんて……。あの頃とは少し違う彼女の表情に、時の流れを感じつつ、僕は思い出に浸っていた。
「では、始めますね」
凛としたフラン様の声に、フロリスちゃんも、すぐそばで見守る旦那様も、神妙な表情で頷いた。
フラン様は、手に持っていたロッドを高く振り上げた。すると天井から淡い光が降り注ぐ。
『親愛なる神よ、今ここに成人となった者に与えし印を解き放ちたまえ!』
うん? 念話? あー、そうか。フロリスちゃん本人だけに聞こえるはずの声だ。僕の従属の誰かが、僕に聞かせているのかな?
いや、違う。これは、僕が神官のスキルを持つから聞こえるのか。下級だけど、僕も一応、神官だもんな。
「フランちゃん、長くないか? フロリスのジョブは『ナイト』ではないということだな?」
旦那様は、せっかちだな。
「問題ありませんよ。フロリスに与えられたジョブには、たくさんの情報が必要なのでしょう」
周りで見ていた人達からは、いろいろな声が聞こえてくる。ジョブ『ナイト』ではないということは、皆、わかったようだ。明らかに、ホッとした奥様も何人もいるんだよな。
ようやく淡い光は消え去った。フロリスちゃんは少し辛そうだ。僕のときも、頭痛、めまい、吐き気が酷かった。
「どこに印が現れたかな?」
彼女は、ロッドをフロリスちゃんに向けている。サーチの光が見える。あっ、おでこが光っている。あれかな?
「フロリスも、見える場所に現れたわね、増幅の印ね。思念系の術は特に増幅されるわ」
僕も、右手の甲に大きな光る印が現れている。見える場所にある印は、増幅の印と呼ばれるんだ。
僕の場合は、スコーピオンという虫の絵の印だ。尾が長く、印の円からはみ出しているから、毒サソリらしい。不気味なんだよな。
スコーピオンは、暗殺者や盗賊、王などのジョブに多いと言われている。僕の印がスコーピオンだから、覇王のレア技能を得ることになったのかもしれない。
やがて、フロリスちゃんのおでこの光がおさまった。
フラン様は、印の光がおさまるのを待って、フロリスちゃんのおでこに触れた。すると、フロリスちゃんは驚いた顔をしている。
ぶわっと目の前に画面のようなものが現れたのだと思う。ジョブやスキルを表示するジョブボードだ。
「フロリスのジョブは『神矢ハンター』だわ。ゼクトさんが予想していた通りね。とてもレアなジョブよ」
フラン様がそう言うと、旦那様は目を輝かせた。そして、集まっていた人達の視線もガラリと変わった。
冒険者をしてスキル集めをしたい人には、神矢ハンターは、貴重な存在だ。
スキルを得るには神矢を集めることが効率的だけど、その神矢の位置や様々な情報を知るのは、神矢ハンターだけの技能だと思う。ジョブは、上級レベル1の状態で与えられる。さらに級が上がれば、神矢が降る予知もできるようになるそうだ。
「扱い方はわかるかしら?」
フラン様はフロリスちゃんに、ジョブボードの使い方を説明している。最初は戸惑うんだよな。
「私が、神矢ハンターだなんてビックリだわ。あれ? 他にもあるよ?」
「フロリスがこれまでの経験から得たスキルね。ジョブボードの情報は命の次に大切なものだから、人に教えちゃダメよ」
「わかったわ。フランちゃん……いえ、神官フランさま、ありがとうございますっ!」
二人は、柔らかな笑顔で微笑み合っている。ふふっ、仲良しだよね。
僕も、なんとなくジョブボードを見てみる。
◇〜〜◇〜〜〈ジョブボード〉New! ◇〜〜◇
【ジョブ】
『ソムリエ』上級(Lv.8)New!
●ぶどうの基礎知識
●ワインの基礎知識
●料理マッチングの基礎知識
●テースティングの基礎能力
●サーブの基礎技術
●ぶどうの妖精
●ワインの精
【スキル】
『薬師』超級(Lv.7)New!
●薬草の知識
●調薬の知識
●薬の調合
●毒薬の調合
●薬師の目
●薬草のサーチ
●薬草の改良
●新薬の創造
『迷い人』上級(Lv.3)
●泣く
●道しるべ
●マッピング
『魔獣使い』極級(Lv.Max)
●友達
●通訳
●従属
●拡張
●魔獣サーチ
●異界サーチ
●族長
●覇王
『道化師』極級(Lv.5)New!
●ポーカーフェイス
●玉乗り
●着せかえ
●なりきりジョブ
●なりきり変化(質量変化、無制限)
●喜怒哀楽
『木工職人』中級(Lv.10)
●木工の初級技術
●小物の木工
『精霊師』超級(Lv.10)
●精霊使い
●六属性の加護(超)
●属性精霊の憑依
●邪霊の分解・消滅
●広域回復
●精霊ブリリアントの加護(極大)
●デュラハンの加護(極大)
●ラフレア
『釣り人』上級(Lv.10)
●釣りの基礎技術
●魚探知(中)
●魚群誘導
『備え人』上級(Lv.3)
●体力魔力交換
●体力タンク(1倍)
●魔力タンク(1倍)
『トレジャーハンター』中級(Lv.3)
●宝探知(中)
●トラップ予感
『神官』下級(Lv.8)New!
●祈り
『薬草ハンター』超級(Lv.2)New!
●薬草の知識
●毒薬草の知識
●薬草のサーチ(大)
●異界の薬草サーチ(中)
【注】三年間使用しない技能は削除される。その際、それに相当するレベルが下がる。
【級およびレベルについて】
*下級→中級→上級→超級
レベル10の次のレベルアップ時に昇級する。
下級(Lv.10)→中級(Lv.1)
*超級→極級
それぞれのジョブ・スキルによって昇級条件は異なる。
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いくつかのレベルが上がっているみたいだな。
ジョブやスキルには、様々な技能がある。このジョブボードに触れることで発動できるし、慣れたものは念じるだけでも使うことができるんだ。
こうやって、改めて見てみると随分と増えたなと思う。ジョブの仕事をしないでスキル集めばかりしてきたから、ジョブの印の陥没の兆しが現れてしまったんだよな。
僕のジョブは『ソムリエ』だ。でも、極級ハンターになるという夢は諦めたくない。