インブリスターアンダーローズ
「ごめんなさい。ええと、あなたは……」
『ブ、ブリ……スターです』
「ブブリ・スターさん?」
『ブリスターです。あ、あの、これは名前で……私は箱に入っているだけで……』
箱の中のブリスターさんの声はとても小さくて、箱に耳をくっつけないとよく聞こえませんでした。
箱の表面はひんやりとしていて、傷はどこにも見当たりません。
「どうしてブリスターさんは箱の中にいるんですか?
どうして、こんな所に来てしまったんですか?」
『そんなことよりあれです、そこにあれはいませんか?』
「あれ?」
『あいつです。あ、あの恐ろしい、真っ黒なっ、したたる足音の……!』
ブリスターさんはどんなことよりも、まずそれを怖れているようでした。
それについて話すうちに箱がカタカタ震えだし、唸り声のようなものも
混ざるようになりました。
「大丈夫ですよ。ここには私とブリスターさんと、屋根の上のガーゴイル以外いません」
『ガー……ゴイル? 雨樋の?』
「雨樋のガーゴイルは知らないけれど、石で出来た、たぶん生き物です。空飛ぶお猿さんみたいで可愛いんですよ。恐ろしくもないし、真っ黒でもありません。
あ、もしかして、やっぱりブリスターさんは他の世界から……」
『あなたは!』
「えっ?」
『あなたは誰ですか! あなたがそうなんじゃ無いんですか!?』
「あ、ごめんなさい、自己紹介しなくちゃですね。私はキリエといいます。この辺りを治める魔王さまのしもべをしています。趣味は家事とお昼寝。得意なことは胸枕……」
『魔王! 魔王って言ったの!?』
「あ、あ、大丈夫ですよ。魔王と言っても、おとぎ話とかに出てくる悪いものじゃありませんよ。どちらかと言うと魔王というだけで、見た目も中身もかわいい……」
『何を言っているか意味が分からない! 何なんですか、何なんですかここは! そうだ、あいつはやっぱりここにいるんだ!』
ブリスターさんを不安がらせてしまったようです。
滅多に人が来ないせいか、うまく自己紹介できませんでした。
「あのう、とりあえず箱から出てきませんか? 見てもらいながらだと、いろいろ説明もしやすいと思うし」
『そんなことしたら、あいつに見つかってしまうじゃないですか! いいえ、もう見つかっているかも! 逃げなきゃ! 逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ!』
「お、落ち着いて……」
『逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ、逃げなきゃ! あいつが来る! ぜったい来る! ペールトンが!』




