ほぼ1人言
「ふむ、困りましたね」
霊葱時代に少しだけいたことのある、美人に出会った謎空間。
ふよふよと1つ魂が浮いていた。
「まさか体を奪われてしまうとは!」
「なんて事をしてくれたのでしょう。腹いせに奴がいた世界に、未曾有の大災害でも起こしてやりましょうか」
「いやいや。そんな事をすれば転生のお仕事が忙しくなるだけ。感情で動くのは良くないですね」
「んー。まずは体を取り戻す事が先決ですが、腐っても神の体。どうしますかね?」
「ああ、そういえば。ええと、あったあった!」
魂がガサゴソと何かを探しているかと思えば、160cmほどある美少女型の人形を取り出した。
「3000年ほど前に人間から取り上げた魔道人形!」
「人間には過剰な技術で造られていた為に没収していたのですが、まさかこんな時に役に立つとは!」
「魔力で動く人形なら、私をコアの代わりに容れたら、これはもう最強ですね」
魂は魔道人形の中に吸い込まれていく。
魔道人形の目が青く光った。
「お、成功ですね」
魔道人形が口を開き、言葉を紡いだ。
異常がないかを動きながら確認する。
どうやら問題ないようだ。首を手首も足首も、ちゃんと360°回ってくれる。
「この子に名前はないのでしょうか」
型番か何かが書かれていないか、自分の体を隅々まで探す。
腰のあたりに何かが書かれているのを見つけた。
「んー。頭文字が潰れてて読めませんね。無視してしまいましょう」
「あ……る……す。ふむふむ、アルスですか」
なかなか良い名前だ。とアルスは何度か頷いた。
「さて、それでは行きますか。行き先は、こうで」
ぶつくさ言いながら宙を何度か指で叩くと、目の前にいわゆるワープゾーンが現れる。
「よしよし、それでは出発!」
意気揚々とアルスはその中へと足を踏み入れた。
視界が揺らぎ、アルスは世界に顕現した。
「ふむ、座標を間違えましたね」
彼女を迎えてくれたのは、雲1つない青空と、遥か下に見える緑だった。