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135、死霊の墓場 〜闇落ち精霊イーター

主人あるじぃ、悪霊も復活させたの?」


 僕のすぐ隣で、青い髪の少女も空を見上げていたようだ。空には、ほぼ隙間なく、悪霊らしき影が漂っている。


「テンちゃ、えーっと、そんなつもりはなかったんだけどな。色のある世界では、こんなことは起こらないんだけど……ちょっとマズイよね」


 まだ術の効果が残っていて、僕の身体は強い光を纏っている。きっと光ってるうちは大丈夫だ。影の世界の霊は、精霊系の光を嫌う。


「うーん? 竜神が焼き払った悪霊を復活させたんだから、別にいいんじゃない? それに、主人あるじの指示を待ってるかも」


「へ? 僕の指示?」


「うん、だから、みんなに言って、頑固な竜神をころ……」


「テンちゃ! 何を言い出すんだよ! ダメって言ったよね?」


 神獣テンウッドの言葉は、言霊になり意味を持ちかねない。僕は慌てて、青い髪の少女の口を封じた。


 あれ? 逆らわないんだな。


 僕が、手で物理的に少女の口を塞いだのに、テンウッドはされるがままだった。手を離すと、ムスッと膨れっ面をしていたけど。


主人あるじぃ、そういう言い方しないでよ。ビビっとするじゃない。でも今の主人の手って、マナ爆発中だね」


 はい? 何それ。


「マナが爆発してるの?」


「うん? 爆誕してる」


「爆誕?」


 そう聞き返しても、テンウッドからの返事はない。返事代わりのつもりなのか、僕の手を掴んで自分の顔に持っていってる。マナを吸っているのか?


 確かに、身体は光を纏っているけど、その光もテンウッドに吸われたせいか、少しずつ減っていくようだ。




「ヴァン、畑は直ったけど、また襲撃なの!?」


 フロリスちゃんはいつの間にか、剣を装備している。武術系ナイトのファシルド家のお嬢様らしいけど、ラフール・ドルチェさんの前では、商人貴族のフリをするんだよね?


 不安そうな集落の住人達が、僕の返事に耳をすませていることがわかる。どう返事すれば良いんだ?



 すると青い髪の少女が口を開く。


「フロリス、違うよ。集落の空を埋め尽くしてるのは、主人あるじが復活させた悪霊だよ。竜神が焼き払った悪霊を、主人が復活させたの。竜神は始末したつもりみたいだったけど、主人は復活させたのっ」


 神獣テンウッドは、何度、僕が復活させたと連呼する気だ? 集落の空か……すなわち、集落の結界内に悪霊がいるということだよな。


 畑が完全に元通りだから、きっと集落の緩い結界は復活したはずだ。その集落内に、僕は、悪霊まで復活させてしまったということだ……。


 どうしようかな。もう一度、邪霊の分解・消滅を使うか。あの技能を使えば、完全に悪霊は消滅するはずだ。だけど、復活させて消滅させるって……霊の立場から見れば、あまりにも酷いよな。


 あれ? そもそも、なぜ悪霊が復活したんだ? 邪霊の分解・消滅は、未開の地の近くの平原で使った。あれで完全に悪霊は消滅するよね? この集落は少し離れているから、効果が弱かったのだろうか。


 僕は再度、精霊師の技能を確認する。



 ●邪霊の分解・消滅……闇に堕ちた精霊や妖精を、マナに分解し、再生もしくは消滅させる。悪霊に使うと消滅のみ。


 ●広域回復……大地のマナを増幅し、一定の範囲内の精霊や妖精、さらに精霊の宿る地の回復を行う。



 うーむ。矛盾するような気がする。


 邪霊の分解・消滅は『精霊師』上級で、広域回復は『精霊師』超級の技能だから、広域回復の方が優先されるのだろうか? もしくは再び使えば、復活した悪霊を再び消滅させられる? でもそれって、命をもてあそぶ行為だよな。影の世界では、悪霊も、この世界を構成する住人だ。



主人あるじぃ、何を変なこと考えてるのー? 空に浮かんでる悪霊は、竜神が焼き払う前とは違うよっ。完全に、主人の言うことを聞くよ」


 僕の頭が爆発しそうになっていると、青い髪の少女が不思議そうに、顔を覗き込んできた。


「えっ? 違うって……」


「だから〜、竜神がなんか怒ってるけど、気にしなくていいんだよ」


 はい? 竜神様が怒ってる?


「ちょ、テンちゃ。竜神様を怒らせたなら、マズイじゃん」


「あんな頑固な竜神は……いらないじゃない」


 僕が睨んだためか、青い髪の少女は言葉を選んだつもりらしい。いらないというのも、ギリギリアウトじゃないのかな。




「ヴァン! 何か……」


 フロリスちゃんが、空を指差して突然叫んだ。集落内の空を埋め尽くしていた悪霊の先に、禍々しい巨大な何かが居るのが見えた。


「あっ、テンちゃ。あれって、さっき言ってた悪霊?」


 竜神様が討ちもらした悪霊が、こっちに向かってきていると言ってたよな。僕の技能の発動は邪魔されなかったから、忘れてたよ。


「うん? あっ、そうそう。竜神から逃げた悪霊だよ。すばしっこいんだよねっ。知能の高い悪霊だよ。ボックス山脈で討たれたみたいだけど、あれ? わざと討たれたみたい。減ってないよ」


 神獣テンウッドの話は、後半が意味不明だ。


「テンちゃ、何が減ってないの? わざと討たれたって、どうしてわかるの?」


「そんなの、見たらわかるじゃない?」


「僕には、わからないよ」


「ふぅん、不便なんだね。わざと討たれたから、その前に何も減らないようにしたんだよ」


 意味不明だ。



「テンちゃ、私もわからないわ。魔物は討たれて悪霊になったら、知識や魔力は維持できる個体もいるけど、他は……ええっ!?」


 フロリスちゃんが話している間に、空に浮かんでいた禍々しい巨大な悪霊は、集落の入り口の方へと降りたようだ。そして、スーッと縮んでいく。


 ボンッと音がした。この音は、まさか『道化師』の変化へんげじゃないよな?



「何も減ってないでしょ? 賢いね、あの魔物」


 神獣テンウッドは、ギラギラと目を輝かせている。好敵手を見つけた、ということか?




「こんにちは〜っ! 入っていいですかぁ?」


 はい?


 集落の入り口の方から、少年のような元気な声が聞こえた。


「入っていいよー。でも、変なことしたら殺すから」


 青い髪の少女は、まさかの許可を与えている。門番のレイランさんに視線を移すと……倒れそうになっていた。だよな、勝手に許可するなんて。


 もう術の光も消えている。どうしようか。



「はーい! お邪魔します〜」


 元気な返事が聞こえた後、普通に集落内を歩いてくる音がした。集落の結界は? 禍々しい悪霊だよな? 反応しないの?



 姿を現したのは、声の印象よりも少し幼い感じの獣人だった。黒兎とは違って、赤色の髪に短い耳、これは犬系だろうか。なぜだか、精霊イーターを連想させる。


「こんにちは〜っ! ヴァンさん、ありがとう」


 はい? なぜ僕の名を? 


「えーっと、キミは?」


「新たにラフレアから生まれた魔物じゃないよ? ボックス山脈のラフレアの森に棲む精霊イーターだったよ。でも、飽きちゃったんだ。だから、一斉討伐に紛れ込んでみたよ〜」


 連想通りの精霊イーター。もしかして僕を誘導しているのか? だが、全く敵意は感じない。


「なぜ、僕にありがとうなの?」


「だって、アレ」


 少年は、集落の空を指差した。空一面の悪霊だ。


「復活させたから?」


「うん。みんな生まれた時から知ってる魔物だからね。記憶も取り戻しているみたいだ。精霊師って凄いよね。ヴァンさんが、ラフレアだからかな?」


「えーっと、キミは、お礼を言いに来てくれたの?」


「うん! それに、この付近の平原って、これからは霊がたくさん集まるでしょ? だから来たんだ」


 なぜ、霊が集まるんだ? あ、人の集落があることが、悪霊達にバレたから?


「霊が集まるから、来たの?」


 そう尋ね返すと、少年は笑顔でコクコクと頷いている。意味がわからない。


 すると、青い髪の少女が口を開く。


主人あるじぃ、この魔物を集落で飼えばいいよ。闇落ちした精霊イーターは、いい番犬になるよっ。竜神も追い払える」


 その、竜神様への敵視は、やめなさい。



次回は、5月24日(水)に更新予定です。

よろしくお願いします。

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