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1、自由の町デネブ 〜派遣執事に専念します

よろしくお願いします٩(ˊᗜˋ*)و

「ヴァン、来週からしばらくは、派遣執事に戻るのね!?」


 教会の片隅で薬を作っていると、明るい声が教会内に響いた。手を止めて顔をあげると、声の主は、少し離れた場所で信者さん達に囲まれている。


 ふふっ、またやってる。教会の入り口で叫ぶから、こうなるんだよね。彼女は早くこちらに来ようと、必死に説明しているみたいだ。



「旦那さん、やっぱりその噂は本当だったのですな」


 調薬の作業を再開すると、薬を待っている信者さんが、不安そうに僕に尋ねた。そんなことが噂になっていたのか。


「心配はいりませんよ。僕に与えられたジョブは『ソムリエ』だから、たまには仕事をしなきゃと思いましてね。このデネブか、商業の街スピカで派遣執事をする予定ですが、空いている時間は今まで通り、ここで薬を作っていますよ」


「おぉ、それなら安心ですな。ワシらのような者には、ドゥ教会と旦那さんの薬が、生きる希望ですからな」


 大きな動作で胸を撫で下ろす男性。ちょっと大げさだな。だが実際に、そういう人もいるかもしれない。この町デネブで暮らす半数以上は、元奴隷だったり、生きる場所を求めて逃げてきた人達なのだから。



 ◇◇◇



 僕は、ヴァン・ドゥ。もうすぐ21歳になるジョブ『ソムリエ』だ。ぶどう農家に生まれ、いろいろあって、今はここ、ドゥ教会の奥の屋敷で暮らしている。


 教会の信者さんから旦那さんと呼ばれるのは、僕の妻が、このドゥ教会を建てた神官であり、ドゥ家の当主だからだ。僕は、神官の下級スキルは持っているけど、神官の仕事はしていない。この教会では僕は、薬師だと思われている。


 僕の妻フラン様は、僕より4つ年上の凛とした素敵な女性なんだ。彼女とは、僕の成人の儀のために、僕が生まれ育ったリースリング村に来てくれたときに出会った。


 あれから、もう8年近く経つけど、僕はずっと変わらず、彼女に憧れの気持ちを持ち続けている。だから、出会った頃と同じく、様呼びしているのかもしれない。


 彼女との間には、僕の20歳の誕生日に生まれた娘がいる。娘の名はルージュという。最近はよく笑って可愛いんだ。


 これまでの人生をこうして振り返ってみると、今、とても幸せだなと思う。だけど今の僕は、命に関わるマズイ状態になっている。



 ◇◇◇



「ヴァン、一番最初は、ファシルド家からだよね?」


 明るい声の主フロリスちゃんは、やっと僕の近くにたどり着いた。学校帰りに誰かから聞いたのかな。ウズウズわくわくと落ち着かない様子だ。


 少女と初めて会ったのは、彼女が5歳のときだっけ。あれから7年ほどの時が経過した。彼女は12歳、もうすぐ13歳の成人を迎える。


 フロリスちゃんは有力貴族ファシルド家のお嬢様だ。不幸な幼児期を過ごした彼女だが、今ではおしとやかさとは無縁な、元気いっぱいの少女だ。


 僕は、昔からの習慣で、ついつい彼女を子供扱いしてしまう。兄というか保護者のような視点で見てしまうのかもしれない。



「フロリス様、誰に聞いたのですか? まだフラン様にも具体的なことは、話してませんよ」


「ふふっ、フリックが言ってたよ。ヴァンは、ジョブ『ソムリエ』なのに遊んでばかりだから、このままだとジョブの印が陥没しちゃうんでしょ」


 両手を腰に当てて、ドヤ顔をキメるお嬢様。遊んでばかりとは心外な……。まぁ確かに、ジョブの役目を果たしていないのは事実だ。


 しかも既に、ジョブの印が陥没する兆しが現れている。これが完全に陥没してしまうと、命に関わることになる。



 ジョブとは、神から与えられる生涯果たすべき役割だ。成人の儀を終えると身体のどこかに、ジョブの印が現れる。一般的には、このジョブを主な仕事とするべきだと考えられている。


 だけど僕は、ジョブの印が現れる前から、凄腕のハンターに強く憧れていた。だから、つい、スキルを集めることに夢中になってしまう。


 ハンターのスキルを集めて、極級ハンターになりたい!


 子供の頃からの夢は、まだ叶っていない。しかし今、そんなことを言っていられない状態になっていた。



 数日前から急にジョブの印の輝きが消え、印のある右手の甲が熱を帯び、右手の感覚がおかしくなってきたんだ。


 ある意味、自業自得。


 親しくしている極級ハンターのゼクトさんからも、平和な今のうちに、ジョブの仕事に専念しろと言われている。


 ジョブの印の陥没の兆しが現れたことは、ゼクトさんと、親友のマルクにしか話していない。


 彼らとの話の中で、たまに『ソムリエ』の仕事をすればいいだけかとも考えた。だが、その程度では、陥没の進行を遅らせることはできても、改善はしないという。


 今、薬師のスキルを使って簡単な薬を作ることさえ、少し辛くなってきている。スキルの発動には、ジョブの印を使うためだ。


 ジョブの印の陥没が進むと、スキルはだんだん使えなくなっていくらしい。そんなことになると、守りたいものを守れなくなる。



 この世界に、新たな新種の魔物が大発生してしまうのが二年後。それまでに完全復活しなければ、取り返しのつかないことになりかねない。


 だから僕は、しばらくの間、派遣執事に専念しようと決意した。



週5回更新予定です(日曜と月曜お休み)

よろしくお願いします。

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