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144、ボックス山脈 〜氷の神獣と山の竜神

「えっ? テンちゃ! 検問所を通ってないよ?」


 神獣テンウッドは……ボックス山脈の神の結界まですり抜けるのか。青い髪の少女の転移魔法によって、僕達は、ひらけた明るい草原に移動していた。


 ボックス山脈には、いくつかの出入り口があり、その検問所を通過するために長い行列ができている。不用意にボックス山脈に立ち入ることがないように、王宮が検問所を設置しているんだ。



主人あるじぃ、影の世界からの団体があんな所を通ったら、王兵がいっぱいついてくるじゃない。そんなのヤダっ」


 ぐるりと見回してみると、まぁ、確かに……危機感を感じるほどの団体だもんな。


 神獣テンウッドは、本当に集落の住人全員を連れてきたようだ。獣人の姿をした黒兎達までいる。それに、大量の小さな犬……ラフレアから生まれた魔物の悪霊も、かなりの数が来ている。


 精霊イーターだったシュピリラシュロプスの姿はない。集落の番犬として置いてきたようだ。



「テンちゃ、言いにくいんだけど、神矢が降る場所は、あの高い山の向こう側だと思うよ。この草原には、今の風向きでは流れてこないかも」


「フロリス、この場所の方が神矢拾いをやりやすいでしょ」


 フロリスちゃんの問いかけへの返事になってないよね。


「でも、神矢が拾えないと困るからさ」


「大丈夫だよっ。あたしに任せて!」


 なぜか青い髪の少女は、自信満々だ。いくら神獣が何かを言っても、神矢が降る場所の変更は行われないはずだ。



「あっ! この草原って、ハンター系の神矢がたくさん落ちてるね。紛らわしいなぁ。とりあえずご飯にしよっか」


 えっ? ハンター? 僕は、辺りを見回してみたけど、神矢らしきものは見えない。


 フロリスちゃんに尋ねようとしたけど、彼女は草原にピクニックシートを敷き、その上に魔法袋から、どんどん料理を詰めた容器を並べていく。


 こんな場所で、ご飯を食べるつもり?


 僕は、スキル『迷い人』のマッピングを使って、現在地を確認した。だが、この場所は地図にはない。人が立ち入ったことのない場所なんだ。


 まぁ、神獣テンウッドもいるし、大量の小さな犬が草原に広がっていったから、魔物に襲われる心配はないか。




「あれ? ヴァンは食べないの? 神矢が降るまで、まだ時間あるよ」


「フロリス様、ハンター系の神矢ってどこにあるんですか」


「ん? あちこちに落ちてるじゃない。ちょっと古いのかもね。土に埋まっているものもあるわ。草原の草に隠れてるけど……あっ、ヴァンには探せないかな」


「はい、探せないです」


「じゃあ、ご飯を食べてから、探そうね」


 いや、『道化師』の神矢が降る前の方がいいよな。あっ、テンウッドなら臭いでわかるんだよな?



「テンちゃ、神矢ってどこに落ちてる?」


「うん? わかんない」


「臭いでわかるって言ってなかった?」


「ここは神殿跡だから、わかんないよ。天兎の臭いが神矢の臭いを消してるもん」


「えっ? 天兎? 神殿跡なの?」


 そう尋ねると、料理に手を伸ばしていたテンウッドは、面倒くさそうな目をした。食事を邪魔されたときのルージュと同じ顔をするんだな。


「神殿跡だから、ここで拾うことにしたのっ。じゃないと、魔物が入ってくるじゃない」


 えっ……ちょっと待った。神殿跡には、必ず神殿守やロックドラゴンがいるはずだ。




『竜を統べる者! 神獣を使って、神聖な場所に勝手に立ち入るとは何事だ!』


 うげっ……この声は、山の竜神様だ。僕は辺りを見回して、虹色のトカゲを探す。きっとめちゃくちゃ小さなサイズだよね。天井や木にへばりついていることが多いけど、あっ……居た。ひぇっ、なぜ僕の足元にいるんだよ。


「竜神様、すみません。ここなら安全に神矢を拾えると……」


「ちょっと主人あるじぃ、何を言ってるの? あー、トカゲがいるのね。無視でいいよっ。この場所には、ガーディアンはいないの。だから文句は言わせないよっ」


「テンちゃ、ちょっ」


 青い髪の少女は、僕の足元にいる小さな虹色のトカゲを、踏みつけようとしている。害虫じゃないんだからさ。


「文句があるなら、この神殿跡を守るガーディアンを復活させなさいよっ」


『氷の神獣、おまえがそもそも……』


 あっ! 青い髪の少女が虹色のトカゲに……ミートボールを押し付けた。何やってんだよ。


主人あるじが作ったミートボールは美味しいよ。ルージュが好きだから、竜神も食べなさいっ」


『ふむ……むむむぐっ』


 頭よりも圧倒的に大きなミートボールを、どうやったのか見えなかったけど、竜神様は丸呑みしたようだ。


『ベアウルフの肉か。ふむ、甘い味だな』


「美味しいでしょ! ミートボールを食べたんだから、もう帰りなよっ。闇の竜神に言いつけるよ? 山の竜神は、人間のご飯を奪いに来たって」


『は? 氷の神獣! おまえが無理矢理、口に押し込んだのだろう』


「知らな〜い」


 ぷいっとそっぽを向く青い髪の少女。そんな彼女の様子に、竜神様はかなり驚いているようだ。



『竜を統べる者、氷の神獣はなぜこんなに人間らしい仕草をする? おまえは何を教えて……いや、そもそもテンウッドが人間に従うなどと……』


「竜神様、彼女は少し変わったのだと思います。なぜ神の檻に閉じ込められることになったかは、僕にはわかりません。ですが、僕の娘の世話もしてくれますし……」


『ふむ、ワシに仲介でも依頼しているつもりか!? 氷の神獣がそんなに簡単に変わるわけがない。この神殿を守っていた神殿守も、氷の神獣の犠牲になったのだ』


 うん? テンウッドの犠牲に? だけど、さっき、彼女はガーディアンを復活させろと言っていたよね?



 ◇◇◇



 パララ〜ッ!


 管楽器のような音が響き渡った。神矢が降る合図だ。だが、空を見上げても、何も見えない。フロリスちゃんが言っていたように、高い山の向こう側に降るようだな。


「山の竜神! ごちゃごちゃ言ってないで、これあげるから、あんたも協力しなさい」


 青い髪の少女は、また、ミートボールを虹色の小さなトカゲに押し付けた。


『協力とは、何だ?』


「この人達に、『道化師』の神矢を拾わせるのっ。ここじゃなきゃ、弱い人間に拾わせられないでしょ」


『おまえは、本当に人間のために力を使うのか?』


 ミートボールを食べ終わった虹色のトカゲは、目を見開いていた。いや、目が飛び出してるという方が正確かな。


「ごちゃごちゃ言わないのっ! 早くっ! 食い逃げ竜神って呼ぶよっ!?」


 竜神様を脅してる!?



『はぁ、ワシが現れることも、おまえの想定内か』


「じゃ、いっくよ〜!」


 テンウッドは、本来の神獣の姿に変わった。その背には、虹色のトカゲが飛び乗っている。二人で、何をするんだろう?



 神矢が射られたとき、この草原は虹色に輝いた。



次回は、6月14日(水)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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