執事フランシスに直球ストレートに聞くイザベル
「お嬢様、お支度の時間でございます。」
爽やかなテノールボイス、ドア越しから聞こえる声にイザベルは泣きそうになった。
フランシスだわ。どんなに会いたかったか。
「わかったわ。」と一言いうとイザベルは自ら支度をしはじめた。
ドレッサールームには、色とりどりのドレスが何百着も並んでいた。「何なの。この量、、」
ドレスを着るときは侍女達が手伝っていた記憶がある。待っていれば、彼女達が来てドレスを着せてくれていた。
平民となり、自分で服を選び着る生活に慣れていたのでついドレッサールームに行ってみたのだが、、あまりの量に辟易してしまった。
茫然自失になって立ち止まっていた時、侍女の一人が来た。
「今日は、どんなドレスが良いかしら。」
平然を装いながらイザベルは聞く。
「お嬢様、こちらにいらっしゃったのですね。お持ち致しましたのに。本日は、晴天で青空が綺麗ですね。今日は、この空のようなブルーを基調とした中に美しいガラントのレースを散りばめたドレスが良いかと思います。」
「そうね。それにするわ。」
とりあえず返事したあと、このドレスの量について考えてみた。
当時は、あまり気づかなかったけれどガラント領は、服飾と海産物に恵まれていたとはいえ、このような贅沢ができるほど裕福だったのだろうかと。お父様は、確か、税金の不正をしていたらしいし。
さあ、どうしたものか。
支度を終え、フランシスとともに朝食の部屋に向かう。フランシスは、背の高い美丈夫で、銀縁の眼鏡が理知的で、歩く姿一つとってもスマートで美しかった。
少し後ろを歩くフランシスにイザベルは、「あなた、カミーユ様をどう思っているの?」と直球ストレートで聞いてみた。
フランシスは、ハッと目を開くとすぐに平静に戻り「どう思うも何も、宰相様のお嬢様でございます。また、カール皇子の婚約者様でもあります」と有り体な答えを述べた。
そうよね。そう言うしかないわよね。直球勝負は駄目よね。でも、こればっかりは、探っている暇もないし。どうしたら良いかしら。
「実はね。私、昨晩、夢の御告げがあったの。
来週の王室のお茶会で、あなたがカミーユ様のお茶に毒を入れた罪で捕まるというものなの。あまりにも鮮明で怖くなってしまったの。」
フランシスの端正な顔は、見るからに青ざめていた。
「お嬢様、、申し訳ございません。少々用事ができました。」といって足早に去っていった。