ある日の空辺より、ご挨拶の
引っ越し先が空に浮かぶ小さな島だなんて、引っ越してから知ったらびっくりしませんか?
私はびっくりしました。
さらに、そこには作りかけの小さな魔法のお城がぽつんと建っていて。
泣き虫の小さな女の子が一人ぼっちで住んでいて。
その女の子が『第三大世界同盟公認魔系統治者通称魔王』なんていう、長ったらしくて意味の分からない肩書きを持っていて。
さらにさらに、自分がそんな女の子のたった一人の従者として一緒に暮らすことになってしまって、もう……
本当にびっくりしました。
ようこそ、ごきげんよう、遠い世界のおともだち。
私の名前はキリエ。
精霊呼び(目に見えない生き物の力を借りて魔法を使う人)のキリエです。
ここは名前のない小さな島。
陸と海がほとんど消えてしまった、空だけの地方に浮かぶ、魔法仕掛けの島です。
あるのは作りかけのお城と、飛行船発着場ができたばかりの草原、そこを横断する川を挟んで、おばけの出る森くらいのもの。
それはまるで、大きな物語が終わった後の、役者がみんな退場してしまった舞台のようで。
けれど、のんびり流れる空っぽだらけの日々は、不思議と心を満たしてくれます。
今日は朝から洗濯日和。
風は西上おとなしめ。
「あら、おはようございます」
古い石造りの高台で物干しロープをかける私のそばを、一隻の中型飛行船がゆったりと通り過ぎていきます。
人々を乗せたゴンドラ(ここでは蒸気機関車の客車のような形状のものを指す)の上に、白く輝く布のエンベローブをたっぷり膨らませ、まるでのんびり屋の魚のようです。
これからこの空のいったいは、『越界飛行船』と呼ばれる空飛ぶ船でにぎわい、それは夜まで続くのです。
そして、そろそろ朝ごはんには遅い時間にさしかかっているのに、お城でぐうぐう眠っている甘えんぼうの女の子が、この世界の、そして、この物語の主役です。