リッカンバウム宙環に見られるミミックの生態について
「ええー……どうしてえ」
考えることが苦手な私です。
誰もいないと思っていた礼拝堂にいきなり背の高い箱が現れて、驚くのが間に合いません。
「ミミックが迷い込んだのかな」
生きたびっくり箱とも呼ばれるミミック。
木箱、宝箱、指輪の箱に空き瓶用の箱……生息する土地に応じた箱のふりをしながら、じっとしていることの多いモンスター(知性がなくて、基本的に意思の疎通ができなくて、さらに凶暴で危険な生き物)です。
他の生き物が通りかかると牙の生えた口を開けてびっくりさせたり、ときには襲いかかったり。
中には、臆病だったり人懐こいものもいるようです。
小さくて牙が無くて人懐こい種類のミミックは、よくペットとして可愛がられ、また、どこかには高度な魔法を練り上げることのできる種類もいるんだとか。
「不思議……ただの箱にしか見えなかったのに。
よく見るとプレゼント用みたいに丁寧に飾りつけられてる……」
そんな彼らをモンスターと一纏めにして良いのか。
一部を、動物に近いものとして分類しても良いのではないか。
だったらその境はどこか。
たまに偉い人たちが集まって、そんなことを話し合っては、揃って頭を抱えているそうです。
頭の良い人たちが力を合わせても、世界はまだまだ分からないことだらけなんですね。
ちなみに、ニヨと私はヒト、人間で、一見すると同じ種族に見えます。
でも、じつは、分類すると植物と動物ほど離れているそうです。
「うふふ、可愛いリボン」
口を閉じるようにリボンを巻いたミミックは総じて安全。
……と『異界しもべマニュアル』には書かれています。
また、大きなミミックほどのんびり屋でおとなしいそうです。
直線で構成された直方体の箱を基準として、線が少なく歪んでいるほど幼く、逆に線が多かったり美しく丸みを帯びたり複雑な形になっていくほど、熟練のミミックであることを示す……のだそうです。
「ミミックさん。こんなところでどうしたんですか? 迷い込んだんですか?」
礼拝堂跡地に現れたミミックのそのリボンは、ほのかに甘いお菓子を連想させるような淡い黄色をしています。
もしかしたら女の子なのかもしれません。
ミミックは、中には家族や群れで活動(?)するものもいますが、だいたいは1人ぼっちでいることの方が多いそうです。
このミミックも1人ぼっちなんでしょうか。
1人ぼっちで、ここに流れ着いてしまったんでしょうか。
だとすれば、ほんの少し物悲しくて、たまらなく愛おしく思えてきます。
「お腹、すいていませんか? これから朝ごはんを作るので、良かったらうちで食べていきませんか? あ、でもミミックの食べそうなもの、おうちにあったかな」
『……あの』
ミミックが、控えめな女の人の声を出しました。
びっくりです。
なんと、喋るミミックです。
これは貴重な大発見ですよ。
しかるべき機関に届け出れば、私の名前が付いちゃったりするかもしれません。
『キリエミミック』。
……あれ? あんまりかっこよく聞こえない?
『私、ミミックじゃ無いです……』
ミミックじゃありませんでした。




