シャーロット
今日は朝からクラスメイトが騒がしい。近くにいた遥香に聞くと転校生が来るらしくそれも外国人らしかった。しばらくすると、担任が入ってきてクラスメイト達も各々の席に座る。
「よーし、今日はみんな書いてる通り転校生が来るぞー。」
「マジなの?しょーちゃん!」
因みにしょーちゃんと言うのは担任のあだ名だ。お調子者のクラスメイトがノリで付けたものなのだが本人は気にしていないらしい。
「そうだ。よーし、入ってきていいぞ!」
そう言って入ってきた子は金髪に青い眼をした綺麗な子だった。
「シャーロット・キャンベルです。日本には小さい頃に三年間住んでいました。よろしくお願いします。」
ペコリとお辞儀をした彼女は、そのまま真っ直ぐに空いていた私の前の席に座った。何か話しかけたほうが良いのだろうか、一人悶々と悩んでいると目の前の彼女はくるりと後ろを向き笑顔を見せた。この顔は男子が夢中になりそうだ…
「神山…七穂さんで良いのよね?」
いきなり話しかけられたので驚いたものの質問に答える。
「うん、そうだよ。分からないことがあったらなんでも聞いて。」
取り敢えず得意な愛想笑いを浮かべその場を凌ごうとした。
「良いの?良かった〜。これからよろしくね、七穂ちゃん!」
「あ、うん!」
彼女はまた前を向いて真剣に担任の話しを聞き始めた。
休み時間はいつも通り、遥香と陽葵と一緒喋ることが多い。今日は話題の転校生キャンベルさんについてのことだった。
「あの子可愛いよね!」
可愛いものが大好きな遥香はいち早く反応する。まあ、可愛いのは私も同感だ。
「うん、お人形さんみたいだったねえ。」
陽葵も同意見らしく、ほんわかとした笑みを見せる。
すると、遥香がいきなり顔を険しくさせて三人にしか聞こえないであろう声音で話しかけてきた。
「ただ問題は、沙良に目をつけられないかが心配だよねー。」
沙良と言うのは本名を有島沙良と言い、このクラス一のモテ女で性格がかなり悪くて有名な女子だ。昔は陽葵も目をつけられていたからか、遥香は彼女を毛嫌いしていた。
「キャンベルさん、可愛いじゃん?ゼッーータイいじめられるって!」
遥香はもう確信している様で沙良を警戒する素振りをした。かく言う私も沙良の事はあまり良く思っておらず苦手な部類の人間だ。
その時、教室の隅の方から大きな声が聞こえた。二人もびっくりしたようで急いで後ろを振り向く。それは机が倒れた後の様で沙良が率いるグループが周りをぐるりと囲んでいた。
「ねぇあんた、あんまり調子に乗らないでね。このクラスでは私が絶対なの。逆らう様なら容赦無く潰してあげるから。」
そう言って高笑いをあげる。何がおかしいのかはよく分からないがキャンベルさんがいじめのターゲットにされた事はもう確実だった。
人の隙間からそっと様子を伺うと怯えた様子の彼女が見えた。胸が痛くなるが、私も沙良のターゲットにされるのはごめんなので無視を決め込む。遥香と陽葵も同感だったらしい。静かになっている。
「そう言う事だから。」
ぞろぞろと取り巻きを引き連れて沙良が教室から出て行く。クラスの緊張感も一気に解け、私もハァと溜息をついた。
「大変になりそうだねえ。」
陽葵は頬杖をつきながらのんびりと他人事のように言った。こんな時でもマイペースなのが彼女らしい。
結局、人間は自分が一番大事なのだ。今日初めて会った人を助けてあげる義理なんてないのだし、わざわざ傷つこうとも思わない。
正確には昔は死のうなんて考えていた時期もあったが、楽になりたい気持ちが大きかっただけだ。
ちらりとキャンベルさんを横目で見るが、可哀想と思うだけで特になんとも感じなかった。