戦犯
一方、天界では堕天使達三人がアメリアと言う名の堕天使に集められていた。と言うのもその中の一人、お調子者のアイザックが人間に姿を見られてしまった為である。アメリアは机にバンッと手をついて静かに言った。
『アイザック、貴方人間に姿を見られたそうね。何か弁解はあるのかしら?』
言わずもがなお怒りである。しかし、そんなアメリアの怒りも物ともしないものが此処に一人。
『弁解?そんなのないっスよ?神山七穂って言う子に見られたってさっきから言ってるじゃないっスかー。』
まるで自分は悪くないとでも言う様なヘラヘラした態度にアメリアは呆れ、一通の手紙をこの男に見せつける様に顔の前に突き出した。
『たった今○○○○様から手紙が来たの。』
『へえー。』
『これは貴方一人の問題なの。だからまずは貴方に一週間の女の子と遊ぶ事の禁止例を出すわ。近づくのもダメよ。でも罪を犯した私達はこんな軽い刑罰じゃ許されないの。』
アメリアは大きなため息をついた。アイザックが問題を起こすのはこれが初めてではなく、実に記念すべき三十回目のことなのだ。どうしたら言う事を聞いてくれる様になるのか、幼子を躾ける母親の様な気分だ。
『と言う事で、連帯責任になったわよ。皆に迷惑をかけているのだから少しは立場をわきまえなさい。』
『ハイハイ。』
『そんな訳で今日からこの子の見張りをするわよ。』
アメリアはアイザックの舐めきった態度に目もくれず、何処からか写真を取り出し机に叩きつけた。その写真に堕天使の一人リアムが反応する。
『先輩、この子って例の…』
『ええそうよ。神の決めた運命を捻じ曲げる異端な存在。どうしても目が離せないのよ。』
神は絶対であり、人間が自らの手で運命を捻じ曲げる事は無理に等しい。故に異端中の異端な存在を上の者達が見逃すわけがなかった。
『はーい、先輩。私この仕事抜けても良い?』
元気よく手を挙げて聞いてきたのは面倒くさがりで食いしん坊なルース。
『ダメよ。』
勿論、一刀両断されている。
『はい!今回の仕事って爆弾使って良いの?』
『絶対ダメよ。』
『ちぇっ。』
最年少であるリアムも爆弾マニアであり、いつも爆破したがる問題児だ。沢山の問題児に囲まれてアメリアは胃がキリキリとしていた。
もう少しまともな奴は居ないのかと叫びたくなる衝動にいつも駆られている。
『それで例の写真の子、この後の上が考えた運命は…
殺人を犯すらしいのよ。』
『マジっすか!』
『ふーん。じゃあ、家のお菓子漁っても怒られないよねー。』
『僕的には人間のことはどーでも良いんだよね。』
皆口々に自分の思った事を素直に言う。これでは話が進まない。
『貴方達の意見はどうでも良いの!大事なのはこの子のが運命を変えてしまわないか見張る事なの。余計なお喋りは慎みなさい。』
アメリアは机をペンでコンコンと叩きながら書類に目を通した。
『出発は明日!準備しておくことね。』
そしてアメリアは部屋から出て行こうとする。漆黒の翼を広げながらリアムの横を通るとき、リアムがアメリアの耳に気になる事をそっと囁いた。
『あの子、たぶん十年前の…』
『!』
『確証は無いけど…』
『調べてみるわ。』
今度こそアメリアはヒールの音を立てて部屋から出て行った。
『今回のはアイザック、貴方完全に嫌われたんじゃなーい?』
『僕もそう思うよ。多分嫌われた。アハハハハ。』
『何が面白いんだよ。しかも全然笑ってないじゃん!』
そう言ってアイザックは頰を膨らませてそっぽを向いてしまった。
(俺だってやれば役に立つんだよ!頑張るっスよ俺!)