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157、ガメイ村 〜講習会、簡単なテイスティング

 いよいよ、ワイン講習会が始まる。


 僕は、集まった人の多さに驚き、緊張で手が冷たくなっていた。仕方なく久しぶりに、スキル『道化師』のポーカーフェイスを使う。すると手に血が巡るような感覚があり、ジワ〜っと温かくなってきた。この技能、やっぱ便利だな。


 店内をさっと見渡す。


 影の世界の集落の人達は、半数ほど来てくれているようだ。サラ奥様の姿はない。初回に話す内容は、サラ奥様なら当然に知っていることばかりだからかな。


 参加を想定していた数の倍ほどの席を用意したけど、全然足りない。酒屋のカフスさんが、宣伝してくれた効果か。カフスさんは、来てくれた人達に挨拶しつつ、席を増やすことに必死だ。


 普段の食堂の満席時よりも多い人数が集まっている。試飲用のグラスも、急遽、買ってきてくれたようだ。商業ギルドに手伝いの依頼をしておいてよかった。僕達だけでは、パニックになっていたと思う。


 フロリスちゃんは、もう通常モードで、席の案内をしている。代わりに僕が緊張してるんだよな。緊張が移ったのだろうか。


 神官の服を着てきたフリックさんは、ドゥ教会の使用人の子供達と一緒に来たようだ。彼らは、影の世界の集落の人達のための席に座っている。集落からさらに人が来たら、席を譲るつもりで席とりをしているのかな。




 ◇◇◇



「皆さん、こんにちは。ジョブ『ソムリエ』のヴァンです。今日は、ワイン講習会にお集まりいただき、ありがとうございます」


 僕は、緊張しながらも、始まりの挨拶をした。ポーカーフェイスを使っているから、僕の緊張はバレないだろう。


「今日は、ワインの楽しみ方について、お話したいと思います。テーブルにグラスが4つずつ配られていますね。酒屋さんが、順にワインを注いでまわってくれます。説明前に飲んでしまわないでくださいね」


 クスクスと笑いが起こった。だけど、真剣な顔で頷く人が多い。集まった人達の大半は、僕よりも緊張しているみたいだ。


 参加者が多いから、ワインをテーブルに取りに行ってもらうわけにはいかなくなり、急遽、提供方法を変えた。ワインを注いでまわる酒屋の人達も緊張しているのか、ちょっと空気感がピリピリしている。


 僕は、スーッと気持ちが落ち着くのを感じた。みんなが緊張しているためだろうか。その理由はよくわからない。



 ワインが注ぎ終わるのを確認し、スゥハァと軽く深呼吸をして、口を開く。




「今、ワインを注いでもらいました。グラスのワインをご覧ください。色の違いがわかりますか」


「赤ワインと白ワインだろ。わかるに決まってんじゃねぇか」


 はい? 国王様? 神官の服を着たフリックさんが、そう反論してきた。いや反論というか、場を盛り上げようとしてくれているのかな。


「ちょっと、フリック! 言葉遣いは気をつけなさいって、いつも言ってるでしょ!」


 すかさずフロリスちゃんが、注意してくれた。あぁ、これが国王様の狙いか。貴族の一部の人が、フリックさんを見て、国王じゃないかとヒソヒソ話をしていたもんな。



「店長さん、講習会での発言は自由でいいですよ。彼がドゥ教会にいるときには、ガンガンお説教してください」


 僕がそう言うと、ドッと笑いが起こった。場の雰囲気が柔らかくなったな。それに、あれは誰だと言っていた人達も、ドゥ教会の神官だとわかり納得したようだ。


 フロリスちゃんは、一瞬、膨れっ面をしたけど……すぐに澄ました顔に戻っている。そんな彼女をからかうように、フリックさんは、変顔を作って見せてるんだよね。国王様は僕と同い年なのに、フロリスちゃんには少年のような顔を見せる。




「さて、4つのグラスのワインですが、何種類の色に見えますか? 指を立ててみてください」


 そう問いかけると、参加者の人達はワインを眺め、首を傾げている。赤ワインと白ワイン、2種類ずつだけど、ほとんどの人は、指は2本だ。


「よく見てください。赤ワインと白ワインが2種類ずつですが、赤ワイン2つは同じ色ですか? 白ワイン2つも同じ色ですか?」


「見比べると全然違うわ」


「光の加減じゃなくて? でも、全然違うわね」


 参加者の人達は、ワイングラスを掲げながら、不思議そうな顔をしている。



「皆さん、ワインは、ぶどうから作られることはご存知でしょうか。そして、ぶどうにはたくさんの種類があります。ぶどうの種類が異なれば、作られるワインの味も香りも見た目も、ガラリと変わるのです。赤ワインのどちらかは、このガメイ村で育ったガメイ種を使っています。見た目だけで、どちらなのか、わかりますか?」


 飲もうとしていた人は慌ててグラスを置き、ジーッと観察を始めた。


「持ち上げるよりも、白いテーブルクロスに置いて傾けてみるとよくわかりますよ」


 参加者の表情を見ていると、何かに気づいた人は多いようだけど、言葉にはならないらしい。



「ガメイ種から作られる赤ワインは、軽い口当たりが魅力です。グラスを傾けてみたときに、グラスとワインの境目のところが、薄く水っぽさがありませんか? もう一方の赤ワインは、カベルネ種から作られています。こちらの方は重くしっかりとした味わいが魅力です。グラスとワインの境目が、濃く色が詰まっているように見えませんか?」


 そう説明すると、ほとんどの人が頷いてくれた。わからない人もいるみたいだな。



「じゃあ、次は香りで比べてみましょう。まだ飲まないでくださいね。こうして香りを嗅いだあと、グラスをクルクルと回してから、もう一度香りを確かめてみてください」


 僕は、実演付きで、テイスティングの手順を説明していく。


「うわっ! クルクルするとこっちのグラスはめちゃくちゃ香りが変わった!」


「なぜ、香りが変わるの? 誰か魔法を使った?」


 香りの変化は、全員わかってみたいだ。


「最初の香りは、ぶどう本来の香りです。クルクルして空気を含むとワインとしての複雑な香りを感じられますね。これが、ワインの大きな魅力だと思います。じゃあ、お待たせしました。口に含んでみてください。喉でゴクゴク飲まないで、口に入れてゆっくりと味わってみてください」


 舌の上で転がせと言いたいところだけど、難しいだろう。エールのようにゴクゴク飲まなければ、それでいい。


「全然違う。同じ赤ワインなのに、全然違うぞ」


「色の明るい方がガメイ村のワインよね? だけど、いつもと味が違うわ」


 ガメイ種のワインは、冷やしてがぶ飲みする人が多いもんね。常温だと香りがたつから、違うものに感じるだろう。




「皆さん、赤ワインの違いを確認してもらえましたか。では、パンを食べて口直しをしてください。次は白ワインです。白ワインは、赤ワインほど見た目の違いはありませんが、やはりぶどう品種によって、味や香り、そして見た目は異なります。ご用意した白ワインは、どちらもリースリング村のリースリング種を使ったものです」


「えっ? 別のぶどうじゃなくて、同じぶどうなのか? 同じやつを2つ並べてるのか?」


 ガメイ村に住む貴族の人から、抗議のような質問だ。


「先程、赤ワインは、ぶどう品種を比べてもらいました。同じことをしてもつまらないので、白ワインは、製法の違いを確かめてもらおうと思います。2つは同じ白ワインではありません。少し色が違いますよね?」


 僕は、熟成の違いを扱おうかとも考えたけど、これは赤ワインの方がわかりやすい。ガメイ村の赤ワインは熟成させるタイプじゃないから、初回の講習会の題材には少々キツイと考えたんだ。



「製法? あんた、本当にソムリエか? 熟成のことじゃないのか? 長期熟成した年代物のワインは、高価な……」


「旦那さん、知識をひけらかそうとするのは、貴方の悪い癖ですよ。年代物の逸品のことは、誰もが知っている。私もそれを提案した。だが、ヴァンさんは、皆が買うことができる値段のワインにして欲しいと言われてね。私が調達したワインに不満なら、退出してもらおうか」


 いつの間にか来ていた商人貴族ラフール・ドルチェさんが、貴族のご隠居さんを黙らせてくれた。



皆様、いつもありがとうございます♪

作中で登場するぶどう品種は、私達の世界に実在するものです。ワイン選びの参考にしていただければ幸いです。カベルネは主に2種類ありますが、作中ではカベルネ・ソーヴィニヨンを想定しています。


今回は、テイスティングを扱いました。

お店でワインをボトルで頼むと、テイスティングを求められて焦ることがありますよね。テイスティングは、作中で描いた3つの手順で行います。


まず色を見て、妙な濁りや変色がないかを確認します。

次に香りを……ちょっと気恥ずかしいですが、そのままの香りと、テーブルに置いたままクルクルした後の香りを確かめます。

最後にワインを口に含み、味を確かめます。

そして問題なければ、オッケーの合図をすれば、お店の人は同席する人達にワインを注いでくれます。


こんな感じで大丈夫なはず(゜∇^d)

テイスティングの機会があれば、挑戦してみてくださいね。あっ、未成年の方は大人になってからですよ〜(☆。☆)

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