旧礼拝堂 揺りかごの泉
さて、朝といえば朝ごはんの仕度ですが、ニヨが起きてくるまで、もしくはニヨを起こしに行くまでの間、他にも色んなことをしています。
掃除、晴れた日には洗濯、木の実踏み、ごみ焼き、回廊にできた鳥の巣の観察、あくまでもお湯の調子を見るための入浴……だいたいお城での生活に関係することですが、季節やその日の天気、私の気分によって、中身は少し変わってきます。
今日は大浴場の掃除をかねた入浴から予定変更して、礼拝堂でハーブ摘みです。
「おはようございます、ガーゴイルさん」
『……長き耳の聖カルナペは信じていた。神こそが真実であるならば、その祭壇を見出すに殉ずるこそが信仰であるはずだ』
お城から少し離れた場所に佇む礼拝堂。
ニヨや私よりもずっと歴史の長いらしいそれは、お城と同じように所々崩れています。周りには、かつて屋根や壁の一部だったと思われる石の塊が、草花に埋もれるように散らばっています。
『九万四千日の巡礼はいまだ果てなく、祭壇のあてもなく、もはや人の地平に神のおわさざること……』
『……人の、かかか………か、き』
礼拝堂の屋根には石でできた人型有翼動物、ガーゴイルが三匹座っています。
二匹は額に三本の角を生やしていて、もう一匹は首から上がありません。
三匹はよく何か話し合ったり、私の知らない言葉で歌ったりしていますが、こちらが話しかけても気づく様子は無くて、果たして生き物なのか、ラジオのような物なのか分かりません。
ガーゴイルたちが森の方からやってきた蝙蝠と一緒に、夕陽の中で飛んでいるところを見た……とニヨから聞いたことがあるけれど、私の膝の上でうつらうつらしている時のことだったので、本当のところはやっぱり分かりません。
「お邪魔しまあす……」
名前も残っていないこの礼拝堂には、どんな神様がいたのでしょう。
祭壇があったと思われる奥の方は、今は草の絨毯に囲まれた泉になっています。
そこから溢れた透明な水が一筋、礼拝堂に差し込む木漏れ日のような光を受けながら、かつて多くの人が片膝をついたであろう場所を横切って、壁のひびの下へと流れていきます。
「今日もいただいていきますね」
礼拝堂の泉では、いろんなハーブが育ちます。
本来なら同じ土地では見られないもの同士が並んでいたりして、もしかしたら、神様の祝福がほんの少し残っているのかもしれません。
「レモニル、マジョラム……」
ハーブは月が最も青みを帯びた夜に摘むもの……というのは、私の故郷では歩けるようになる前の子供でも知っていることでした。
ですが、ここでは、朝に摘んだほうが良いようです。摘みごろのハーブに集まることの多い魔力の光の粒が、朝の明るさに紛れながらふわふわと漂っています。
「タイムにオカモズクに大きな箱。………箱?」
礼拝堂の片隅、「奥の泉」の壁際に、大きな箱がありました。




