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154、ガメイ村 〜怒るテンちゃ

「はい、僕は、ヴァン・ドゥですよ。ナック・トロッケン様は、王宮の命令で何かを調査されているのですね。もしかして、ノレア神父からの指示ですか」


「俺は、二つの世界の監視をする者だと言っただろう? 現国王や神殿教会とは、何の関係もない」


 そう言い放った彼は、反論を許さないというかのように、スッと目を細めた。彼の今の返答は、前国王様の指示で動いていると言ったんだよな?



 神官家は、トロッケン家、アウスレーゼ家、ベーレン家の三つが神官三家と呼ばれている。


 神官三家には、それぞれ役割がある。妻のフラン様が生まれたアウスレーゼ家は成人の儀を司る。ベーレン家は民の悩みを解決する身近な教会だ。そして、トロッケン家は、統制を司る。トロッケン家は、神官家の中で、最も恐れられているんだよな。


 また王宮には、神殿教会がある。神殿教会は、神の声を聞き精霊と協力して、この世界を平和に導くことに従事しているそうだ。神殿教会の長は、精霊ノレア様の息子であるノレア神父だ。このノレア神父には、神官三家を統率する役割があるはずだけど……まぁ、いろいろと問題のある人だ。




「ナック・トロッケン様、それは、隠居された前国王様の命令で来られたということですね。何か問題がありましたか」


 僕は、強気の発言をした。ヴァン・ドゥかと問われたことからも、ドゥ家の者として、凛とした態度を取る必要があるためだ。


「ふん、ドゥ家の当主の伴侶は、バケモノなだけあって、肝がすわっているようだな。だが、その態度が、神官三家の長老達を不安にさせているのだと自覚しろ」


 バケモノか。まぁ、確かにね。覇王持ちのラフレアは、誰から見ても、普通じゃない。


「ご指摘ありがとうございます。僕は、様々なチカラを集めすぎてしまっているという自覚はありますよ。それで、前国王様が何を調査しろと命じられたのでしょう? 僕に協力できることがあれば、おっしゃってください」


 そう返答すると、彼はジッと僕を睨んだ。何か、サーチをされているみたいだな。だけど、お気楽うさぎのブラビィが、敵対する人からのサーチは弾くだろう。



「そうか。ふむ、おまえは、こちら側の人間らしいな」


 はい? こちら側って何?


「ナック・トロッケン様、僕は色のある世界の住人ですが?」


「は? ジョブのある者が、異界の住人なわけないだろ。俺が言っているのは、思考のことだ。死の花をこちらの世界に持ち込んで何をやらかすのかと思ったが、魂の救済か」


 あれ? ブラビィが弾いてない? 腰のあたりを確認すると、毛玉のアクセサリーのフリをするブラビィがぶら下がっている。


『できねーだろ。アマピュラスがあいつに味方してんだよ! トロッケンを名乗ってるが、神官じゃねーぞ。アマピュラスを従えてんだからな』


 ブラビィから、蹴りと共に、愚痴のような反論が返ってきた。アマピュラスといえば、天兎の戦闘形態だ。アマピュラスの役割を得た天兎を従えているということか。



「あぁ、聖天使になろうが、所詮は天兎のハンターの眷属けんぞくだ。天兎に敵わないのは当然だろう?」


 何も言ってないのに……。悔しいのか、ブラビィからまた蹴りが入った。暴れないでよね。



「ナック・トロッケン様、今、店は営業中なんです。僕の素性や従えている従属のことを暴露して、食堂の営業妨害をするつもりですか」


 困惑するお客さん達が視界に入った僕は、思わず反論していた。もちろん、お客さん達は、僕ではなくトロッケン家に怯えてるんだけど。


「おや? おまえが先に、死の花を使って客をもてあそんでいたではないか。まぁ、よく考えれば、動くラフレアが人間を操るために、わざわざ死の花を使う必要などないか」


 はい? ウッド草にそんな効用はないでしょ。




「ナック・トロッケンさん、店の中では皆、同じお客さんです。身分を振りかざして騒ぐなら退店していただきますよ!」


 ひぇっ、フロリスちゃんが、何てことを……。


「ふふっ、失礼した。天兎を従える同志の意見には、耳を傾けるべきだな、フロリス・ファシルドさん」


 ちょ! コイツ、わざとバラしやがった。お客さん達の多くは、目を見開いている。それに何より、サラ奥様が……。


 僕が動揺したことで、彼はニヤッと笑みを浮かべた。めちゃくちゃ性格が悪い。トロッケン家だもんな、当然か。


 そう考えた瞬間、彼の表情は歪んだ。僕の思考を、彼自身が覗いていたことは明らかだ。



「フロリス・ファシルド……」


 小さな声が聞こえた。やはりサラ奥様だ。どう説明すれば良いか、わからない。フロリスちゃんが、サラ奥様に素性を隠していたことは……どう説明しても上手く伝わる気がしない。



「ほう、そちらのテーブルの者達は、失踪者か」


 しらじらしいな、コイツ!


「ナック・トロッケンさん! 天兎を従える同志だとおっしゃるなら、なぜ、このような非道な言動をするのですか」


 バラされたフロリスちゃんも怒っている。


「俺には、トロッケン家に生まれた者として、偽りを排除し、世界をより良い方向へと統制する役割がある。ファシルド家に生まれた神矢ハンターなら、その母親は神官家の人間だろう? なぜ、それを隠す? あの者が自分の母親だと気づいた後も、なぜ隠すのだ?」


「それは……」


 フロリスちゃんは、彼に睨まれてうつむいてしまった。どうしよう。何とか反論しないと、サラ奥様とフロリスちゃんの関係が……。サラ奥様は、おそらく悪い方向に考えているよな。


 だが、まさか、フロリスちゃんの心の状態をこんな大勢の前で話すわけにもいかない。どうしよう……。




「ちょっと! あたしに何の文句があるの!?」


 突然、青い髪の少女が現れた。なぜだ? あっ、ブラビィが呼んだのか?


「は? お嬢ちゃんは……えっ!?」


 青い髪の少女をサーチしたのか、ナック・トロッケンさんは思いっきり目を見開き、サッとその場にかしずいた。


 はい? あっ、テンウッドは統制の神獣だから、トロッケン家の人達は、確か、神獣テンウッドに助けられてるんだっけ。


「神獣テンウッド様! 文句などあるわけがございません! なぜ、お怒りに……」


「あたしは、テンウッドじゃなくて、テンちゃだからっ! それに、フロリスがあの人に娘だということを明かさなかったのは、当たり前のことでしょっ!」


「えっ? あ、いえ、あの、私には理解が……」


 だよね。テンウッドじゃなくてテンちゃだと言われても、困るだろうね。


「性悪うさぎが教えなかったの? 魂の消耗が激しい状態の人間に強いストレスを与えると、死なせることになるわよ。常識でしょ!」


「あ、あぁ、はい確かに……その、娘だと明かすことがストレスになりますかね?」


「当たり前じゃない! 娘が生きてるとわかれば、ファシルド家に戻らなきゃいけないってことになって、でも、そうなると黒兎が主人を失って闇堕ちするでしょ! とんでもない板挟みストレスじゃない! あんた、バカなの? あんたの性悪うさぎがバカなの?」


 むちゃくちゃ言ってるよ……。


「は、はぁ、申し訳ございません。ただ、その、死の花の匂いがその……」


「あんたの性悪うさぎが、ウッド草の匂いを嗅ぎつけたのねっ? それで、うじゃうじゃ、ガメイ村にうさぎが湧いてるのねっ」


 えっ? 天兎が集まってるのか?


「はぁ。そのバケモノが本性をあらわしたかと……。異界に行ったラフレアは、あまりにも危険で……」


 あぁ、それで、トロッケン家に目をつけられたか。


「あんた、何を言ってんの!? ルージュの父さんをバケモノ呼ばわりしないでっ! 死にたいの? トロッケン家みんな殺してもいいんだけどっ!」


 ちょ、テンちゃ……。



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