たまねぎ屋敷にお着きになる
力のオニオン、技のヤワメ
それから数刻ほど歩いて森を抜けると、目前にどでかい街が見えた。
「見えた!あれがフルーレなんとかがいるかもしれない街だよ」
ヤワメが指さしながら言う。「ふるうれんべるず」とオニオンは指摘した。
「どうでもいいよ、私は早くお布団で寝たいんだ。キミの肩も居心地悪くはなかったけどね」
ふかふかお布団、オニオンに必要はなかったが、興味はあった。ふかふかお布団はとても気持ちが良いらしい。
「お布団」
目を輝かせながら言う。今彼女の中で、フルーレンベルジュとお布団が戦っている。
「まずは、ふるうれんべるず」
フルーレンベルジュが勝った。ヤワメは諦めたように「はいはい」と返す。
2人は街の門までたどり着いた。今はその門は開かれており、2人の番兵が立っているだけだった。
「やあ旅の方。ようこそ」
その内の1人が気さくに声をかけてくる。
「ふうれんべるずはどこ?」と言いかけるオニオンをヤワメが急いで止める。
「お仕事お疲れ様。少し滞在したいんだけど、問題ないよね?」
「ああ、問題ないよ。ただ街に入るとなると少しお金が必要なんだ」
入市税というやつだ。関税?まあ入るのにお金がいると言う事だ。
「おやおや?ここには、そんなものなかった気がするんだけど?」
「ここ最近決まったんだよ。重症人だろうと金がなければ入れない。オレはすでに何人か見殺しにするはめになっちまったよ」
番兵はやれやれと肩をすくめる。
「ふうん、辛いお仕事だね。まあお金なら多少あるから大丈夫だよ」
もちろんオニオンはお金など持っていない。だがヤワメには多少蓄えがあった。
ヤワメがパチリと指を鳴らすと、何もない空間から硬貨が現れ、番兵の掌に落ちる。
「すごい!次元魔法というやつか!初めて見たなあ!!妖精を見られただけでもラッキーだと思ってたのに!!」
番兵がキャッキャと騒いでいる。
ヤワメは得意げだ。
「ヤワメは、お財布」
「おやおやおやおや〜?その言い方はあんまりよろしくないんじゃないかな!?」
「あははは!キミたちは相性ピッタリみたいだね」
オニオンとヤワメのやりとりに、番兵が茶々をいれた。
「おや?どこを見てそういう結論を出したのかな?」
もちろんヤワメは不満げである。
これはやばいと思ったのか、番兵は咳払いをしたあと、真面目な表情に戻る。
「なにはともあれ、これで問題はないよ。改めてようこそ」
ヤワメもこれ以上追求するつもりはない。
お礼を言い、街に入ろうとする。
「ああ。もしもフルーレンベルジュに用事があるんだとしたら、気をつけてね」
横を通り過ぎようとするヤワメに、番兵がそっと耳打ちをした。
ヤワメに告げてくる辺り、この人は有能なんだろうなと感心しつつ「ありがとう」と感謝を示した。
街はとても活気に溢れていた。
というほどでもなかった。普通だった。
ただ、行き交う人がオニオンをチラチラと見る。和装か洋装か、古風か現代風かよく分からない服装をしているからだ。美しい顔立ちも相まって、どこぞの令嬢かと思われているのかもしれない。とすれば、妖精を連れている事にも合点がいく。
ちなみに、街の人々の服装はファンタジー系でよくある服装をしていると思っていただけると、都合がいい。
「ふるうれんべるずを探さないと」
街がそれなりに大きい分、それっぽいお屋敷も結構な数がある。ひとつひとつ尋ねるのは面倒くさい。それに不審で仕方がない。
「ああ、ちょっと待っててね。今情報を集めているから」
「ふむふむ、なるほど」「うーむ」「んー?ああ……」などとヤワメがひとりごちる。時折考え込む姿勢なんかを取ったりもしている。オニオンは置いてけぼりである。
「はあ。まあ場所はわかったよ。あっちだね」
と、ヤワメはあるお屋敷を指さした。
オニオンたちは早速その場を目指した。
屋敷の前にも警備兵が立っていた。
オニオンはその兵士にフルーレンベルジュに会いたいと告げるが、無論はいそうですかと許可は出ない。
しかしオニオンも引き下がるつもりはない。
半分口論のようになる。合わせろ合わせないの繰り返しではあるのだが。
「騒がしいな」
すると屋敷の中から、2人の護衛を連れたヒゲモジャが現れた。綺麗に装飾をされた服を着こなしている。彼こそがフルーレンベルジュ家の当主だろう。
「前世でお世話になった人がいる。合わせて欲しい」
一般の方なら、その威圧に圧されていたかもしれないが、オニオンは赤ちゃんである。怯む事なく当主へ告げる。
当主はそんなオニオンをじっくり吟味したあと、下卑た笑みを浮かべながらこう言った。
「怪しいやつだな、捕らえろ」
当主の声を聞くや否や、護衛が手に持った獲物をオニオンに突きつける。
抵抗するのなら、オニオンの身体能力では容易くここを乗り切れただろう。しかしここはフルーレンベルジュ。彼女は言われるがまま小さな地下牢にぶち込まれた。
意外であるとすれば、ヤワメが何の抵抗も見せなかったことだけだった。