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空辺の島のものがたり  作者: ののひ
黒濡れ頭のペールトン
2/10

雨の夜箱

ニヨ 

 島のお城を治める桃色髪の少女。泣き虫で甘えんぼう。

 魔法の携帯ゲーム器がお気に入り。

 裾に穴が空いたレギンスを格好良いと思って愛用している。

キリエ

 ニヨにつかえる黒髪の少女。のんびり屋で子供好き。

 1日1回誰かを抱っこしないと調子が悪くなる。

 趣味は読書(よく眠れるから)。

      





 この島の歴史はきっと何千年も昔に始まっていますが、お城の暖炉の出番が少なくなってきた頃のある日の夜が、今回のお話の始まりです。



 その日は昼ごろから、雨のにおいが強くなっていきました。


「釣り竿よーし、雨手袋よーし、雨合羽よーし」

「魚を入れる紐樽よーし。

 あ、食べられる魚図鑑も持っていかないと」


 私たちの暮らすお城はまだまだ作りかけです。

 壁の材料の「小指がぶつかっても痛くない石」がなかなか手に入らないので、屋根の付いていないところも多く、半日も雨が降ろうものなら廊下の一部が水没してしまいます。

 とくに日ごろ使うことの少ない西側はひどく、いたるところの突き当たりに深い池ができてしまいます。


「ねえキリエ。いちいち釣り竿で釣らなくても、

 長靴で水溜りに入って、手で魚をとるんじゃ駄目なの?」


「水溜まりの底が別の世界と繋がってるかもしれないから、

 無闇に入らない方が良いそうです」


「ふうん。……じゃあ、釣り糸をずっと垂らしていったら、

 別の世界のモンスターとかも釣れちゃうのかな」


「どうでしょう。釣れちゃうかも」


「へ、へえ。私は魔王だから怖がらないけど、

 そうなるとちょっと面倒くさいよね」


「そうですね。しっかり浮きを付けて、

 糸も短めにしましょうね」


「うん。わ、私はべつに、モンスターなんて怖くないよ。

 本当だよ」


 不思議なことにその『廊下の池』は、どこの川や海とも繋がっていないのに、魚が迷い込んできたりします。

 だから雨の日の夕飯は、魚料理が多くなりがちです。


「今日の魚はベタベター」


「ベタベタでしたねー」


 新鮮な魚の焼き物に二人で舌鼓をうったら、鼻歌まじりに食器洗い。

 歌声のよく響く大きなお風呂で綺麗になって、暖炉のある居間で、夜の雨音を聞きながらしっかりだらだら。

 いつもならその後は一緒にベッドで眠るところですが、その日のニヨは珍しく、1人で眠ると言いました。




「……えいっ、てやあっ。この、この、このーっ!」


 ……どうやら、私に内緒で夜遅くまで、大好きなおもちゃで遊びたかったようです。


 小さな窓のような画面と、丸や十字型などの小さなボタンが付いた、少し厚い板のような魔法仕掛けのおもちゃ。

 「ゲーム器」と呼ばれていて、子供も大人も夢中になるほど面白いんだとか。

 星の踊る日も、雨小人の歌う日も、そのおもちゃを両手でしっかりと握って、いろんな表情で覗きこんでいることの多いニヨです。


「むむむっ、えーい」


 のっそりごろんと横向きに転がって、暮れかけの砂漠のような桃色の髪を身体に巻きつけていったり。

 でんぐり返りの途中みたいな姿勢で、逆さまに家具にもたれかかっていたり。

 そのおもちゃで遊んでいるときのニヨは、ふと目を離した隙に、ときどき心配なことになっています。


「……ぷはあ! また駄目だった」


 ニヨいわく、おもちゃの窓の向こうには、無限の夢と冒険があるのだそうです。

 そこで主人公になって、悪者をこらしめて世界を救ったり、可愛いモンスターを集めて戦わせたりしているんだとか。

 本の中に入り込んだ気分になれるのでしょうか。

 だとしたらとても素敵です。

 でも、そのおもちゃで遊んでいるニヨを膝に乗せたり、めくれた服の裾をなおしてあげたりする方が、私はどちらかと言うと好きかもしれません。


「今日は調子が悪いだけだもん。

本当の力を出した私なら……ぎゃふんっ!?」


 ニヨは綺麗好きで、でも片付けることが苦手なので、部屋には「お届けギルド」や「魔女の箒組合」などの宅配便で届いた荷物の箱がいくつか、ときにはベッドの上でまで重なっていることがあります。

 その箱の山から軽い箱が1つ、おもちゃ片手に仰向けになったニヨの鼻の上にぽこんと落ちて跳ねました。


「うえぇ……痛いよう。

 って、あれ、そんなに痛くない?」


 それは、飾り気の無い寂しそうな箱でした。


「何だろう。間違って届いたのかな」


 見たところ、どこから配達されたのかも、どうやって空けたら良いのかも分かりません。

 持ち上げようとして、ニヨは初めて、その箱が自分よりも大きなことに気がつきました。




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