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空辺の島のものがたり  作者: ののひ
黒濡れ頭のペールトン
8/10

インブリスターアンダーローズ




「ごめんなさい。ええと、あなたは……」

『ブ、ブリ……スターです』

「ブブリ・スターさん?」

『ブリスターです。あ、あの、これは名前で……私は箱に入っているだけで……』


 箱の中のブリスターさんの声はとても小さくて、箱に耳をくっつけないとよく聞こえませんでした。

 箱の表面はひんやりとしていて、傷はどこにも見当たりません。


「どうしてブリスターさんは箱の中にいるんですか?

どうして、こんな所に来てしまったんですか?」

『そんなことよりあれです、そこにあれはいませんか?』

「あれ?」

『あいつです。あ、あの恐ろしい、真っ黒なっ、したたる足音の……!』


 ブリスターさんはどんなことよりも、まずそれを怖れているようでした。

 それについて話すうちに箱がカタカタ震えだし、唸り声のようなものも

 混ざるようになりました。


「大丈夫ですよ。ここには私とブリスターさんと、屋根の上のガーゴイル以外いません」

『ガー……ゴイル? 雨樋の?』

「雨樋のガーゴイルは知らないけれど、石で出来た、たぶん生き物です。空飛ぶお猿さんみたいで可愛いんですよ。恐ろしくもないし、真っ黒でもありません。

 あ、もしかして、やっぱりブリスターさんは他の世界から……」

『あなたは!』

「えっ?」

『あなたは誰ですか! あなたがそうなんじゃ無いんですか!?』

「あ、ごめんなさい、自己紹介しなくちゃですね。私はキリエといいます。この辺りを治める魔王さまのしもべをしています。趣味は家事とお昼寝。得意なことは胸枕……」

『魔王! 魔王って言ったの!?』

「あ、あ、大丈夫ですよ。魔王と言っても、おとぎ話とかに出てくる悪いものじゃありませんよ。どちらかと言うと魔王というだけで、見た目も中身もかわいい……」

『何を言っているか意味が分からない! 何なんですか、何なんですかここは! そうだ、あいつはやっぱりここにいるんだ!』


 ブリスターさんを不安がらせてしまったようです。

滅多に人が来ないせいか、うまく自己紹介できませんでした。


「あのう、とりあえず箱から出てきませんか? 見てもらいながらだと、いろいろ説明もしやすいと思うし」

『そんなことしたら、あいつに見つかってしまうじゃないですか! いいえ、もう見つかっているかも! 逃げなきゃ! 逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!』


「お、落ち着いて……」


『逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ! あいつが来る! ぜったい来る! ペールトンが!』




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