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107、王の館フォール 〜死霊の墓場という名の集落へ

「死霊の墓場って書いてありますよね? これが集落なのですか?」


 僕は疑うつもりはないけど、ラフール・ドルチェさんの指差した地図の表記が、一角獣が行けと言った場所だとは思えなかった。


「ええ、死霊の墓場ですからね。色のある世界から来た人達の集落ですよ」


 自信満々にそう言う彼の言葉は、僕にはやはり、違うと感じた。一角獣がそんな場所にフロリスちゃんと一緒に行けと言うわけがない。だけど、そんなことをストレートに尋ねるのは、失礼か。



 僕が言葉に詰まっていると、フロリスちゃんが口を開く。


「ラフールさん、私の世界から来た人達がその集落に、閉じ込められているということなの?」


「いえ、店長さん、閉じ込められているわけではありませんよ。黒石峠付近は頻繁に歪みが生じる不安定な場所ですから、紛れ込んでも戻る気があれば、色のある世界に戻れます。それに今では、二つの世界の行き来が簡単になりましたからね」


「じゃあ、その集落で暮らしている人は、影の世界の住人になったってこと?」


「その集落で死ぬことがあれば、そうなりますが、えーっと、私にはよくわからないです」


 ラフール・ドルチェさんは、グリンフォードさんに助けを求めるような視線を向けた。だけど、グリンフォードさんは軽く首を横に振っている。話せないことなのか。



「雷獣様があのようにおっしゃっていたから、行ってみればいいですよ。私はその集落には入れないので、ラフールに案内させます」


 グリンフォードさんは、何かの目配せをしている。あぁ、ここに集まった人達に聞かせたくないのか。


「はい、ご案内いたしますよ。集落は、強い獣のナワバリの中にありますが、王の宣言により長老争いをしているでしょうし、ちょうどいいですな」


 えっ、強い獣のナワバリの中!? 


 僕は反射的に警戒心が湧いてきた。堕ちた神獣ゲナードのことが頭をよぎったためだ。


「ラフールさん、その強い獣って、堕ちた神獣とか……」


「あぁ、ゲナードですか。アレは、今はこちらの世界には居ませんね。ヴァンさんが神獣テンウッドに監視させてるんじゃないですか?」


「あぁ、はい、まぁ」


 確かに神獣テンウッドに、ゲナードの監視を依頼している。たぶん今は、ボックス山脈にいるはずだ。だけど、ゲナードは、自由にあちこちに出没できるからな。



「ラフールさん、強い獣って何? もし遭遇しちゃったら、私やヴァンで対応できるのかしら」


 フロリスちゃんは、自ら戦う気満々だね。全く怯える様子はない。ほんと、強くなったよな。


「店長さんの力はわからないですが、ヴァンさんは、こちらの世界では……竜神様の言葉を借りればバケモノですから、大丈夫ですよ。それに交戦することになれば、きっと光さまが助けに来られます」


 ちょ、バケモノって……。確かに、こちらの世界に長く居ると、変な感覚になってきている。悪霊の放つ汚れたマナは、極上の蜜の香りだ。


 光さま、か。竜神様の子達が、こちらの世界で敬われていることも、今回よくわかった。僕の目から見れば、ポヨンポヨンと飛び跳ねる癒し系の魔物なんだけどな。



「そう? でもヴァンって、剣術はあまり強くないよっ」


「ふふっ、店長さんの方が強いのですね。だが、こちらの世界では、剣術はあまり役に立たない。やはり、ラフレアを率いるチカラのあるヴァンさんは、こちらの世界では最凶でしょう」


「ヴァンが、最強? ふぅん、そうなの」


 フロリスちゃんは少し不満げだ。だけど、ラフールさんが言ったのは、最強ではなく最凶。まぁ、ラフレアは害獣だからだよな。


「ええ、ヴァンさんがこの世界に定住することがないように、見張りの役目を……あ、いえ、なんでもありません」


 ラフールさんは、慌てて口を閉じたけど、言いかけた言葉で、もう十分、その意味がわかる。やはり、害獣扱いなんだな。



「ヴァンさん、変な意味じゃないんだよ。ただ、この世界で霊を喰い荒らされると、竜神様の秩序が崩れてしまうんだ」


 グリンフォードさんは、小声でそう囁いた。


「確かに僕は、こちらの世界では妙な誘惑を感じてますからね。その誘惑に負けてしまうと、本物のバケモノになってしまいそうです」


 僕は、冗談で返したつもりだったけど、グリンフォードさんは顔をひきつらせている。失言だったか。


「ヴァン、何を言ってるのっ? フランちゃんに言いつけるよっ。フランちゃんからも、ヴァンの見張りを頼まれてるんだからねっ」


「へ? 僕の見張り……フロリス様もですか?」


「うんっ。ゼクトさんが、言ってたのっ。ヴァンを一人にすると、影の世界から戻らなくなるって。覇王持ちのラフレアは、ちょー危険だって言ってたよ」


 ゼクトがそんなことを? まぁ、うん。確かに、フロリスちゃんがいなければ、強い悪霊を喰ってしまうかもしれないか。一度喰うと、きっと歯止めが効かなくなる。



「では、集落へ向かいましょう。館の外から、転移魔法が使えますので」


 ラフール・ドルチェさんが講堂の出入り口へと向かうと、集まっていた人達は、僕達に深々と頭を下げた。。案内してくれた女性も、魔道具に指示されて頭を下げてくれている。


 この場所からでも、ラフレアの根を使えば瞬時にワープできそうだけど……従う方がいいよね。多重結界のある竜神様の祭壇がある講堂からワープすると、たぶん挑発行動だと思われるだろう。


「グリンフォードさん、では、また店で」


「はい、店長さん。ヴァンさんも、ありがとうございました」


 グリンフォードさんのにこやかな笑顔に見送られ、僕達は講堂を後にした。そして、館の門を出て、さらにこの館を取り囲む集落の門をくぐった。



「ラフールさん、館の周りには、たくさんの家があるんですね」


「ええ、王に仕える者の屋敷です。来たときは、この門はスルーでしたもんね。この程度の結界ではラフレアは防げないのだと痛感しましたよ。まぁ、わかっていたことですけどね」


 僕の何気ない言葉に、ラフール・ドルチェさんは苦笑いだ。そっか、すっかり忘れていたな。また、失言だったか。


「じゃあ、王の館の地下茎は、全部退けましょうか」


「えっ? そんなこと、できるんですか!?」


 僕の申し出に、ラフール・ドルチェさんは目を輝かせた。


「はい、僕が伸ばしてしまった根に、他の根が絡んでますから、可能ですよ。たぶん、結界の中に根が残ってなければ、結界の威力は上昇しま……」


「ぜひ! ぜひお願いします!!」


 めちゃくちゃ食い気味に、凄い勢いで迫ってくるラフールさん……。ラフレアの根に困っていたのだとわかる。



 僕は、スーッと根を伸ばし、王の館の地下に広がる地下茎を、左右に大きく迂回させた。すると予想どおり、結界が地下深くにまで広がることを感じた。


 しかし弱い結界だな。簡単に破れそうだ。まぁ、こんな風に迂回させておけば、他のラフレアがウッカリ立ち入ることはないだろう。


「根は、すべて……」


「うぉおっ! ありがとうございます! 結界が本当に強くなってます! これなら安心です!」


 いや、弱い結界だけど……。ま、いっか。


 ラフール・ドルチェさんは、門番達と喜び合っている。それほどラフレアは、厄介な害獣なんだな。



「あぁ、失礼しました。では、例の集落へ、ご案内いたしましょう」


 ラフールさんは、にこやかにそう言うと、僕達を転移魔法の光で包んだ。



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