たまねぎお戦いになる
2人は森の中を歩いていた。
そういえば、最初にオニオンがいた場所を説明していなかった気がするが、とりあえず今は森を歩いていた。
「この森を抜けると大きな街が見えてくるはずだよ。名前は忘れたけどね」
「把握」
「2人は歩いていた」と先程書いたが、実はヤワメは歩いていない。
妖精は空を飛べるからだ。
ヤワメはふわふわと空中遊泳を楽しんでいた。
「それより随分と遠くまで来たけど、疲れてないのかい?」
2人は2日間ずっと移動をしていた。
ヤワメはオニオンの肩で休憩したり眠ったりしていたのだが、オニオンはその歩みを止めていない。
1秒たりともである。
オニオンは疲れることがない。
神、すなわち母なる大地から生まれた彼女は大地からエネルギーが供給される。
オニオンは食事も睡眠も必要としない体だったのだ。
「平気」
「ふぅん、それならいいんだけどね」
と言うヤワメも、実は食事や睡眠を必要としない存在であった。最高位の妖精は大気中の魔素からエネルギーを吸収できる。
妖精界には、特に異質な力を持つイレギュラーな存在が2人存在する。
もちろん公言していないが、ヤワメはその内の1人だ。ヤワメは最高位妖精をも凌駕する、超究極凄絶激烈妖精なのである。すごいのである。
ただ、ヤワメは必要ないと分かっていても、休息や食事をする。10年という短い時間しか生きていないが、この体質のせいで色々と経験してきたからだ。
異質な存在は、決して他者から良くは見られないのだ。普通を振る舞うのがベストだと。
その点、さっき産まれたばかりだと言っても過言ではないオニオンには、まだその意識がなかった。
オニオンの体付きは成人女性のそれと言ってもいいほどに成長している。しかし、この世に生を受けてから10年しか経っていない上に、意識が覚醒したのが2日前である。赤ちゃんである。
「ところでキミは、このフルーレンベルジュさんに何の用事があるんだい?」
「前世でお世話になった」
「そういう事、私以外の前で言わない方がいいよ〜」
この2日間こんな感じでお喋りをしていて、さすがのヤワメも勘付きつつある。オニオンは危うい。知識や身体能力は凡人を軽く凌いでいる。
ただ一般常識があまりにもない。まるで幼児の妄言を聞いているかのような錯覚に陥る。
彼女もまた異質な存在であることは、もはや火を見るより明らかだ。
オニオンが初めて出会ったのが、ヤワメだった事はかなりの幸運であった。
下手に悪人に出会っていれば、確実に利用され、下手をすれば二度と日の光を浴びられないほどの闇に落とされていたかもしれない。
「なにかくる」
ふいにオニオンが口を開く。
少し遅れて、すぐ後ろで草むらがガサガサと鳴り出したかと思えば、そこから森のクマさんが飛び出した。
ヤワメが慌てて身構えると同時に鍔鳴りがした。
「あの一瞬で3回も斬るかよ……」
4つに分かれたクマさんを見ながら、ヤワメは小さくひとりごちた。