たまねぎ新天地をお目指しになる
街の中を隠れながら走る。まだ騒ぎは屋敷内で収まっている。急いで街を出れば撒ける可能性がある。
だがこちらは貴族の御子息を連れている。人目に付くのは避けた方がいいだろう。
何かがあるとすれば門だろう。何かしらの方法で番兵だけには伝わっている可能性がある。
強行突破は難しくないので、門での問題もないだろうけど。
出口が近づく、このまま何もなく闇に溶け込むことが出来ればいいが
「待て」
入る時に出会った番兵が、門を通り過ぎようとする3人を止めた。ヤワメがギロリと睨みつける。
「選別だ、持っていけ」
オニオンに布袋を渡すと、番兵は道を開けてくれた。
「感謝」
オニオンはぺこりとお辞儀をすると、3人は闇の中に消えていった。
街を出て、随分と走った。もうここまで来れば安全だろう。今は少年がいるので休息が必要だ。オニオンが背負うと言っていたが、少年はそれを丁重にお断りした。
「何故、殺した?」
「あいつは数々の悪事を働いていた、遅かれ早かれ裁かれていたさ。それがちょっと早くなっただけのことだよ」
ヤワメは何の気もなしに言った。が、オニオンとの旅はここまでだろう。悪人とは言え、人を殺した妖精と一緒にいようだなんて奇特な人間はそういない。
と、ヤワメは考えていた。なら最後に忠告くらいはしておいてやろう。
「が、この結果は半分キミが招いたものだ。何の情報も計画も持たずに走った。もし何かしら考えていたら、もっと穏便に済ませられていたはずだよ。この子がこんな目にあうこともなかっただろうね」
ヤワメは街に入った時点でこうなる事があらかた予想出来ていた。
特殊魔法で欲しい情報を街から仕入れていたのだ。人身売買、殺人、その他色々な悪事をフルーレンベルジュが行なっているということを、ヤワメは見て聴いた。が、オニオンにその情報を伝えても無駄だということは分かりきっていた。彼女は何故かフルーレンベルジュを盲信している。それなら少しばかり痛い目を見てもらおうと、ヤワメは思っていた。
「分かった。これからはヤワメに相談する」
オニオンの言葉にヤワメが目を丸くさせる。
「おや?それはまだ一緒にいていいってことかい?人殺し妖精だよ?」
「もちろん」
ヤワメはすっかり忘れていた。オニオンは奇特な存在だということを。しかし、なぜか少しだけ嬉しさが込み上げていた。
「ヤワメは、お財布」
「おやおやおやおや〜!?」
何はともあれ、2人はまだ別れずにすみそうだった。
「そんな事より、少年はいいのかい?」
「はい。父がよくない事をしているのは知っていましたし、ボクに興味がないことも分かっていましたから」
少年は淡々と語る。よほど愛想を尽かしていたか、人間が出来ているというか。純粋な子供のまま、あの大人から引き剥がすことが出来たとすれば、幸運なのかもしれない。
「あの屋敷にいたままだったら、父の悪事が世に出た時、一家全員死罪に合っていたでしょう。あなたたちが来た時、ボクをここから連れ出してくれる。不思議とそんな気がしたんです」
なんというか、ヤワメは驚愕していた。
あの親の元で育ったのであれば、どんなわがまま少年が出てくるのかと思っていたが。金にしか興味がない性格が吉と出たか。
「最悪、父は殺されるだろうという気はしていたんです。なので、ヤワメさんの事は恨んでいません。むしろボクも共犯ですね。予感しておきながら、止めなかったんですから」
ヤワメの目から涙が溢れる。ええ子や。こんな子供が例えあの時なにか主張した所で、何も変わる事などなかったというのに。
「ボクはフルーレンベルジュを捨てます。少しの間、2人について行ってもよろしいでしょうか?」
「もちろんそのつもり」
オニオンは即答した。
相談しないのかとヤワメはツッコミそうになったが、同じ意見だったので特にそうは言わなかった。
「では、これからボクの事は、ゴートと呼んで下さい」
かくして3人の旅は始まった。とりあえずの目的は王都だ。
本日未明、120を超える殺人を犯したとされている男が死亡した。男は人間に火を放ったり、イベントごとで人が集まっている場所を爆破したり、意味もなく解体しては放置したりと、恐ろしい人間だった。彼の名は冥。だがすでに異世界に来ているオニオンたちに、そんな事は関係ないのであった。
第一章、完!!