『あの日』
いつも通りの日常が過ぎて、時は放課後。
今日は真っ直ぐ家に帰らずに、今はもういない両親の墓に七穂は行く事にした。
墓参りは『あの日』を思い出してしまう為、約四年ぶりだった。河原の土手に親子連れが一組、めいいっぱいの笑顔で歩いてくる。昔は嫉妬で狂ってしまいそうだったが、今は死んだ人が戻ってくることなど無いと知っていた。
今は今で楽しい毎日だ。仲の良い友達が出来、叔父さんにも愛されていると思う。それでも七穂の両親というのは二人しかいない。代わりなど居ないのだ。一瞬で幸せを取られたあの日から復讐に燃えてしまうのは、七穂が幸せだったと語っているものだった。
お寺には沢山の墓がある。沢山の人が亡くなったという事を表している。
この広い世界では沢山の人が毎日死んでいく。病死、事故死、殺人、自殺など死に方は沢山あるのだ。望んで死んだ人もいればそうじゃない人もいる。七穂の両親だってその中の一人で、決して望んで死んだわけではないのだ。病死?自殺?事故死?違う、殺されたのだ。それも七穂の目の前で。赤い鮮血が飛び散り、真っ黒なパーカーを着た男の笑顔は七年経っても鮮明に蘇ってくる。
ただこの事件の目撃者は七穂しかいなかった。殺した男は余程の手慣れで操作も難航した。それにその頃の七穂は心が錯乱した状態で顔もあまり覚えていなかった。そうこうしているうちに事件はお蔵入りと化してしまった。
それでも諦めたく無かった。事件から四年後の11歳の時、まずその時の記憶を頼りに町の人たちに聞き込みを始めた。
しかし、警察もお手上げだった事件に11歳の少女が犯人を割り出せる訳が無かった。
ただ、七穂には一つ心当たりがあった。事件の起きる一年前に変な人物に話しかけられた事があったのだ。その男の顔や身長、声はまるで抹消されたかのように忘れてしまっていたが、その日から両親は少しずつ周りを警戒するようになりおかしくなっていった。七穂には確信があった。その男こそ両親を殺した犯人なのだと。
しかしこの広い世界で一体どうやって見つけ出せば良いのか。それはもう、しらみつぶしに探していくしか無かった。家の近所を見回り、全国各地に従兄弟の蒼汰と共に出向いた。
それを六年間続けたが、未だ手掛かりは0だった。悔しかった。それと同時に復讐の炎も黒く大きくなっていった。
お墓の前で手を合わせる。久し振りに来たのに家にいるような感覚になった。暖かく幸せな日々を想像してしまい少しだけ、否、盛大に泣いてしまった。涙が止まらなかった。
沢山泣きまくって落ち着いてきた時、七穂は墓に刺してある一つの花に目をとめた。その花は黒と白の入り混じった柄をしていて葉は薄い水色をしていた。初めて見る花だった。
まじまじと花を眺めて花弁を触るとふわりと花は散ってしまった。残念がりながらも荷物を持ってその場を去ろうとしたその時、白と黒の煙が七穂に纏わり付いた。思わず目を閉じてしまい次に目を開けた時には特に変わりのない景色が広がっていた。
『先輩あの子、例の花触っちゃったみたいなんですけど大丈夫っスかね』
『大問題よ!何落としてんの、馬鹿じゃないの!』
『いや〜さっきからずっと謝ってるじゃないスか〜。』
『そういう問題じゃないの!ハァどうしましょう。』
『そんなことよりお菓子食べたーい。』
『ちょっと黙ってなさい!』
漆黒の翼を広げ飛ぶこの者達は何者なのだろうか?
変わりばえのしない夕空をゆっくりと飛んで行った。